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レジャンダール  作者: 鴉野来入
127/128

◆百二十五 闘神ミトラはかく猛りき③

かなり期間が空いてしまいましたが、少しずつ書いてはいます。

メッセージにて話の重複があったことを指摘されたユーザーの方がおりました。

大変助かりました。ありがとうございます。


具体的には、110話と111話の内容が重複してしまっていました。

現在は重複した話を削除して順番通りに修正しております。


こういうことがないようにサブタイトルにナンバリングしていたのですが、私の管理能力はザルですねw


 ミトラがどこに潜伏して悪魔軍の様子を探っているのかは、アルジェンティウスから聞いていた。

 敵の本拠地だと伺える廃都から南西に位置する森の中だ。

 悪魔軍と先頭になる予定の地域を飛び越えて、マンテネールはラータを抱えたまま飛行し、その目標地点に到着した。


 上空から見る森は、密度の高い木々の葉で土の色は確認できない。

 ただ一箇所を除いては。


「森に穴……」


 ぽっかりと空いた土色は、円形に葉を散らせた跡だった。

 森の中から何かが飛び出したようにも見える。


「ここがアルジェンティウスの言っていた場所だとは……思いますが……」


 マンテネールの声がどこか不安そうに震える。


 とにもかくにもミトラと接触しなければ始まらないので、ラータはマンテネールに指示して、森に空いた風穴に降りることにした。


「何も……無いな?」


 かなりの速度で空を飛んできたため、久々の地面にふらつきながらもラータは周囲の様子を探った。

 ぐるりと見渡しても、おかしな所はない。

 それこそ不自然なものは突然に穿たれたとしか思えない森の穴くらいのものだ。


「ミトラ様もいらっしゃいませんね」


「それだよ。何も無いわけないんだよな。何かあったに違いない。……まずはミトラを探さねぇと」


「森の……別の場所でしょうか?」


「そうだといいんだが、見つかって掴まったのかも知れないからな。マンテ、管理権限で感知できるか? ほら、俺たち《権限保有者》を集めた時みたいに――」


「やってみます」


 マンテネールはすぐに頷くと、意識を集中し始めた。


「…………!! いらっしゃいました!」


「見つけたか!」


「はい。見つけましたが……この場所は……」


「ミトラはどこにいる? すぐに合流しよう」


 質問には答えずに、マンテネールはラータの手をとって飛翔した。

 久方ぶりに再開した地面とすぐに別れを告げて、ラータの身体が持ち上がる。


「見てもらったほうが早いです。……先に気がつくべきでした。この場所は廃都から程近いですから、こんなに静かなのはおかしかったんです……!!」


 アルジェンティウスの報告では、廃都からは次々と溢れんばかりの悪魔軍が飛び立っているということだったが、今現在ラータたちの周囲に悪魔の姿は無い。

 ラータもその事に気が付いて、上空からの視点で今までより更に目を凝らして廃都の方を伺った。


 それ程遠くない位置に、都を囲む城壁が見えその中に都市が収まっているのが見える。

 城壁の外は疎らな草地が広がっており、土気色の中にくすんだ緑色が見えるのがそれだろう。

 では、その緑色の他にポツポツと見える黒い点は一体なんだろうか。


「……岩? とかじゃねぇよな。あれは――」


 目を凝らし、段々と遠くの物に焦点が合っていく内にラータは気がついた。

 黒い点は悪魔の死体だ。

 ポツポツと見える黒い点すべてが、落下して突っ伏した悪魔軍の成れの果てなのだ。


「あれ……もしかして全部が……」


「戦闘があったようですね。おそらくはミトラ様が戦ったのでしょう。――廃都の西側を見て下さい。地面が抉れて焦げ付いたような場所がありますよね。あれはミトラ様が魔力だけで焼き付かせた跡だと思います」


