17 犠牲
少し、残虐描写があります、ご注意ください。
迫り来る肉の槍が迫る。俺は、動けず激しい痛みに身構えた。そんな俺の視界が真っ赤に染まった。ドゴーン!俺は、三メートル程ふっ飛ばされたが、大した痛みは感じない。黒煙が、視界を遮る。いつの間にか、動く手が無意識に胸の辺りをさするが不思議と、傷の痛みや出血はない。
どうやら、あの女の術か何かで、身体が麻痺していたようだ。
「よくも、っく」ティーガーの機関銃が、肉塊を切り裂き赤黒い粘液状の別のものに変えた。
硝煙が腫れるころ、赤いテスタロッサがボディーの真ん中を大きく抉られ、オイルを垂れ流している。流れるオイルは、血のように赤かった。
ところどころ、変形して黒く焦げている。「消えろ!」俺は、地面の砂を高速で回転させ、テスタの前に残っていた赤黒い肉塊をあの女共々、塵に変えて彼方に吹き飛ばした。
さっき俺を吹き飛ばしたのは、テスタのボディーから漏れたガソリンが爆発したためらしい。奇妙なことに爆発のダメージは俺にはほとんど無く、黒服が変化した肉塊に多大なダメージを与えていた。
そう、テスタが己のボディーと引き換えに敵の殲滅を狙った、最期の忠誠を示したかのように俺には思えてならない。
「しっかりしろ、テスタ。京都御所までは、まだ遠い。早く俺たちを乗せて走れ」俺は感情の起伏のない自分の声を他人事のように聞いていた。テスタの下半身は、胴体からかなり離れた地面に片足づつ突き刺さっていいた、これが爆発の威力(忠誠心の大きさ)を物語っていた。
「ふっ。相変わらず、ご主人様は人使いが荒い。良かった、その様子なら怪我もなく無事ね。そうでしょ?ティーガー、もう目が見えないの答えて」
「はい、マスターも私もテスタおかげで、怪我ひとつ無いです。早く御所を目指しましょう!」
「それは、できない相談ね。これからは、ティーガーあなたが頼りよ、あなたのマスターを守りなさい!」
「できないわ、私はあなたと違うもの。私は、怖い。人で無くなるのが、怖くて仕方ないの。いつか、自分が人ではなくて、戦車で誰からも人として扱われず、自分自身でさえ人ではないと思ってしまうようになるのが、恐ろしいの!」
「馬鹿ね、あなたには受け止めてくれる、ご主人様、いいえ、マスターがいるでしょ。マスターは、そんじょそこらの男たちや恋人なんかじゃないのよ。私たちは、魂で繋がっているのよ!うっ、もう時間がないわ。約束してくれるわね。ご主人様を、守ってくれ、る、と」
テスタは、息も絶え絶えに誓いを強要すると、静かに瞳を閉じた。俺は、戦場に散ったテスタの全てを掌握すると、念じた。すると、その姿は、再び赤いテスタロッサへと変化した。テスタロッサを胡桃サイズのエメラルドに封じ込めるとティーガーに渡し、京都御所を目指して歩き出した。
「マスター」ティーガーは、テスタロッサを封じ込めたエメラルドを大事に懐へしまうと、小走りにジョージの後を追った。銀色の義眼から零れる涙は、なかなか止まらなかった。