50 スイーツ
玲子ちゃん謹製スイーツである大阪城とバージ・カリファが披露されると女性客からは綺麗とのどよめきが零れた。よだれが零れるのを我慢しながら俺もすぐにかぶりついた。大坂とドバイ、魅惑のスイーツコラボは口の中に至福の時を巡らせてくれた。
やはり、天守閣の鯱は絶品だ。名古屋コーチンのボンジリをフライにしたことで、甘さだけでない塩気が絶妙なアクセントとなっている。
今回は、隣に控えたバージ・カリファを構成する青みがかったビルの壁面部分はハスカップ・ゼリーを使用したと見えて、土台のホワイトチョコケーキで甘くなった口を、甘酸っぱさがいい塩梅にすっきりさせてくれる。
周りを見渡しても好評なようで追加のスイーツをボーイさんたちが、せわしなく運ぶ姿が何度も往復していた。
「玲子ちゃん、当たり前だけど今日のスイーツも美味しいね。今度うちにも作りに来てよ」
「ええ、いいわよ。他ならぬジョージのためならね。でも、お嬢ちゃんたちに、ブッすり刺されるのは御免被りたいから、守ってね、私のことを」
ティーガーの顔が喜びと心配でころころ変わるのを面白そうに揶揄う玲子ちゃん、まじ小悪魔っぽいな。
「うむ、西城社長、わしからも頼む、偶にはこのような菓子を作っておくれ」
おお、秀吉さんも玲子ちゃんのスイーツに首ったけか。こりゃ、天下取ったようだな、玲子ちゃん。
「それは、こちらこそお願いしたいところですわ、秀吉様。特異点が現れる可能性はやはりこの日本の中心である大阪城の可能性が一番高いので頻繁に観測にくる所存です」
「ほう、ならばいつでも大阪城に宿泊できるよう手配しておこう。」
「ありがとうございます、秀吉さま」
「ところで、色々内密な込み入った事情もありますので場を移してお話しませんか?私の懸念は、既にそちらの女忍者からお聞き及びと思いますが」
「確かに、茶阿から報告は受けておる。ジョージ殿とお仲間とでわしの部屋に来て貰えば良かろう。茶阿は、徳子を連れて参れ」
茶阿さんは、秀吉さんに一礼すると会場のあちこちにいる部下たちにアイコンタクトを取ってから、少し離れた所でこちらの様子を窺う徳子の方へ歩いて行った。
ステージにスポットライトが当たり、アップテンポの音楽が流れ出す中、5人の少女たちが姿を現わす。
俺たちの移動が目立たぬよう、ステージでは眼くらましのステージが始まっていた。色とりどりのミニのステージ衣装で5人組のアイドルがにこやかに踊り、歌っている。
「良いころ合いじゃ、では参ろうか。あまり目立たぬように注意するのじゃぞ」
俺たちは、VIP専用の転送装置を使用して秀吉さんの茶室に招かれた。
「では、正面の大型ディスプレーを見てくれ。大凡関ヶ原からの四百年で日本、いや地球の合致度が元の世界から十パーセント程ずれておる。百年で二.五パーセントだから大したこと無いと思うかも知れぬがこれが十五パーセントを超えた場合、とてつもない事が起こるだろう。しかも、最近の変動値は異常に上昇しており二年後には、合致度のずれが十五パーセントに達すると予測しておるのが多数の研究者の見解じゃ。この辺りは、斎酒殿の機関での予測とどうじゃな。あまり変わらないと思うがのう」
「そうね、あと三年以内に適切な手を打たないと、次元断層の崩壊が始まると予測しているわ。そちらの研究者の意見とほぼ一致ね。で、回避手段だけど。改めて言わなくても判るわよね」
「関ヶ原のやり直しか?ふーむ、しかしのう。それじゃと日本の民の命が多数奪われることになるのう。関ヶ原の後、徳川が天下を治める歴史へ戻すと、今から約七十年程の昔に未曾有の大惨事がこの国を襲うことになるのじゃ。それだけは、どうしても回避したい」
秀吉さんは沈痛な面持ちで、言葉を切った。