 マンテネールが示す方向を見ると、確かに地面に窪みが出来て、その周辺が隆起している。

 何か巨大な物に削り取られたようなその大地の傷跡は、炭を擦りつけたかのように真っ黒だ。


「あれが攻撃の跡だってぇのか……? 冗談じゃねぇぞ」


 遠目でも黒い穴が視認できるほどの大きさの窪みを見て、ラータはミトラの力に驚いた。

 あっけにとられているラータを他所に、マンテネールは淡々と続ける。


「おそらくですが、ミトラ様が見つかるか、もしくは積極的に敵軍に干渉して――とにかく戦闘になったのでしょう。天使の残骸が無い所を見ると、ミトラ様が優位で戦った様子でしょうか。もしかすると廃都の中の悪魔達はすでに全滅させているかもしれません」


 廃都の中が全滅、と聞いてラータは焦った。

 廃都の中にはナーダがいたはずだ。

 そうだったならばアンブローシアもそこにいた可能性が高い。


 心配そうな表情をするラータの手を握り、マンテネールは言った。


「大丈夫ですよ。ミトラ様は悪魔王ヴァビロスと戦う為に創造された神――まさに闘神です。悪魔軍程度にはやられたりはしませんから」


 マンテネールの励ます言葉を聞いてラータはハッとした。

 アンブローシアがナーダと行動を共にしている今、ミトラとぶつかる可能性は極めて高い。

 その時、アンブローシアは無事でいられるだろうか。


 ミトラの攻撃によるものだという地面の抉れをもう一度見て、ラータはゾッとする。

 焦げ付いた地面の側には悪魔の物だと思われる肉片や灰がこびりついていた。

 不死身の呪いをかけられているとはいえ、消し炭にされてしまえば無事では済むまい。

 

「……くそっ。俺はどうしたいんだ」


 自分たちを出しぬいてナーダに組みしたアンブローシア。

 アンブローシアは創造主を目の敵にしている。

 ミトラからすれば信じがたい裏切り者に違いない。


 世界の崩壊を防ぐ為に集まった自分たちの敵である事は確かなのだ。

 心の何処かでそう理解しつつも、ラータはアンブローシアを裏切り者とは見ることができていなかった。


「マンテ。このままだとおそらく……ミトラとアニーが戦うことになる……いや、もう接触してるかも知れねぇ」


 マンテネールはまだアンブローシアを敵とは見ていないはずだ。

 ナーダをなんとかしたいが、アンブローシアは手に掛けたくない。

 板挟みの状態になったラータは理解者であろうマンテネールの協力を願った。


 願いを込めてマンテネールの顔を見ると、そこには能面を貼り付けたような無表情があった。


「……問題は無いと思います。ミトラ様は神体を取り戻しておいでですから、人間であるアンブローシアに遅れを取ることはありえません」


 ラータはその言葉を聞いて理解した。

 マンテネールの中の優先順位は絶対なのだ。


 最も忠誠を誓うべきは創造主。

 その次に自らを創りだした"主様"だ。

 そして、その"主様"と同格の"神"であるミトラ。

 今回集めた《権限保有者》は彼らに比べれば、何の影響力も持たない。


「わかった。マンテ、降ろしてくれるか?」


「構いませんが……?」


 再び地面に降り立つとラータはマンテネールの手を離し、距離を取ってから次の指示を出した。


「いいか、マンテ。ミトラの事は他の皆には話すな。俺がなんとかする。マンテは最初に決めた手筈通りに動いてくれ。状況が変わって指示が必要になったら俺のところまで転移で来てくれれば大丈夫だ。最初の取り決めよりも転移の回数が増えちまうだろうが、そこには目をつぶる」


