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レジャンダール  作者: 鴉野来入
12/128

◆十ニ 欠けた円卓

「では、今回の襲撃と、調査の結果について報告し合いましょう」


 マンテネールは背筋を伸ばして席についている面々の顔を見回す。 

 円卓を囲んでいるのはラータ、マンテネール、アンブローシア、ヘルト、エッセ、オグロの六人だった。


「まず、魔物活性化の原因調査ですが、オリジャの村と港町ハーフェンの調査において、原因自体の究明には至りませんでしたが、十八熾将との接触がありました。港町ハーフェンの沖にて遭遇した"静月のガラノス"はアンブローシアが倒しましたが、その後に相対した"幽香のセレッサ"は戦闘状況が芳しく無く、ワタシたちの敗走となりました」


 マンテネールは、チラリとラータに目配せをする。


「ラータさんの機転がなければ、三人とも捉えられるか……殺されていたところでしょう」


「どういう状況だったのだ?」


 質問をしたのは、ヘルトだ。

 話し合いの場でも兜を外すことはしないので、どのような表情をしているかは分からない。


「"幽香のセレッサ"は、ドライアドという植物の魔物をベースとした十八熾将です。ドライアドは精神を操作する香りを使って人間を操り、捕らえて養分を吸い取ります。ラータがセレッサの罠にかかってしまい、ハーフェン近郊の洞窟で捕らえられていたところを、ワタシとアンブローシアさんで救助に行ったのですが、洞窟という狭い場所はセレッサに地の利を与えてしまったようです。洞窟全体につたを張り巡らせたセレッサ相手に、動くこともままならない状態まで追い詰められました」


「切っても切っても伸びてくるわ、炎熱魔法で焼き払おうにも密着し過ぎてるわで、結構、万事休すだったわよ」


 アンブローシアが手のひらを広げてヒラヒラと振る。


「そこで、ラータがワタシの不可侵領域を使っての持久戦を提案したのです。不可侵領域を使用すればセレッサのつたの侵入を防げますので、そのまま翌朝まで粘りました。転移が使えるまで不可侵領域内に籠城すれば、安全に脱出できます。……不可侵領域を維持しながら、転移の回復を待つのは困難でしたが、なんとか襲撃班に合流することが出来ました」


「なるほど……。しかし、その不可侵領域の中から攻撃することは出来なかったのか?」


 今度は腕組みをしたオグロが聞いた。


「有効な攻撃を加えられるのは、アンブローシアさんの炎熱魔法くらいでしたが……」


「ごめんなさいね。セレッサの前に、クラゲの十八熾将にバカスカ魔法を使っちゃったから、正直、セレッサを焼きつくすほどの魔法が放てたとは思えないわ。それに不可侵領域に負担をかけると、マンテネールにもキツいのよ。最大出力の炎熱魔法照射中に、不可侵領域が消滅でもしちゃったら、あたしも一溜りもないわ。自爆はごめんよ」


 納得したように頷いてオグロは先を促した。


「ガラノスについてはアンブローシアさんから話してもらっていいでしょうか?」


「ええ」


 片目を閉じ、思い出すように口元に手を当ててアンブローシアが話しだす。


「ハーフェンの港はクラゲの魔物がたくさんいたわ。そいつらを片付けた後に、沖に飛んでみたんだけど……案の定、そのクラゲの親玉みたいなでっかい化物を見つけたの。血の気の多い感じだったわね。直ぐに戦闘になったんだけど、確かに十八熾将の"静月のガラノス"だって名乗ったわ」


「アンブローシア殿、一人で相対したのか?」


「そうよ。桁外れに大きな体だったけれど、魔法戦なら誰にも遅れは取らないわ。連続で炎熱魔法をぶつけてやったら、息の根が止まったわ」


 ヘルトはガチャリと音を立てて、鎧の肩部分をすくませた。


「……十八熾将を一対一で……か、すさまじいな」


 その様子を意にも介さず、アンブローシアは続ける。


「幸い、最初氷雪魔法で身体の自由を奪っていたから、楽に魔法を当てられたけれど……今考えてみると、一気にかたをつけなきゃまずかったのかもしれないわね。……別に捕らえなかった弁明じゃないわ。決して楽に勝ったわけじゃないということよ」


