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74 別れの二人

2017.6.14. 誤記修正

 静かな夜明けだった。周りには霧が立ち込めていた。


「さあて、主様。天下をあっと言わせましょうね。大丈夫ですわ、この斎酒が全ての厄を払います故。存分にお働きを」

「おう。天下を手中にし、そなたを迎えに来ようぞ!」

 夜明けとともに別れの杯を交わし合うと金吾は閨から抜け出し、ドアを開けた。


「斎酒、世話になった。次の会うときはそなたは、俺の嫁ぞ。つかの間の別れだが達者でな」

「はい、主様。お待ちしております」

 金吾の部下たちが待つ広場まで見送ると、斎酒は胸に詰まる想いから肩を震わせ、思わず涙を零し声も無く泣いた。


 金吾は、外で待っていた近習が整えた馬に跨ると、一度も振り返らずに己が待機するべき陣地へ向かった。そう、関ヶ原を見下ろす松尾山へ。戦場に彼は舞い戻る。


 ジョージがくつろぐ書斎に、斎酒は一人現れた。

「ジョージ君、我々の運も上昇機運のようだよ。ようやく、十名の捕虜の身元と他の勢力について大凡わかったよ」


「さすが、玲子ちゃんだ。この短時間のうちによくそれだけのことをこなすなんて。俺がやっていたら、半数は廃人にして残りのものは殺していたかも知れないよ」

 ふふ。まあ、正直なのね。一周回って嘘つきか正直者か、真意がどちら辺にあるのか解りづらいけど。


「今回、一番の大将格は小早川金吾、改め小早川秀秋よ。秀吉様の養子ね。今回の世界救出ミッションには打って付けのようね。やはり、ジョージ君は大きな運を持っているようね。さすが、私が惚れ込んだ男ね」


「はは、だが。いくら二人が惹かれ合っていようとも、所詮俺たちは敵同士最後には雌雄を決して戦う運目だろう?まあ、今日はいろいろ疲れただろうから少し休んでくれよ。今回のミッションでは、玲子ちゃんの役割が最重要だからな。戦いに入ったら、休んでる場合じゃないだろうからな」


 ことっ。いつの間にか俺の隣に椅子が置かれ、玲子ちゃんが俺の肩に華奢な身体がもたれ掛かっていた。

「すー、すー」


 寝るの早っ。でも寝顔が可愛いから、全力で許す。世界が全て敵に回っても、この瞬間の玲子ちゃんは俺が命を掛けて守る。


 

 ふっ、死んだ秀吉爺様に会えるかもと思って遠駆けに出て見ればあのような女子おなごに出会うとはなあ。俺にもわずかばかりの野望が残っていたことを、この世のものとも思えぬ快楽、夢心地を味わえるとは。

「気まぐれも、悪くなかったわ。誰か、誰かある?朝餉を持て。早う、三十分もすれば、戦場いくさばへ出るぞ。早う支度をせい!」


「殿、我らは、急ぎ戦に出る必要などございませんぞ。まだ序盤のうち、どちらに天下が転ぶやも知れませぬ。まだ、火中の栗を拾う時ではござらん!」



「ふふ、光成もさぞ慌ておることだろうな。この、秀秋を蔑ろにした罪、奴の命で贖わせてやるは。それに、家康の蔑んだような目を忘れたか。我が、手勢がこの戦場の勝利を早々に決定できねばいずれ家康の狸に冷や飯を食わされるのが目に見えておるは」


「しかし、殿。いまだ、戦の目はどちらに向くかも知れぬ時に天運を賭けずとも」

「ええい、臆病者目!この時を逃せば、この先、福島にでかい顔をされるは」


「ものども、出陣じゃ!手柄を立てよ。」


 この時の小早川秀秋の英断が、関ヶ原の戦いの勝利を東軍にもたらした。


「斎酒、待っておれ。必ず、迎えに行くぞ!」



 

 

 

 

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