「……ラータ。アンブローシアを助けに行くんですね?」


 即座に核心を突いた返事が来て、ラータは少々面を喰らった。

 マンテネールはこういう時に、事務的に与えられた役割をこなすと思っていたからだ。


「ダメか? マンテもアニーを裏切り者だと思うか?」


 世界の崩壊を招いたナーダ。

 その逃走を助けたアンブローシアはマンテネールにとっても敵だろう。

 それを助けようと言うのだ。

 ラータも反論は覚悟している。


「……ダメ……では、ありませんが……ラータは……その……」


 今までとは打って変わってマンテネールの語気から力がなくなる。


「なぜ……アンブローシアを助けようとするのです? 彼女はワタシ達を裏切って、ナーダに味方しているのは明確なんですよ?」


 まっすぐと疑問の視線を向けられる。


 マンテネールには話していないことがある。

 そのことがラータの心をチクリと刺した。


 アンブローシアの過去のこと。

 アンブローシアがラータに表題の無い本や短刀など――どう役に立つかは分からないが――魔工物であろう貴重な品を渡していること。

 なにより、アンブローシアの目的が創造主に一矢報いることだということ。


 しかし、それらを差し置いても、ラータにはアンブローシアを助ける義理は無いはずなのだ。

 先ほどラータは自分が何をしたいのか自問したが、その答えがマンテネールに尋ねられて初めて形になった気がした。


「…………マンテ。俺はオリジャの村の仲間を失った」


 ラータは自分の声が思っていたよりも暗いことに少しだけ驚いた。

 港町ハーフェンでマンテネールに真実を聞かされてからは、オリジャの村の事はあまり考えないようにしていた。

 直後に茫然自失となり、セレッサによって拉致されてからは目まぐるしく状況が変わり、考える暇も無かったというのにも助けられた。


「しばらくは……考えないようにしてたんだ。失ったものは戻ってこない。ましてや、俺が村の皆と過ごした時間はもう……既に遠い過去の時間に置き去りにしちまったんだろ?」


 自分だけが偶発的に《権限》を手にし、擬似的な不老不死となった。

 村の仲間たちは皆、あの日魔物の襲撃から逃れられたのかもわからない。

 もしかすると、魔物に追いつかれて殺されたのかもしれないし、逃げた先で天寿をまっとうしたのかもしれない。


「俺には……何にも無いんだ。目を覚ましてマンテに連れられて神殿に行った。その時会った仲間達以外には何も……」


 ふと、ラータは記憶を失くした白髪の少年のことを思い出す。

 彼もまた全てを――記憶すら無くして戦っている。

 少年の思いを聞いた時、ラータは自分よりも年下の少年に尊敬の念すら覚えた。


「俺は掌から何もかもを落っことしたんだ……。今度は……落とさない……!」


 真剣に見つめるマンテネールを、しっかりと見つめ返す事ができた。


 そうだ。

 俺はアンブローシアを信じている。

 彼女は裏切ってなんかいない。


 マンテネールも、わかってくれる。

 ミトラとアンブローシアを、仲間同士で争わせたりなんかするものか。


「ラータ……」


 ラータは自分の胸がカッと熱くなったのを感じた。

 動悸が激しくなり、地面に立っているはずだというのに浮遊感に包まれる。


「ラータ! しっかりして下さい! ラータ!!」


 マンテネールに抱きとめられて、ラータは意識を取り戻した。


 今、確かに自分は常軌を逸していた。

 ラータの自覚を他所に動悸は鎮まり、何事もなかったかのように身体は正常だ。

 揺さぶられた精神だけがその余韻を残している。


「……俺は――」


「ラータの気持ちはわかりました。ワタシも一緒に行きます。ミトラ様とアンブローシアの衝突を止めましょう」


 ラータの言葉を遮って、マンテネールが同調する。


 単純に説得が通じたとは言いがたい状況の好転にまごつくラータの手をとって、マンテネールは続けた。


「まずは廃都の様子を見ましょうか? ……いえ、悪魔軍の気配はありませんしミトラ様がいらっしゃるようにも思えません。ナーダと戦闘になっているなら場所を移したのでしょう。もう一度範囲を広げて感知してみますか」


「あ、あぁ……」


 ラータが肯定の頷きを返すとマンテネールは即座に意識を集中し、再び《管理権限》を発動させた。

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