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悪食の聖神  作者: ファウスト
11/13

フルコース!

夜中にも関わらずクロッゾとオリバが村中を走り回って重篤患者を

一人ずつ集めてくれた。


「よし、まず一人目だ・・・。」


「そっと運べ・・・よし。」


最初に納屋に入ってきたのは老婆と見紛うほど憔悴した女性。

なんとまだ30代だというが息子達が病魔に侵されるのを

見て精神を患いかけているのだという。

進行具合は家族も同程度といってよかったらしいが

家族は彼女を優先して欲しいとのこと。


椅子に女性を座らせるとクロッゾさんが女性に目隠しをした。


「いいぞ、黒いの、やってくれ。」


スタンバイが完了したのを受けて俺は彼女の口に

手を突っ込む。 そして体から黒い球体を引っ張り出した。

球体を良く噛んで飲み込むと彼女からまだ匂いだ消えていないこと

に気付く。 おそらく精神の部分だろうか。


俺の銀色の手が引っ張られる。 その先は

彼女の心臓の位置。 


「グッ・・・。」


彼女の短い呻き声とともに俺の腕が彼女の胸から体の中に

沈んでいく。

体の中は口に突っ込んだときと同じく臓器に当たる感覚は

なく、ただ感じる異物を腕は的確に捕まえて引きずり出す。


「キシィ!」


引っ張り出したのは黒いクナイのような尖った小型の刃物。

言葉がナイフのように心に突き刺さる、なんて表現があったが

病は心を傷つける刃物として認識されているようだ。


口に放り込んで咀嚼すると、これは・・・。

クッキーっぽい味がする。 お袋の味ってやつか?


両方の病を取り出すと老け込んでいた彼女に生気が戻り

体も年齢相応に若返っていく。


「う・・・ん、ここは?」


「気がついたようで何よりです、村長が説明してくださるので

 ささ、こちらにきてください。」


目隠しされたまま納屋の外に出て行くので俺もまた物陰に

隠れる。 これを繰り返していくのだ。


この日は夜分ということもあり数人だけだったが村長が

完治した村民に説明をしてくれたお陰で翌日はさらに盛況と

なった。


「はい、一人ずつ並んでください。」


「全員分ちゃんと見てくれるので押さないで!」


前日から引き続き二人が一人ずつ患者を招きいれ

入ってくる患者を一人ずつ治療していく。

最初は疑っていた村人達も綺麗に完治して納屋からでてくるのを

目撃するにしたがって病人をどんどんと連れてきてくれた。


しかしながらこうなると皆も当然疑問を持つわけで・・・。


「あの、クロッゾさん。」


「ああ、どうしました? またどこか悪く?」


尋ねて来たのは午前中に治療を受けた女性。

クロッゾが列を管理しながら対応すると彼女は恐る恐る

尋ねてきた。


「申し訳ないのですが・・・中でどういう治療を?」


「ええとですね、実は魔法を使っておりまして・・・。」


なんといったらよいのか、とクロッゾも困ったように答える。


「治療としては画期的らしいのですがなにぶん医師が偏屈で

 技術的にもおおっぴらにできないそうで。」


「そうでしたか・・・それで報酬はどうしたら?」


「それも薬を買いに行く時の分と村長がなんとかしてくださるので

 心配はご無用ですよ。」


後がつかえているので、とクロッゾは無理やり会話を終了させると

また作業に戻る。

相変わらず納屋に入った人はどのような重篤患者もケロッとした

顔で健康になって出てくる。

ありがたいと拝むような気持ちの人もいれば、女性のように

疑問を感じる人も少なくないようだった。



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