56 終末の世界5
2017.2.23 誤字修正
さて、円盤にだいぶ近づいたが相手はどう動くか?
「現在の高度一万メートル、円盤との距離五km、依然敵対行動は認められず。マスタ、行動は慎重にお願いします」
ネコが慎重な行動を求める。俺の行動が人類の行く末を決めかねないから至って当然なんだろうが、俺って信用無いのな。記憶に残ってないが、前世で散々やんちゃしている俺の尻拭いをしてきたネコにとっては当然俺が無茶するのは覚悟しているのだろう。既に兵器関係と脱出装置のシミュレーションは百ケース以上の数で検証を終了していると、ティーガーがこっそり教えてくれた。
「心配性のネコさんも付いていますが、マスターは私が守るから、安心して」
義眼を怪しく煌めかせて、ティーガーが囁く。
「マスタ、円盤から誘導信号を受信しました。どうされますか?」
招待されたら、行くしかないか。相手の真意がわかるかも知れないし。
「よし、円盤の指示に従ってくれ。ティーガーも気を付けろよ。」
「はい、マスター」
「ところでジョージ君、円盤のこと信用していいの?罠かもしれないわよ」
「しかし、ここまで接近を許してくる相手ならいきなり攻撃してはこまい。虎穴に入らずんば虎児を得ずと言うしね」
円盤の中では、蠢く何者かが息を潜める。
ふう、我々はここで失われてしまう掛け替えのないものを回収するだけ、原住民を刺激する必要はないのだが。
「こういう時は、エージェントに頼むか。原住民同士のトラブルなら銀河憲章に抵触しない。すぐに呼べ」
「流石は艦長、なかなかワルですね」
「ちっ、ちっ。この星では、『越後屋、そちも悪よのう』と言うのが習わしだぞ、副長」
「そこまでは、この星の風俗を勉強していませんでした。ところで、エージェントと原住民の会合準備、完了しました」
「ご苦労、副長」
「ティーガー、ハッチを開けてくれ。みんな無事円盤の中に到着したが、これからが本番だ。気を抜くなよ」
「ジョージ君、いつの間にかリーダーぽくなって、お姉さん感激よ」
「こら、そうやって茶阿さん、茶化さないでくれ。俺も真剣に取り組んでいるんだから。うん?だが、何を真剣に?夢じゃないのか、まあ今日は、気合が乗ってるんだから本気で行くよ」
「マスター、気をつけて。気配がする、それも邪悪な」
「言ってくれるわね、骨董品の戦車の分際で。久しぶりね、探偵さん。あっ、今は魔術師さんだっけ?黒いマント似合ってるわよ」
格納庫から出た俺たちを通路で出迎えたのは、俺たちも知っている綺麗な女性だった。
「南条由紀さん、え、でも。さっきまで、あなた地上でテスタと戦っていたはずね。どうやってここへ、先回りしたの?」
振袖姿で両手を腰に当て、足を開いて睨む茶阿さん、すごく南条さんを疑っているようだ。
ふふ、南条さんが皮肉な笑みを浮かべる。
「たしか、加藤茶阿さんね。初めまして、私は南条結城よ。あっちの世界で探偵さんにお世話になったわ。これが最初の質問への答えね。こっちの世界の南条由紀とは、別人なのよ、私は。まあ、姿が同じなのは、どうしようもないけど」
う、ウジ虫?なんか変な姿がフラッシュバックする。
「南条結城、課長?マゴットちゃん?正直、前世の記憶はほとんど無いんだが。まあ、いいか。ところで、俺たちは別に戦いに来た訳じゃないって判って貰えているかな?」
「ええ、歓迎するからついて来て。こっちよ」
南条結城が、俺たちを応接室に案内する。
「くつろいでね、お茶にしましょう。何か苦手な物とかあるかしら?」