19 御庭番
ちょっと、リアルが忙しくて投稿がおくれました。
我らは、志無き集団、そう、御庭番だ。映画、テレビ、小説などで描かれるような伊賀や甲賀忍者の仮の姿、というカッコいいものじゃない。
大昔の先祖が関ヶ原で裏切りに会い、各地へ散ってどうにか血筋を絶やさずに今日まで来たが、先祖伝来の術も科学に追いやられ、大阪の情けで生き延びる内に大義を見失い、観光地、特に神社、仏閣の清掃請負業者として生活の為だけに働いている。
小僧、お前に力を与えよう、そちの欲しがっている本物の力を!
「また、あの声が。もし、俺の欲する力が得られるなら俺がためらうものなどない、ただ、俺は女だ!それも飛び切りの美少女だ!」
つい、日頃のストレスから叫んでしまい、閑静な神社に乙女の叫びが響いたが、この平和な日本で騒ぎになることはない。
しかし、最近妙に心の声が漏れてしまう。俺の尊敬する吉宗さまのようにあらゆる毒を自在に操る能力が、「欲しいーーんだぁー!」
誰も滅多に訪れることのない神社の広い庭を、竹箒で掃除している和服の似合う少年のような中性的な少女がたまに叫んでいるが特に誰も気にしていない、もしかしたら本当に少女が一人で居るだけだと、通り掛かる人が居たら思うだろう。
徳川の姫様が、こんな寂れた寺の掃除を一人でなんて不憫な、「しかも、俺は、毒の力が欲しいとか。くっ不憫過ぎる!というか残念過ぎる」いつの間にか現れた、黒スーツの男が少女の掃き集めたゴミをごみ袋に詰めて袋の口を縛った。
「弥八、術をみだりに使うな、何度言わせる。それと、主筋の者に対して残念とは、何たる口か。成敗してくれる、そこへ直れ!」少女は、竹箒から抜いた刀で弥八の足元から袈裟懸けに切りつけた。
「おお、怖っ」言葉とは裏腹に弥八は風に乗り、木の枝に飛び移ると「では徳子様、大阪方の探索が入っております。くれぐれもお気をつけください、御免」
「何、大阪方が、これっ!説教は終わっておらん、待ちや!」うぬ、お調子者でも、流石に『風の弥八』と呼ばれるだけのことはある。
「早よう、切り上げて毒の修練に致そうか。大阪方め!」
パチンっ。茶色い堅めのスーツを着た綺麗な黒髪の女性が、スマホをテーブルに置いた。「あの黒スーツの男が、お庭番の一人『風の弥八』見てわかるとおり相当の使い手よ。それと少年みたいなあの少女、あれが徳川の残党が担ぐ神輿徳川徳子。徳川吉宗の孫にあたるわ、世が世ならお姫様ね」ふっ、寂しそうに笑うのは茶色いスーツを着た、隙のないガイドの茶阿さんだ。
御所の近くの茶店で監視ししていた俺たちに、突如現れた茶阿さんは隠し撮り映像を見せながら解説してくれた。この人のガイド料金、一体いくらなんだろう?つい、しょうもないことを考えてしまった。
ティーガーの右眼は伏せて置かれたスマホを注視し続け、ギラギラ輝いていた。