29 弥勒
年末で、投稿が遅れました。まあ、独自解釈です。
2017.2.16 誤記修正
あの巨大な仏像が、弥勒菩薩か。「器用なもんだな、よくもあんな格好で近づいて来れるなあ」
俺の声が届いた訳でもないのだろうが、弥勒が目の前に結跏趺坐で座った。
「この界隈では見かけぬ顔だの、何者だ?」優しげな表情の仏像が尋ねる。
「俺はジョージ、異世界から来た元改造人間だ、転生して魔法使いになったが試験で振わず修行の途中でこの世界に来た新参者だ、よろしく」
素直に正体を晒してみた、吉と出るか?
「なんと、改造人間とな、摩訶不思議な響きじゃ。もしかしてブッちゃんの知り合いか?」弥勒が妙な所にロックオンして来た。
「弥勒菩薩の伝承からブッちゃんは、仏陀のことだと推定できます。有利に交渉を進める機会です!ここが勝負所ですよ、ジョージ君!!」日本一のガイドの助言、無駄にするのは惜し過ぎる。
「弥勒サマ、五十六億年の永き旅、ご苦労様です。ちょっとした中二野郎の世迷いごとや、物言いで心が揺れるとは情けない、仏陀が聞けばそう嘆くでしょうな」
俺は、挑発気味に揺さぶってみた。
「そのほう、本にブッちゃんの知り合い?ブッちゃんの近況を教えてたもれ、改造人間よ」
「今だ、最大威力の魔法でトドメを!」茶阿が叫ぶ。
俺は、場に飲まれて最強、最悪の魔法を放った!
ずおーん、闇が弥勒の周りを徐々に覆い出す、背後から稲妻が弥勒の手足に纏い付く。
「おお、そこ、そこ。中々いい感じじゃ、お主改造人間でマッサージ師かい?」
「いいえ、元改造人間で今は、ただの魔法使いですよ。ところでお客さん、痒い所は無いですか?」ヤケ糞気味に聞いてみた。
「マスターのあの怪力にはそんな秘密があったのですね」ティーガーが妙に大阪城のイベントを脳内検証して納得している。まあ、間違っちゃいないが、何故かこの世界に来てからは普通に改造人間の力が出せたりしている、転生先では足手まといだった過去の栄光的な力が、真実の力として発現している。やはり、科学の世界と魔道の世界では、根本法則が異なるのかも知れないなあ?
「ならば、この力受け止めてみよ!改造人間よ」弥勒が右手を拘束していた、稲妻の手かせを引きちぎって俺の脳天にチョップを振り下ろす。
「うわーっ、元改造人間なのでお手柔らかに!」とりあえず、俺は両手を交差して頭部を防御しながら弥勒のじゃれ付きを何とか凌いだ。
「なんと!我の一億分の一の力を防ぐとは、先ほどまでの戯言は許す。して、ブッちゃんの近況は知らぬのかえ?」
「はい、おおよそ二千四百年前に死んだ一大宗教を立てた偉い坊さんとしか知りませんよ」
「そうか、ならばあと五十六億六千九百九十九万七千六百年は待たねばならぬか、ふう厄介な仕事を請け負ってしもうたな。過去の自分を殴ってやりたい気持ちになるのう」
「御心中お察し申し上げます、ところで弥勒様におかれましては。死んだ者を蘇らせる力をお持ちとか、なにとぞお力をお貸し願えませんか。この者の仲間が、成仏できませんで」茶阿さんが言葉巧みに、ここへ来た目的の核心へ挑む。
「ふむ、その少女の首飾りには、確かにこの世界への妄執、改造人間との強い因果が観られるのう」おお、そこまで判るのか。俺は期待に胸が震えた。
「ならば、代わりと言っては何だが。我の頼みを聞いてくれるのなら、そのテスタという者の蘇りに力を貸そう」