「港町ハーフェンにおいて、ガラノスの……おそらく眷属である魔物がいたということは、魔物の活性化と十八熾将は何らかの因果関係があることは間違いないでしょう。合流した時にはミスラさんの手当で、後回しになってしまいましたが、ヴァインロートの居城への襲撃はどのような様子だったか聞かせてもらえますか?」


 マンテネールが話題を次へと移す。


「オレから話そう」


 オグロがずっしりと重たい声で話し始める。


「身柄を引き渡したように、ヴァインロートの捕獲には成功した。ミスラが魔力を流し込んで拘束をしている上に、この神殿にあった聖鎖で縛り付けている。まず、動くことは出来まい」


 オグロの隣でおどおどとした様子でいたエッセが、少し安心した表情になる。


「問題は負傷したミスラだ。小さな子どもの身体にあれだけの外傷を受けたのだ。いくら人間離れした能力を持つと入っても基本になるのは、その人間の身体なのだろう? 特にヴァインロートは吸血鬼だ。血液を吸った人間を眷属とする能力がある。今はミスラが抵抗しているようだがな」


 七人が合流した時、ミスラは重傷を負っていた。

 ヴァインロートからまともに攻撃を受けて、出血した上に腹を噛みつかれて血も吸われている。

 マンテネール達が転移で現れた時にはまだ、意識もはっきりしていたが、応急処置を受けて神殿に移動する頃にはぐったりとしていた。

 今は部屋で眠っているが、多くの血液を失って衰弱が進んでいるのは確かだ。

 そんな体調のまま、ヴァインロートの行動抑止のために魔力を消費し続けている。


 ヴァインロートは完全に意識がなく、鎖に繋がれたまま身じろぎ一つしないため、安全ではあるが情報を聞きだせるまでに回復してしまえば、今度は血を吸われたミスラが眷属になってしまう可能性がある。

 いや、その前に拘束している魔力を強めなければならないために、ミスラの身体が保たないだろう。


「参りましたね。ミスラさんをこれ以上危険に晒すわけには行きません。ヴァインロートからの情報を諦めて、とどめを刺してしまうしかないでしょう」


 マンテネールは眉を寄せて判断した。


「ちょっといいかしら」


 沈黙の流れる円卓にアンブローシアが一石を投じた。


「ミスラの魔力による拘束を解いて、その間に尋問するのはどうかしら。確か、吸血鬼は炎熱魔法がよく効くわよね。聖鎖で繋いでいるところを、あたしとマンテネールで補助すれば、なんとかなるんじゃない? もちろん万が一があっちゃマズイから、全員の立ち会いのもと……だけど」


