59 週末の世界
「うわー!」
モニターには前方は虚無、後方は今にも口を閉じようとする虹の輪が映し出されていた。俺たちは、重力の方向が目まぐるしく変化するティーガーの座席で、明日と昨日、未来と過去を同時に感じるという奇妙な体験をしながら意識を手放した。
「まあ、ゆるりと休むがよい。茶阿、ご苦労じゃった。ジョージ殿も済まなんだな」
俺たちが目覚めるのを出迎えてくれた秀吉さんが労いの言葉を掛けてくれたのは、大分時間が経ってからのことだった。既に、テスタ、ティーガー、西城斎酒、徳子等は処置室から出て居室で休んでいるとのことだった。
「みなさん長旅で、精神的に疲れていますが体調は問題ないですよ、マスタ」
ちゃっかり秀吉さんの腕の中で寛いでいるネコが、報告してくれた。
「じゃあ、秀吉さん詳しい報告は後にするが、本気で未来はヤバイことになっている。今後のことは慎重に検討しないといけないようだ。俺も乗りかかった船だ、できる限り協力するよ」
「かたじけない、ジョージ殿」
「で、代わりと言っちゃ何だが、茶阿さんを借りるぜ、今日はもう仕事終わりだろ?」
「ふ、英雄色を好むか。よかろう、じゃが無理強いはしないぞ、茶阿。その方がしたいように振舞うこと、許す!」
秀吉さんは、お付の者を連れて去っていった。後は、若い者に任せてというヤツだな、これは。
俺は、茶阿さんの返事を神妙に待つ、うーん、ドキドキするな、こういうのは。
「ジョージ君、エスコートお願いしますね。明日は休みだし、全てお任せするわ」
「じゃあ、さっそく此方へ」
俺が手を差し出すと、茶阿さんは指を絡めて握ってくれた。
今夜は雲もなく星が、綺麗だ。銀河もクッキリ見えている。隣には美女が、鯱に腰かけている。
「寒くないかい?茶阿さん」
「平気よ、南極に比べたら、それにここなら私の忍術も十全に発揮できる。何しろ新生大阪城の天守閣は私が建てたのよ。だから私や、秀吉様の使用するときの守護効果は通常の三倍ね」
日本の技術で作られた物には通常の攻撃力や耐久力以外に、守護効果という特別な力が付随する場合がある。守護効果は、製作者の技能が極めて高い場合や制作時の思い入れが強い場合に付加され、所有者や製作者が使用する場合に攻撃力や耐久力にプラスアルファの効果がある。しかし、守護効果で
三倍とは、伝説級の築城能力だな。
「そうか、ここでは茶阿さんの防御を抜くことは出来そうにないね。なら茶阿さんに気兼ねなく聞けるね。
力で無理やり聞くのでは無く、その本心を。」
「なあに、改まって」
「茶阿さん、あなたは一体何者なんだ。秀吉さんの女忍者ってだけじゃ説明つかないよね。本当は、正体なんかどうでもいいんだが。俺はどうしようもなく茶阿さんに惚れている。だが、このまま過去に干渉した時、茶阿さんと俺の関係はどうなるかわからない。だから、事前に知っておきたいんだ!」
俺は、隠しから取り出した冷えた飲み物を、ワイングラスに注ぐと一つを茶阿さんに渡して乾杯と捧げ持った。
「乾杯」
「私は、茶阿、加藤茶阿よ。今は、それだけ。もっと言うと、ジョージ君に恋している一人の女、それだけよ」
「ありがとう、俺も愛している」
俺たちは、少し長めのキスをした。明日になれば、それとも過去を変えれば変わってしまう関係かもしれないが今は、永遠だ!そんなことを、キスの最中俺は考えていた。