25 誤解
どう言うことだ、何なのだろう。少し足の感覚がない。だけど、意識ははっきりしているし胸の痛みとかも無い、あとどれぐらい時間の猶予があるか解らない。
「せめて、ティーガーだけでも救いたい」く、足の感覚が変だ。俺は徳子の方へいざり寄った。
そんな時、徳子が嘲笑いそして、俺の湯飲みに残った茶を一気に呷った。何だ、何がしたいんだ?
「ふっ、毒見をしたまでじゃ。弥八は、客人に毒など盛ってはおらぬぞ。それに、そんな楽しいことを他人に任せる気など私には無い」にやりと笑うと、いつの間にか消えていた弥八が座椅子を抱えて現れ、俺とティーガーに座椅子をあてがってくれた。
「異国からの来客に、正座させるのは酷であったの。もたれかかって楽にしておれ、じきに血も廻って足の痺れも引くからのう、そこの茶阿というたかの、刀を納めよ」俺の足を揉みながら、徳子が茶阿に笑いかけた。
「あ、足が痺れただけなのね。よかったぁ」茶阿が素直に刀を鞘に納めて吐息をついた。
「うん、毒は入ってない、足が痺れて混乱した。そう言えば、こんな座り方したの初めてだった。マスタ、ごめんなさい」ティーガーが頬を染めた。
「戯言に突き合わせてしもうて、済まなんだのう。ジョージ殿、今度は我らの話を聞いて貰おうかの」
「四百年ほど前にあった『関ヶ原』の戦いで西の軍勢に敗れた徳川家は、五大老筆頭の地位を追われ領地も減らされた。その後起こった世界を巻き込んだ大戦争では、当家の屋台骨を支える名だたる武将の末裔が異国の地で散って逝きおった。しかも、敵国の空襲を受けて焼け野原になったのは江戸だけじゃった。
これには当家も抗議したがのう。我が国の優秀な監視網に穴が開くなど、よりにもよって江戸空襲の時間に点検整備があったり、故障していたりで24時間警戒していたはずだったのに。それがポッカリ空襲経路だけ目つぶしされていたなど、何の冗談だと言うのかと」激したのか、徳子の握り拳は震えていた。
俺たちは、呆れてしまった。江戸の勢力を削ぐために、敵国の空襲を利用するなどとは俄かには信じられない。当然、大坂方は抗議を撥ねつけた戦時中に、そんなことをして何になると既に大坂方の支配は盤石、勝てる戦でもしかしたら負けるかもしれないような策を弄するなど。
多分、不幸な誤解なのだろう。度重なる不運、過去の栄華への未練、それらが凝り固まっているのだろう。
「そんな、馬鹿なこと、秀吉さんが許すはずがない。何で自国の国民を危険に晒す必要がある。そんなんじゃ、勝てる戦いも負けてしまうよ!」
「そうなのか。であろうな。そなたが、それほどまで信じているなら、秀吉も大悪党ではあるまい。私は、話したことがないので乳母や従者の昔語りでしか知らぬが、相当な長生きよのう。信じてみても良いかもな、そなたの信じた秀吉という男を」