「そうですね。どちらにしろ、とどめを刺さなければならないのなら、やってみましょうか。どうでしょう? みなさんは構いませんか?」


 反対意見も出ないので、ヴァインロートの尋問には、全員立ち会いのもとで行うことに決まった。


 その場は解散となり、マンテネールは直ぐにミスラの元へと向かって、魔力での拘束を解くように伝えに行った。

 自室に戻ったラータは、尋問を行う知らせが来るまで、自室に戻っていることにした。


「ラータ殿、いるか?」


 静まり返った部屋の中で、ぼんやりと宙空を眺めていたラータの耳に、扉の向こうからノックの音とヘルトの声が届いた。


「ああ」


「入るぞ」


 丁寧に扉が開けられると、軋む音もしないらしい。

 見た目とは裏腹に細やかな動作で入室した全身鎧の大男は扉こそ音を立てずに開けたが、鎧の音がガチャガチャと鳴っていた。


「会議中、一言も話さなかったな。どうした?」


 転移酔いの時もそうだが、この鎧の男は何かと敏感に気を使っているらしい。

 ラータの様子を心配して部屋を訪れたのだ。


「うん? いや、ちょっとな……」


「そんな様子では、救える世界も救えぬぞ。ラータ殿がアンブローシア殿とマンテネール殿の窮地を救ったのだろう?」


「何言ってんだ。そもそも俺が捕まらなきゃ窮地にもなってねぇさ」


「そうかもしれんが、相手は悪魔軍の中でも名高い十八熾将だ。一人で相対してなんとかなるほど甘くはない。……アンブローシア殿はちょっと規格外だったな。正直、我々の方も四人がかりで、弱ったヴァインロート相手に負傷者を出しての辛勝だ。三人で……しかも連戦とあれば仕方あるまい」


 ラータにはヘルトが元気づけようと、気を使って話しているのがわかった。

 しかし、おそらく元気の無い相手に気がつくことは出来ても、解決には慣れていないのだろう。

 そんなヘルトの様子に、ラータはくつくつと笑いがこみ上げてきた。


「お、笑ったな。落ち込んでいるようだったが、問題ないか?」


「ヘルト、あんたは優しいやつだな。気を使ってるのがバレバレだぜ」


「悪かったな。単刀直入に何があったか聞くのも憚られるだろう?」


 ヘルトも、ラータたちが訪れたオリジャの村が、ラータの故郷であることは知っている。

 ラータが故郷の様子を見に行きたがっていたことも、だ。

 安否が心配される故郷へ行って帰ってきた男が、ずっと落ち込んでいたならば、そこでに何かあったか、故郷が無事ではなかったという風に考えるのが常だろう。

 それを直接的に聞かないのがヘルトの優しさだった。


「いや、ちょっと聞いてくれ。《権限》について詳しくないあんたにも知って貰いたいこともある」


「ほう?」


 ラータは港町ハーフェンで、マンテネールから聞いた《権限》ついての話をした。

 そして、自分が故郷を離れてから、途方も無い時間が過ぎてしまっているだろう事も話す。


「つまり、《権限》を持っている我々は、ほぼ不死の存在である……と」


「そういうことらしい」


「…………確かに合点の行くところはある……しかし、そうしたら私は……」


「ん?」


「いや、なんでもない。しかし、そうだな。マンテネール殿やミスラ殿、アンブローシア殿のように《権限》の力を自在にできるわけではない私には、いまいちピンとこないものだな」


