62 週末の世界4
「うわー」
ブラックホールに突入した俺たちは、過去と未来が同時に存在する状態に精神が耐え切れず意識を失った。
俺は、周囲を見回すと銀色のカプセルは全て蓋が開放されていた。俺の傍らには、徳子が居た。
俺の漆黒のマントを握りしめる徳子の肩が小刻みに揺れていた。
「嫌じゃ、もう皆が死んでしまうのを見るのは嫌じゃ!母様も、あんなに憎かった父様すら死んで欲しゅうないのじゃ!」
「ならば、お前の力で不条理な未来を変えて見せろ。お前が本当に俺の力を望むならば、そう言え。手を貸すぞ、徳子」
「ふふ、若いということは時に危うく、時に輝く。徳子や心のままに進むが良い、柳生の跡継ぎのように後悔を引きづったまま生にしがみ付くより何ぼかましよのう。」
「父様は、後悔していたのかのう?」
秀吉さんは優しい目で徳子を見やると、ポルシェの鍵を俺に投げて寄こした。
「このカイエンには、時空を遡る力がある。ジョージ殿、徳子をよろしゅう頼むな。己の信じた道を進めよ」
秀吉さんが、出ていくのと入替わりに鈍く銀色に光るSUVが無音でせり出してきた。
「よし、忘れ物を片付けに行くぞ徳子」
「わかった。西軍なんか、ずったずたにしてやるんだから。ジョージ、ぬかるんじゃないよ!」
現金なヤツだ、急に元気になりやがって。おれは、カイエンのエンジンを掛けると千六百年の関ヶ原を目指して急発進させた。俺たちの前方には、夜よりも暗き闇が現れ、バックミラーを見ると炎と虹の輪が淡く燃え、そして消え去っていった。
「まあ、なんとかなるだろう。なあ、ネコ」
俺の膝の上で当然のように丸くなっているシャム猫を左手で撫でてやった。
「マスタ、慎重に運転してください。あまり羽目を外すと次元の狭間で永遠に彷徨うことになりますよ!」




