51 嘆願
2017.2.26 誤記修正
「それは、駄目じゃ大勢の日本の民を犠牲にすることは絶対にしてはならぬ、うぅん!」
振袖姿の胸の小さな少女が、部屋に入るなり艶っぽく叫んだ。狙っているのか目じりに涙まで浮かべて、どういう精神攻撃なんだ、厄介な奴だ徳子も。
「だが、例え同胞が何万人も滅ぶ運命が定まっていても、地球が崩壊するよりはマシでしょ。大人になりなさい、感傷は捨てて、ね。徳子よ」
玲子ちゃんが、優しいパティシエではなく社長モードで説教している。うーん、こっちも素敵だ。
「ネコ、概略シミュレーション出来ているよな?だったら、このまま放ってておいたら地球がどうなるか徳子にもわかるようにそこの3Dスクリーンでプレゼンしてくれ。徳子、よく見ておけよ。我がままを通すと、結果的により大きな被害が訪れるもんだ」
3Dスクリーンに日本を中心とした地球の立体画像が投影される。ふと南極とか下の方はどうなっているのか気になっていると視点が移動し、下から、南極の方から眺める形になった。南極が分厚い氷に閉ざされている。うわ、南極の上空には巨大な大陸が浮遊していた。
氷は極点から南緯四十五度までを覆い、じわじわと赤道の方にを侵食している。ちょうど南アメリカ大陸の南端やニュージーランドの一部が分厚い氷に覆われていた。
「これが、大凡三年後の世界です。地球上の生命は現在の三分の一に減少しています。極点の上空に浮遊しているのは伝説の大陸ですが、この現象などはシミュレーションを実行するたびに変化します。巨大生物が炎を吐いていたり、城が浮かんでいたり、巨人が群れていたり、小惑星の衝突によって巨大なクレーターが出現していたり、もう何でもありですね」
ネコが、ざっくりと三年後の世界を解説してくれた。結末は人類の終焉だが、そこに至る道は様々だと云う。
徳子が、下を向く。
「だからって、昔に戻って今までの歴史が無かったことになるなんて。嫌なことだってあったけど、良いことも確かにあったんだよ。みんなにだって、いえ、今を生きる人には現在が全てよ、それを無かったことにする権利が私たちにある訳無い!」
感情が激したのか、徳子は身体を震わせ涙を浮かべて、最後は叫ぶ。
「一度、世界の終焉を体験されては如何ですか?あくまでもシミュレーションによる疑似体験ですが、絶望の世界を感じられれば今の感情論がいかに愚かか理解できるでしょう。ジョージもどう一緒に、大丈夫危険は無いわ。ねえ、ネコさん」
玲子ちゃん、いや、西城斎酒がとんでもな提案をする。
だが秀吉さんが、無言で頷くのを見て、徳子も決意したようだ。
「わかったわ、でも、ジョージも一緒に来てね」
ふう、俺は漆黒のマントの埃を払う仕種をしてから、仕方なく肩をすくめて頷いた。
「ネコ、大丈夫なんだろうな。まさか、二度と現実に戻れないとか、寝たきりになったりしないよな?」
「マスタは、心配生ですね。大丈夫です、テストは十分行っていますし、私も一万回ほど検証して問題ないことを確認しました。だから、気楽に、力を抜いて。では、蓋を閉めますよ」
俺は、銀色のカプセルに横たわっていた。同じようなカプセルが幾つも並ぶ、秀吉さんも、玲子ちゃんも徳子もその中で眠っている。いや、三年後の世界を体験しているのだろう、俺も間もなくそちらに旅立つ。
ちょっと、怖いな。いや、だいぶ怖い自分の意思で別の世界に跳ぶのは疑似とはいえ、今まではただ巻き込まれただけだからな。
次回から3章へ突入