 何か考える風に手甲を顎に当て、ヘルトは俯いて黙りこむ。

 不死身の身体というところに、思い当たる節があるのだろう。


 不死身の身体を持った戦士と言えば聞こえは良いが、それはもはや人の領分を越えた存在であり、同じ時代を生きるものとの別離もあるだろう。

 ラータは詳しく聞き出したかったが、故郷の仲間と永遠に別れることとなった自分の境遇を思い出して、やめた。


「……確認したいことが出来た。急に押しかけた上で、すまないが失礼する」


 逡巡の後、ヘルトは音を立てて立ち上がると、鎧の音だけを残して部屋を出て行った。









 数刻後、マンテネールに呼び出されて、ヴァインロートを監禁している部屋に集合した。

 部屋に集まったのは呼び出した張本人であるマンテネールと、アンブローシア、ラータ、エッセ、オグロの五人だ。

 ミスラは自室で療養を続けているのだろう。


「ヘルトさんは、いないんですか?」


 エッセがこの場にいないもう一人の名を上げて、誰にともなく尋ねた。


「彼は、調べたいことがあると言って一度、自家に戻りました。二日後に迎えに行きます」


 事務的にマンテネールが答える。


「ひ、ひとりで大丈夫なんですか?」


 単独行動中に十八熾将に出くわしでもしたらと、心配しているのだろう。

 その質問に答えたのはアンブローシアだった。


「心配ないわよ。《知覚権限》の領域内なら、危なくなったらあたしが分かるわ」


「そういうことです。異変があったら転移で駆けつけて助けましょう。それに……彼はそんな心配が無用なほどには強いはずです」


 "英雄"と呼ばれたこともある戦士。

 おそらく、どこかの一国で最強の名を掲げるほどの強さはあるのだろう。

 エッセ達のやり取りを聞いていたラータもヘルトの事を少なからず心配していたが、先の戦いで実力を示したアンブローシアとマンテネールが心配ないというのだ。

 自分の心配など確かに無用だろうと、納得した。


「魔力での拘束は、もうしていないのだろう? 始めようか」


 オグロが言うと、部屋の壁に繋がれてうなだれている吸血鬼――ヴァインロートに全員の視線が注がれた。


 鎖で両手足と胴をぐるぐる巻きにされ、磔にされているヴァインロートは、身じろぎ一つしていない。

 半開きになった目は何処を見ているわけでもなく、床石に視線を注いでいる。

 その身体を締め付けている鎖が、この神殿の宝物庫にあったという"聖鎖"だ。マンテネールの説明によると、銀製の鎖は聖水によって清められていて、アンデッドである吸血鬼には格別に拘束力があるという。


 ヴァインロートは吸血鬼の十八熾将で、アンデッドである。

 そのことは襲撃班が向かう前に全員に共有されていた情報だった。

 その情報を聞いた時、ラータは死なない化物というところに忌避感を覚えたが、今は別の感覚が生まれていた。


 ゾンビやグールと言った死体の魔物は、魂のないアンデッドだがこの吸血鬼ヴァインロートには自我がある。

 つまり魂を持っていて、生きているわけではないか。

 《権限》を持つという自分も不死身の存在であると知った以上、この化物と自分の一体何が違っているというのか。


「ワタシたちはいつでも炎熱魔法を放てるように準備します。尋問をオグロさんに任せてもいいですか?」


 ラータは指名が自分では無かったことに、内心ほっとした。

 情けない話だが、今の自分ではヴァインロートに尋問など行えるとは思っていなかった。


 ミスラもヘルトも不在の中で、アンブローシアとマンテネールが牽制役をしているとなれば、尋問役は子供のエッセを除けばオグロか自分のどちらかであると思っていたからだ。

 悪魔軍の将であるヴァインロートを、悪魔のオグロが尋問する事に誰かが異を唱えれば、必然的に自分に役が回ってくるという事もあるだろうが、襲撃前にミスラと衝突をしていたオグロは、戦いの中で信用を得たらしい。

 異を唱えるものはいなかった。


「構わんが、オレは悪魔だぞ。手心を加えるかもしれんと疑わないのか?」


 一応の確認と言わんばかりに、オグロが尋ねる。


「だからです。悪魔でしか聞き出せ得ない情報が無いとは言い切れません。それに、いつでも魔法の照射が可能な者が二人もいる中でおかしな行動は取れないでしょう? 例えば鎖を外そうとしたりしたら、火刑になるのは誰でしょうか?」


