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68 恋人たち

 あと少し、もう少しでマスターがいるあの部屋にたどり着けるはず。なのに、なぜ?


 疲れを知らぬはずのティーガーが、疲労の色を見せ立ち止まった。廊下の遥か先に見える目的のジョージの母親の部屋が霞んで見える不気味さに。あるいは恐れているある事実に立ち向かうことを恐れているかのように。

「でも、行かなければ。マスターがお待ちのはず」

 ティーガーはまた、あの部屋に向かって走り出した。しかし、その勢いはさっきまでの風のような早さとは雲泥の酷く衰えたものだった。


「ティーガーさんは、まだたどり着けないようね。追えば逃げる蜃気楼のように。ふふ、私は彼が来るのを待つとするわ。食事の用意ができる前にもう一杯ハーブティーをくださいな」

 西城斎酒さいじょうゆき)は、コーヒーカップをさげたメイドを何の気なしに見やりながら小さく笑った。

「ジョージは、わたしだけのもの」


「ああ、素敵よ。でも」

 マリア・アトワーレは自分に快感をもたらす者を訝しく思う。なぜこれほどあの方のように時に可愛く、時には頼もしく思えるのだろう?いや、既にジョージの父に出会った頃よりもずっと心がときめいている。

 ジョージの手が触れた身体の隅々が火照って仕方がない。

「マリア、どうした?ちょっと、激しかったか?もう少し加減した方がいいのか?」

 うっ、心配そうにのぞき込む息子の顔がとても愛しく感じられて幸福な気分になれる。そして、すごく感じる。

「いい、いいのよジョージ。好きに抱いて、思う存分楽しんで!」

「ああ、わかった」

 二人から飛び散る汗が舞うが、大きな虹色の羽根が優しく風を送るので熱くはない。魔法仕掛けの道具のようだ。


「どう、ジョージ。母さんも捨てたもんじゃないでしょ?」

「ああ、びっくりだ。家を追い出された時には、愛されてないんだとばかりに思っていたよ。それに、時が経ったのに前よりも若く見えるぐらいだ。ほんと素敵だったよ、マリア」

「もう、ふふ。でも、人前では母さんって呼んでね。マリアって呼ぶのは二人きりの時だけよ!」

「ああ、わかった。愛するマリアには、迷惑かけないよ」

「まあ、親に迷惑かけてもいいわよ。息子なんだから、でも一人前の男としては考えて行動してね」


「ところで、さっきのは半分冗談だけど。あの西城斎酒さんだったかしら?あの娘はどうするつもり、結構な力を持っているからアトワーレ家に迎えるのも可能そうだけど。本当にそのつもりがあるの?」

 心配げな顔でマリアは、ジョージの襟を直してやりながら目を覗き込んだ。


「ああ、玲子ちゃんは俺の嫁さんにしたいのはやまやまだが。帰ってきた最初に言ったように俺たちには、あっちの世界を救うという使命がある。だから、玲子ちゃんと結婚とかしている場合じゃないんだ。だから、情報がいる関ヶ原と豊臣の軍についての」

「わかったは、その日本の軍勢については調べておくわ。そろそろ、食事の支度ができたようだから行きましょうか」


 食堂に行くと、斎酒が既に席に着いていた。メイドに尋ねるとティーガーは、腹ごなしに運動して汗をかいたので着替えて間もなく来るそうだ。

 俺たちが待っていると、間もなくティーガーが食堂に現れた。

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