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レジャンダール  作者: 鴉野来入
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◇八十ニ アンジェロの意

「――そこまでじゃ」


 ジョゼの鋭い声の割り込みで、一度アンジェロに集まった視線は散って、再びジョゼに注がれる。


「カリナ団長。わしらはヴァレリアーノ候に直接書状を頂いておる……発言できることと出来ないことがある、わかるな?」


 カリナとジョゼのやり取りを聞いて、アポリーヌは内心、マズイと冷や汗を書いていた。

 アルクスの時点で今回の話の内容を先に聞いていたアポリーヌは、この場での話の流れと、話をする意味を知っていた。

 だが、神聖騎士団の言葉までは予定に織り込んでいない。

 実際、今の流れは元の予定にとって、良くない流れになりつつある。


 しかし、アポリーヌもこの件を初めて聞くという体裁なので、ここでジョゼの加勢をするわけにもいくまい。

 アポリーヌは、ジョゼがヴァレリアーノ候に加担するつもりはなく、寧ろ候を暗殺し支配から脱しようと画策していることを知っている。

 しかし、それをするには神聖騎士団と魔法研究会の中に過激派の者がいてはならない。

 この話の場は過激派の者をあぶり出す目的があるのだ。


「ジョゼ、よい……下がれ」


 アポリーヌが何もできないでいる間に、アンジェロは割って入ったジョゼを押しとどめると一つ咳払いをして続けた。


「い、いいだろう。同盟か戦争か…………私がどう思っているかだな?」


 止められたジョゼは驚いた様子で目を見開き、アンジェロの顔を見る。

 カリナの方もアンジェロの様子に目を見張っているようだ。

 正直なところ、アポリーヌもアンジェロが答えるとは思っていなかった。

 しかし、アンジェロは声を上ずらせてはいるが、立ち居振る舞いを正して問を発したカリナに真摯な態度で答えようとしている。


「な、ならば仕方ない……。レイノ王国伯のアンジェロではなく、一人の、アンジェロという一人の国民として……こ、答えようではないか」


 アンジェロはこの話の場の裏の意味を知らない。

 過激派のあぶり出しを行う事について知っているのは、この場では言い出しっぺであるジョゼと、アルクスで申し合わせたアポリーヌだけだ。

 神聖騎士団はおそらく同盟派になるというジョゼの予想であったが、魔法研究会から派遣された者達は別の方向から過激派の貴族と繋がりがあってもおかしくはない。

 案外、魔法研究会に属する高等魔法使いの中には、貴族から研究費の援助などを受けているものもいるのだ。

 その中で、今回特に怪しいのは――。


 アポリーヌは、同じテーブルに付くグイドの様子を伺った。

 グイドの神聖魔法の研究はヴァレリアーノ候の下で行われている研究だ。

 10年前、神聖騎士団の聖女を保護し研究機関に預けたのは他でもない、ヴァレリアーノ候なのだから。


 基本的に魔法研究会自体は国の政治には関わらない姿勢を公言しているが、個人の魔法使いや研究室単位となるとどう出るかわからない。

 研究費が円滑でない研究室ならば、援助の差止めをちらつかせれば、貴族の言いなりにすることも可能だろう。


 ここでのアンジェロの発言がどちらの派閥に転がるかで、内部分裂を引き起こす可能性がある。

 アポリーヌは、ついに冷や汗が背中を伝うのを感じた。


「そ、そうだな……私個人はネイバブールについて多くを知らぬ。そういうことは……その……、ほぼジョゼに一任していたのでな!」


 何が誇らしいのか、アンジェロはどんと強く自分の胸を叩いた。


「……なので、見当違いの事を言うかもしれん。それは、勘弁してくれ」


 話の前に予防線を張っていくアンジェロ。

 作り笑いの様なぎこちない笑みを浮かべて、余裕を装っているのだろう。

 アポリーヌはアンジェロから発せられる頼りない雰囲気に呆れにも似た感情を抱く。


「まず、私はこの……同盟派と過激派の目標は同じだと思っている」


 話しながらもアンジェロは聞いている者達の顔色を伺うように部屋を見渡す。


「あぁ~……。根底にあるのは我らが今回戦った悪魔軍なのであろうな? 同盟派はネイバブールに同盟といった形で、過激派は……えぇっと、そのネイバブールを武力支配して従え、悪魔軍との戦いに協力させる……そういうことだろう?」

 

 しどろもどろながらもアンジェロの弁は続く。


「どちらの派閥も敵は悪魔軍だ。悪魔軍に対抗する為に、ネイバブールを協力させる手段でぶつかり合っている。だが、私にはどちらの派閥の手段も危険だと思っている」


「ネイバブールとの戦争も……同盟も危険だ、と?」


 聞き返したのはジョゼだ。

 アンジェロに使える参謀であるジョゼも、アンジェロの真意を聞いたことがなかったのだろう。


「だって、そうじゃないか? ネイバブールと戦争してから悪魔軍と戦うのはレイノ王国側の負担が大きすぎる。しかもネイバブールも戦争直後で疲弊した状態で悪魔軍と戦わねばならぬのだ。割にあわない。…………そうすると同盟して戦う方が聞こえが良くなるが、悪魔軍を退けた後はどうする? ネイバブールとの同盟関係はその時点で解かれる。共通の敵である悪魔軍がいなくなったのだからな」