「そんなつもりはないが……。マンテネール、おまえが尋問したほうが……良いのではないか」


 オグロは引きつったように苦笑する。


「冗談ですよ。ワタシはオグロさんを信用しています。エッセはまだ子供ですし、ラータは尋問の経験なんて無いようですから。あなたしか適任はいません」


「……オレも、尋問の経験は無いんだが……」


 申し訳無さそうに呟いたオグロは、覚悟を決めたのか表情を引き締めた。

 悪魔と言っても全てが悪魔軍に属していて、人間を蹂躙しているわけではない。

 オグロは案外普通のやつなんだろうとラータは思った。

 そして、尋問役を押し付ける形になってしまったことを、心のなかで詫た。


「仕方あるまい。やろう」


「尋問の経験があるのはおそらくミスラ様くらいでしょう。引き受けづらい役を任せてしまって、すみません」


 ヴァインロートの前にオグロが立ちはだかると、マンテネールとアンブローシアは魔法の準備を行い。

 エッセとラータは武器を構えた。


 準備が整うと、オグロがヴァインロートを蹴り起こすドスッという鈍い音が狭い部屋に響き、尋問が始まった。









 じっとりとした額の汗を袖で拭って、ミスラはベッドから降りようとした。


「いてて」


 ヴァインロートに送り込んだ魔力の制御を止めたら、身体の疲労感はだいぶ良くなったが、動く度に全身に痛みが走る。

 とりわけ思い切り噛みつかれた腹部は牙が深くまで食い込んだようで、熱を持った激痛が酷い。


「だめだこれ。動けないや」


 ベッドの外に足を動かして降りようとしたのだが、足首が宙に浮いただけで、それ以上身体を動かすのは無理だった。


「人間の身体は脆いね。身体の持ち主には悪い事したよ」


 ミスラの身体は、ただの町娘の身体である。

 十八熾将の襲撃にあって魂と《統治権限》のみで逃げ出したミスラは、なんとか一人の幼い町娘に憑依した。"ミスラ"とはその身体の持ち主の名前であるが、力を行使できるようになるまで町娘として育ったミスラは、全てが終わった後、この身体を持ち主に返すつもりでいた。

