28 機会
翌日、俺たちは徳子の案内である寺を目指すことになった。
「弥八、そこ右じゃ、遅いっ!もうー、また左の小道に入って、次は素早く入れよ!」巫女装束におかっぱ頭の少年が吠える。
「む、何か失礼なこと思ってないか?」徳子が目を吊り上げて問うた。
「いやあ、なんか道に迷っているのか?さっきから何度も行ったり来たりしてさあ。それに進路の指示が急過ぎるよ」
「ジョージ君、きっと時と方位に意味があるのよ、私たちが行くのはそういう神秘の場所」ガイドモードの茶阿さんが茶色のスーツで決めて、推測混じりに解説してくれる。
「さすが、そなたが見込んだガイドよのう。気づいておったか?左様、案内する先は時の流れがのう、こことは違っておってなぁ。あちらとこちらの世界の時が合致する最良のタイミングで、良い方角から入らぬと、弾き返されたり二度と戻れぬかも知れぬのよ」よし、助手席の徳子が弥八を小突く。
「近いぞ、そこ右じゃ!」弥八さんが、すかさず右にステアリングを切る、崖から車が落ちる。
「なにー、落ちる!「マスターは私が」、「くっ、対ショック閃光防御!」俺、ティーガー、茶阿さんが同時に叫ぶ。一つ変なセリフがあったかも。
「よし、もうすぐ着くぞ!うん、どうかしたのか?」悪戯っ子の微笑みで俺を見やる。
「まあ、BMWって車も丈夫なんだなってさ」なんだよ、俺の愛車を知らないのかよ。これだからガキは。
目の前に寺の門が見えた。
「でも、これポルシェカイエンだしね」徳子は、嘆く運転手の弥八に構うことなくさっさと降りて門へと歩み寄り片手で開けると俺たちの方に振り向いた。
「早く来ぬか、あまり悠長なことはしてられぬぞ」
「ティーガー、行くぞ。あいつを取り戻す、たとえ戦いへなろうとも」「はい、マスター」俺の後へティーガーが続く。
「お嬢、俺はここで車を確保しているから、決して昨日飲みすぎたから車で寝てたいとかじゃないぞ」徳子が睨むとなんか目が泳いでるけど、見なかったことにして巻いて行こうぜ。
俺たちは、しばらく歩くと大きな庭に出た。岩が不規則に並びその周りは白砂が敷き詰められているが池や小川等の水物は一切ない。これが、いわゆる枯山水と言う奴か。
どごごーん、どしーん、どしん。腹に響く音が近づいてくる。「なんだ、あれは?」俺は音のした方を見上げた。
そこには、金色に輝く巨大な仏像がいた、右足を左足の太ももに乗せまま、片足で起用に跳躍しながら。俺たちに近づいて来る。
「ほう、あちらから出迎えてくれるとは、そなたはついてるのう」妖しく微笑む徳子。
「半跏思惟像で有名な弥勒菩薩、仏陀の死後五十六億七千万年の後に全ての者を救うと言われた方の仏像が。そうか、それほどの永い時を素で過ごせるわけがない。何らかの方法で時を超える力があるといううのね?」茶色いカメラで何枚も仏像の姿を撮影しながら、説明するのは茶阿さん、ガイドの鏡だなあ。