 震えた声で話していたアンジェロは、いつの間にか早口でまくしたてる口調になっていた。


「悪魔軍を退けた後、前線であったレイノ王国は国土を戦場として疲弊しきっている。それに対してネイバブールは兵力は使えど国土は無事なままだ。……もし、ネイバブールの国土も脅かされているようならば、我々のレイノ王国は滅びてしまっているだろうから考えからは外すぞ? 復興に追われる我が国にネイバブールが侵攻してくれば、我々は手も足も出まい」


 過激派と同盟派のそれぞれの筆頭であるヴァレリアーノ候とフランシス候はどのように考えているのか。

 アポリーヌはアンジェロの言葉を聞いて、レイノ王国の行く末に一抹の不安を覚えた。


「……では、アンジェロ伯はどちらの派閥も支持しない、と?」


 そう問ったのはカリナだ。


「そうは言っていない。要はやり方しだいだと思うのだ。後願の憂いをなくす為には過激派が我が国の力を衰えさせずにネイバブールを徹底的に支配しなければならない。同盟にしても、ただ同盟を組むだけでなく、悪魔軍を退けた後の条件を我が国に有利なものにしなければならない。条約で不可侵を徹底させる……だとか、やりようはあるはずだ。どちらにせよネイバブールに頼り切ることは出来んだろうな」


「……どちらの派閥も多少なり支持している、と言ったところでしょうか」


「おお、そうだそうだ! そんな感じだ! とにかく、少なくとも私は派閥争いをしている場合ではないとは思っている!」


 理想論だ。

 両派閥のいいところを取った都合のいい意見。

 この場でアンジェロの話を聞いた者のほとんどはそう思っただろう。


 しかし、それは誰もが胸中で思っていることでもあった。

 派閥争いなどしている場合ではない。


「して、カリナよ。回答を貰ってもいいかのう? おぬしら神聖騎士団はどうするのじゃ?」


 アンジェロは中立ともとれる意見を発した。

 では、カリナは、神聖騎士団はどう答えるのか。


「結局はマクシミリアン候の暗殺に加担するかどうか……という話ですよね。アンジェロ伯はヴァレリアーノ候の指示には従う、と」


「そうじゃ、暗殺に成功しようが失敗しようが軍は動かす事になるのう」


「……我々神聖騎士団は――」


 カリナはベラとテオの顔をチラリと見やる。

 二人はその視線に頷きで返した。

 カリナの判断に任せるということだろう。


「王都に入りましょう。それも、今回の件とは関係なく振る舞うつもりで……ブランカの討伐報告と負傷者の帰還の為だけに……です。マクシミリアン候の暗殺要請については、神聖騎士団は何も知らない。そういう立場を貫きます」


「中立で日和見を通す、と?」


「王都内で得た情報の提供は致しましょう。ただ、マクシミリアン候の暗殺という手段で戦争を起こすのは同意しかねる。なので、あなた方は私たちには書状の内容を明かさなかった、というだけです」


 アンジェロと同じく、派閥の手段を否定はするが派閥自体を否定するわけではない、という主張だ。

 これは、アンジェロの話に同調したと言ってもいいのだろうか。

 アポリーヌは魔法研究会の面々の所作を気にしつつも、カリナの表情をじっと伺った。


 神聖騎士団は過激派には与しないようにも見える。

 しかし、それはジョゼの企みであるヴァレリアーノ候の暗殺を容認するほどなのだろうか。

 手段だけで言うならば、ヴァレリアーノ候の暗殺はマクシミリアン候の暗殺と同じだ。

 ただ、違うのはマクシミリアン候の暗殺はネイバブールに対しての宣戦布告と同義であることに対して、頭であるヴァレリアーノ候を始末しても過激派自体が無くなるわけではないというところだろう。

 

 どちらにせよ、とにかくジョゼの企みに対して神聖騎士団の介入は無い。

 後は、魔法研究会の者だ。

 アポリーヌは自分の番が来たと言わんばかりにテーブルの端をトンと叩いた。


「そちらの話はまとまったな。後は私達護衛隊だ。ジョゼ殿の護衛という任務で、カピタール支部によって招集された私達は個々の意見もバラバラであると思う。少し時間をくれ」


 ジョゼが頷いたのを確認して、アポリーヌはテーブルについた面々の顔を見る。

 グイド、ダリオ、パウラ、カーラ、フェリーチャ、ニコラ、リナルド、ボリスがそれぞれアポリーヌを見つめ返す。


「私達の任務はジョゼ殿護衛だ。しかし、今回はそれが派閥争いに影響を及ぼすことになる。魔法研究会としては中立を主張したいが、それでは任務がままならない。ジョゼ殿の身辺を護衛するには、間接的にマクシミリアン候の暗殺に手を貸すことになるのだ。皆の意見を聞きたい――」

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