 元々町娘の住んでいた町や家族、友人たちは滅んでしまっているが、世界の崩壊を止めた後に人間の文明を再生させて、新たな人生を送らせてやるつもりだ。


 勝手な褒美だが、ミスラが憑依をしていなければ、町娘の身体も滅びてしまっていたのだから仕方ない、とミスラは考えている。

 人間の文明の再生にどれだけの時間が掛かるかは分からないが、世界の理の外側に生きるミスラにとっては時間の長さなど取るに足りなかった。


「なるべく、傷を残さないようにしてあげないとね」


 天井を眺めるだけの退屈を無視しようと、独り言に意識を向けていると、短いノックの後に部屋の扉が開いた。


「む? 起きていたか」


「ノックは良いんだけどさ。返事を待ってから開けない? 普通はさ」


 口を尖らせて愚痴るミスラに対して、別に悪びれる様子もなくオグロが入室した。」


「寝ていると思っていたのでな」


「まぁいいよ。調度良かったし。……足、ベッドに戻してくれる?」


 先ほどベッドから降りようと動かしたまま、足首が宙ぶらりんになっている。

 長方形のベッドに対して斜めに寝ているのは、なんだか中途半端で居心地が悪い。


「寝相の悪いやつだな」


「違うよ! ちょっと動かしたら、痛くて戻せないんだよ! ――って、そっとだよ!? そ~っと!!」


「元気ではないか」


 身体は動かせないのに、口はよく動くものだと、オグロはうんざりとしながら、ミスラの足を揃えてやった。


「結論から言おう。ヴァインロートは始末した。おまえが眷属になることはない」


 マンテネールが部屋に来た時、ヴァインロートの尋問を行うと言っていた。

 終わったら報告をよこすとも。


 オグロが伝令役になったのだろう。

 ミスラはマンテネールが来るとばかり思っていたが、彼女はいろいろなことを引き受けて動いている。

 流石に手が回らなかったのか。


「それは良かった。んで、有益な情報は出たの?」


「他の十八熾将の居場所が数点と、十八熾将の中で徒党を組んで動いているものがいるらしいこと、後はヴァインロートはその徒党に属してはいなかったという事だ」


「へぇ」


 ミスラはため息混じりに相槌を打つ。


「核心は未だ見えずって感じだね。十八熾将はやっぱり怪しいけど、どいつが親玉になってるかわからないんじゃ、どんどん倒していくしか無いじゃん。はぁ~しんどいね~」


 勝ちはしたが、十八熾将一体に四人がかりでこのザマだ。

 先のことを考えるとうんざりするのは、ミスラだけではないだろう。


「十八熾将って、十八体もいるんだよ? 最悪、残り十七人をシラミ潰しかぁ」


「"静月のガラノス"と名乗った将は、アンブローシアが片付けたそうだ。残りは十六だな」


「おっ、やるね。魔女っ子。それでも後十六体かぁ。居場所の分かった将は誰?」


「そうだな。銀白のアルジェンティウス、誘惑のヴィオーラ、隠遁者ラランジャ、黒壇のニゲル、断頭台パイオン、加えて"カルディナール"という悪魔の十八熾将だ」


「カルディナール? 初めて聞くね」


「なんでも、悪魔軍の参謀を務める純血の悪魔らしい」


「悪魔なのにオグロは知らなかったの?」


 引き出した情報についての質問だけが来ると思っていたオグロは、一瞬答えに詰まる。


「……オレは悪魔軍に属していたわけではないからな。それに世俗には疎かったのだ。派手に名の轟く……十八熾将最強と言われる赤騎士エリュトロンや偏執狂と囁かれるアルジェンティウスなどはわかるが、それ以外は余り……な」


「そうなんだぁ。あれだね、オグロは引き篭もりだった感じだね? 閉じこもって魔法の研究とかしてそうだもんね。氷雪や電雷魔法をあれだけ使う悪魔はそうそういないんじゃない?」


 オグロは少し考えるように額に手を当てる。


「あながち間違いでもないか。悪魔が支配する土地の中でも、オレは辺境に住んでいたからな。魔法の研究というか習得をしたのも、そこでだ。……なにせ、オレは他の悪魔の多くが使う"古代魔法"とやらを使えないのだ」


「そんな奴もいるんだね」


「それが理由で辺境に追いやられたのだろうな。……オレの昔話はどうでもいい。居場所の分かった十八熾将の中で、組織だって動きそうな者はいるか?」


「……そうだねぇ」


 ミスラは天井をじっと見つめて考える。


「誘惑のヴィオーラは、悪魔王ヴァビロスにえらく心酔してるみたいだから、ヴァビロス配下の残党が組織だって動いているって言うなら、そうかな。……カルディナールも、もちろん怪しいね。悪魔軍の参謀ってことは、その采配で動かせる悪魔も多いはずだし……。ミスラは個人的にラランジャにしたいな。"隠遁者"って言われてる通り、表立って何かしてくる奴じゃないんだけど、悪魔たちの中には知識を得るためにラランジャの元に通う者もいたみたい。ミスラを襲撃した何者かも、人型だったし情報を聞き出すなら、ラランジャかな」


「……ふむ。皆に伝えておこう。長々と喋らせて悪かったな」


「う~うん。身体を動かすのが難しいだけで、喋るのは問題ないよ。むしろ黙ってるほうが暇すぎて、やだな」


「だが、貴様の身体もなんとかせねばな。世界崩壊までの猶予はどのくらいあるのかわからんが、あまりゆっくりもしていられまい」


「まだ、海の端っこから消えていってるって状態みたいだけど、いつまでも同じ間隔で崩壊が進むとは限らないしね……。身体については一応考えはあるんだ」


 得意そうな表情になったミスラは、オグロが聞き返す前に続けていく。


「ミスラを襲った奴から、ミスラの本体を取り返せたら、そっちに戻ればいいんだよ。本体は創造主様が作った身体だからね。そう簡単に破壊できないから、絶対持ってるはずなんだよね。……世界の崩壊の中に放り込まれてたら、ヤバイかもしれないけど」


「……それで、犯人を執拗に探しているわけか」


「もちろん、お礼もたっぷりしたいしね? まぁ、それまでは召喚した天使を働かせるよ」


 一通り会話を終えると、オグロはミスラに休むように言ってから部屋を出て行った。

 話し相手がいなくなることはつまらなかったが、しぶしぶと返事をしたミスラはゆっくりと目を閉じる。


「……ミスラの本体、ホントに無事かなぁ……」


 何気なく呟いただけだったが、声に出すことで不安がより一層深まった気がしたミスラは、嫌な予感を払拭しようと考えるのを止めて、眠りにつくことにした。


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