腹が減っては・・・
ここからまた主人公視点です。
騎士さんたちを見送ってからしばらく考えてみる。
騎士さんたちが走ってったてことはその道すがら進んでいけば
人のいるところに出られるってことか。
ぐぅ・・・。
人間のことを考えると不意に腹が鳴った。
さっき食った黒い球体はソフトボールくらいの大きさだったが
俺の体はまだまだ食い物を欲している。
そういえば余計なスキルがあったな。 それのせいか。
騎士達の後をえっちらおっちら追いかけていくと大きな道に出た。
人の手が入っているのかさすがに石畳ではないが
平坦に舗装されていて大きな道だ。
地面に眼を向けると馬のひづめの跡が残っている。
馬がいかに速いといったって車や飛行機のように何時間もぶっ通しで
走れるわけじゃない。 きっとどこかに拠点があるはずだ。
そこでなんか食べ物でも貰おう。 餓死しないうちに。
しかしその途中で俺は自分の姿が人間出ないことを思い出した。
道を歩いていた商人が突然悲鳴を上げたのだ。
「ひぃ! モンスター!」
えっ!どこどこ!ときょろきょろしている俺を指差して商人が叫んだ。
「お前だよ!」
「キシィ~。」
「天然か!・・・って逃げろぉぉぉぉ!」
てへっと頭を搔いて可愛く振舞ってみたが失敗。
あまりの出来事に思わず叫んだ商人は我に帰った後慌てて
逃げてしまった。 コントか。
しかしそのやり取りのお陰で自分の立ち位置を思い出せた。
人間やめたんだった。
仕方が無いので商人が落としていったスカーフでほっかむりして
道の端をこそこそと歩いていく。
道を歩き、人が来たら物陰に隠れてやり過ごす。
そんなことを繰り返しながらぼちぼち歩いていると道が
幾つかに分かれている。
俺が歩いてきた道と違う道が一本道に合流するようになっている。
人が来たら厄介なので合流地点で人が来るか隠れて確認していると
分かれ道からふらふらと三人ばかりが歩いてくる。
足取りが重く、元気のない足取りの三人は二人の男に少女が一人。
ローブを目深く被っている二人のその内一人がバタッと
糸が切れたように倒れてしまった。
少女が懸命に体を揺すっているが男はうめき声を上げるばかり。
出て行こうか迷っていると商人らしい男が馬に乗って歩いてきた。
少女が必死になって商人を止めると商人は倒れている男に気付いたのか馬を
降りて近づいていく。 しかし様子がおかしいぞ。
「!・・・!」
よくわからないが商人が驚いたように立ち上がるとすがる
少女を突き飛ばして馬に乗り走り去ってしまった。
なんてヤツだ・・・。
割合元気そうな男がローブを取ると俺は商人が逃げ出した
理由を理解した。
肌を覆いつくしそうな痛々しい斑点、ひどいところは爛れて
いるのかローブの下のシャツは赤と黄色く染みが出来ている。
疫病だな・・・ありゃ。
それも治る見込みがないか薬が貴重で、感染力の強い病気なんだろう。
しかしそんなことはどうだっていい。
俺の腹は鳴りっぱなしだ。
一般人には恐ろしい疫病でも俺には御馳走でしかない。
怖がらせることになると心のどこかで謝りつつ
草むらから俺は勢いよくとびだした。
私の名前はヘレナ、カロ村の生まれ。
農家のお父さんとお母さんの元でなんとか飢えずに
生きていけてたから、上手くいったら王都で出稼ぎになんて
思っていたのだけど・・・。
不運は三年前から始まってた。
一つは親切にしてくださっていたお医者様が老齢で
カロ村に来れなくなったこと。
そしてお医者様が来なくなってから二年がたった頃
この村の近辺で病がはやり始めた。
流行り病の一種らしい、お医者様が残してくれた本を
村長さんがなんとか読み解いて見つけてくれた。
モンスターの屍骸を片付けないと流行る恐ろしい病で
体にたくさん発疹が出来て、それがひどく膿む。
ひどくなると顔が崩れたり死んだりするって・・・。
症状の軽かった私が薬を買いに行く事になって
クロッゾさんとオリバさんが着いてきてくれた。
けれど村をでて二日と経たないうちにクロッゾさんが
倒れてしまった。
「だ、だれか!」
すがる思いで声を上げてみるとたまたま通りかかった
商人さんが駆け寄ってきてくれた。
「どうしたんだね?!」
「彼が突然倒れて・・・」
「うわっ! カブラル病じゃないか!流行り病を外に出すんじゃない!」
「そんな!」
商人さんは手遅れだ!と叫ぶと私の手を振り払って逃げるように
去っていきました。
そんな・・・どうしたら・・・。
絶望の淵に立たされている私たちにさらに恐ろしいことが
おこりました。
「キシィィィィィィ!」
モンスターが私達に向かって走ってきたのです。