69 台所
晩餐の料理はどれもとても美味かった。俺の記憶にあったアトワーレ家の食卓にこれほどの美味はなかったはずだ。それがこうも素晴らしい料理の数々が賞味できるとは、正直驚嘆を隠せない。昔の俺が味音痴だったのか?それとも、今の料理人が優秀なのか?
「母さん、昔よりすごく料理の味が美味いんだけど料理人を変えたのか?」
「ふふ、いいえ。料理人も昔と変えてないし特別変わった食材は使っていないわ。もし、以前より美味しく感じたならそれはジョージ、あなたの魔力感受性が向上した証拠ね。すごくいい兆候ね、アトワーレ家の未来は安泰だわ」
「ええ、マリア様。本日のお料理はとても素敵でしたわ。この世界の料理のレベルを推し量る知識はございませんが、大層立派な料理人をお使いのようですね。後学のため後ほど紹介していただけますか?」
玲子ちゃんが、興味津々で母さんにおねだりしている、なんか新鮮だな。
「西城斎酒さん、料理をお褒め頂いてうれしいわ。メインの料理が終わったら挨拶させるわね。光成に」
え、何?光成ってまさか、あの石田の光成とか、あはあ、まさかね。
本日のメインディッシュは、肉と野菜がふんだんに使われた料理だった。大きな土鍋が三つテーブルに置かれ、ぐつぐつと煮立っているスープからはなんとも美味しそうな香りがする。
思わず、近くの鍋の蓋を俺が取ろうとすると。ばしっ。
俺の手は扇子で叩かれてしまった。
「まだ、早い!もうしばらく待たれよ」
俺の手を叩いたのは、コックスタイルのやや痩せ気味の男だった。しかも、腰には短い日本刀を刺している
拵えが落ち着いているが高価なもののようだ。たしか、脇差とかいうものだろう。とすると、失敗したら腹切りとかするのか、おい。
「おお、奉行だ、鍋奉行が我が家に居たぞ、それも専属コックだとお。ごほん、母様取り乱し申し訳ございません」
「ふふ、この者は異国のサブライと申す者。今は、うちで台所を任せているのよ。これ、光秀。息子のジョージよ、挨拶なさい」
「ははあ。日本のサブライ、石田光成でございます、以後お見知りおきください」