そうめんとかでよく陥るアレ。
俺は今ちょっとした危機を感じている。
それは治せない病気があるとかそんな真面目な話ではない。
おなかも膨れないのでいくらでも食える。
ただ、
この病気の味に飽きてきたのだ!
単調な味というか単一の味にさらされ続けた俺の舌は
仕事を放棄してただただ食べたものを飲み込むことに
終始している。
おなかが小腹がすいた程度に満腹感が抑えられるので
食べ続けるのは問題ないのだが些か辛い。
納屋の穴からこっそり外をうかがうもまだ列が途切れる気配が
ない。 相当流行してたんだな。
かろうじて意図を汲んでくれるヘレナがいないので男二人は
ルーチンワークのように一人ずつ患者を連れてくる。
まあ、贅沢な悩みには違いないんだが・・・。
心を無にしてひたすら患者の体内から病原体の黒い球体を
引きずり出しては口の中に放り込む作業が続く。
心を無にして作業を続けていくと夜も更け一旦打ち切りとなった
しかし患者の数ももう数えるほどでほっといても治りそうな
軽症の患者ばかりだった。
「ふぃー、おつかれさん。」
クロッゾとオリバはうーんと伸びをすると俺に労いの言葉を
かけて自分の家に帰っていった。
もう彼らに俺にたいする恐れは微塵もない。
おそらく治療した人間の中に彼らの家族が含まれていたからだろう。
とりあえずこの村は病気からは救われる。
漆黒の帳が下りた村の納屋で俺は息を吐いた。
空腹から逃れ、罪の意識が薄らぐような善行に肩まで
どっぷり浸かるのはとても心地よい。
しかしこのまま納屋に一日中閉じこもっているのは不便だし
気分が悪い。 癒しの風が充満しているのか部屋には
薄緑色の気体が充満している。
他人には回復効果があるが自分の吐息が充満していると
考えると全然気分がよくない。
隙間から外に誰もいないことを確認してもそもそと納屋から這い出した。
病気によってもたらされていた悪臭はなりを潜め、夕飯の
残り香が辺りを包んでいる。
けっして豊かではないのだろうが皆はそれにめげることなく
元気になれたことを感謝し、明日に希望を持っている。
そうなったときに次に問題になるのはここだろう。
俺は村を散策して見つけた畑に眼をやる。
畑の作物は病気をもらったのかそれとも病気の間世話をしてもらえ
なかったのか萎れてしまっている。
水を貰っていないのかもしれないがこのままでは村人が元気になる前に
枯れてしまうだろう。
そうなったら彼らは食べる物がなくなって、また病気になるだろう。
病気ならまだいいが飢餓に陥るとなるとそればかりは俺も
おそらくだがどうしようもないだろう。
飢餓は病気とは違う。 パーツがあっても乗り物のガス欠が治らないのと
同じだ。
どうしたもんか、と思っているとぽつぽつと雨が降り始めた。
雨はその後雨脚を強め、本降りになる。
ちょうどいいや、畑の作物も『治療』してやるか。
俺は植物にフーッと息を吐きかける。
「キシシッ!」
成功だ、作物は雨の水分と俺の癒しの風を受けて萎れた葉を
元気な青々とした葉としっかりとした茎に復活させた。
「キシィ!」
俺は納屋に篭っていたときの鬱憤を晴らすように畑をひとつひとつ
回って枯れかけの作物を片っ端から元気にしてやった。
結局終わったのは空がしらみ始めた頃。
薄紫の空と夜明けの太陽に照らされる青々とした畑の作物たち。
村の畑をめぐって全部を元気にしたのはいいんだが・・・。
なんかすごい全ての作物が巨大化してる気がする。
トマトっぽい作物があるんだがトマトって人の頭くらいの大きさだったか?
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間違いない、やりすぎた。




