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レジャンダール  作者: 鴉野来入
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◇百九 王都カピタール包囲戦①

「シャルル! てめぇ、どさくさに紛れて政敵を討ったな!」


 アロイスはシャルルの足元に転がる鎧姿が、ヴァレリアーノだと確認すると苦々しく叱咤する。

 それを受けてシャルルは、まるで初めて鎧の人物がヴァレリアーノだったと気がついたように驚いて見せる。


「ヴァレリアーノ候!? 私はてっきり賊の仲間だと……」


「シャルル殿。その態度が茶番なのは私でも分かる。魔法の腕は大したものだと聞いているが、演技は不得手のようだな」


 すかさずシャルルを睨みつけ、毒を吐いたのはアポリーヌだ。

 余計なことをしてくれたものだ、とアポリーヌはシャルルへの敵愾心を強める。


 第一、この男は最初から信用ならなかった。

 王都潜入班をトカゲのしっぽ扱いしたこと。

 フランシス家の暗部という便利な連中がいるにもかかわらず、アポリーヌたちを暗殺の実行犯にするという判断。

 それに、ヴァレリアーノ候に情報が漏れたのはニコラの裏切り行為が原因ではあったが、行動を共にしていたフランシス家の暗部はその事に気が付かなかったのだろうか。

 気がついていたとすれば、その報せがシャルルの耳に入っていないわけがない。


 同盟派の筆頭がフランシス候だという事実のせいで、今まで疑いもしなかったが、もしや、シャルルは同盟派ではないのではないか。

 短い間に幾つもの裏切りを経験したアポリーヌは、既に疑心暗鬼に陥り、シャルルも過激派に加担していたと推測を進める。


「シャルル殿。貴殿に聞きたい。貴殿は同盟派か? ……それとも、過激派か?」


「……面白い質問をしますね。――アロイス、アポリーヌ嬢が何故こんな所に? 状況によってはアポリーヌ嬢を捕らえなければなりません」


 アポリーヌの質問へは返答せずに、シャルルはアロイスを見て話す。


「シャルル隊長殿。判断はちょっと待ってくれ。俺にも状況が飲み込めてねぇんだ……」


 アロイスは額に脂汗を滲ませながら、アポリーヌとシャルルを交互に見る。


「シャルル!! 質問に答えろ!! ――」


 シカトを受けたアポリーヌは怒鳴った直後に詠唱を口にする。

 アポリーヌの口元が炎熱魔法の詠唱を開始したと見るや、シャルルは発動速度で上回る旋風魔法を自分の背後で発動し、爆発的な跳躍をした。


「――ツイストダッシュ。まずは大人しくしてもらう他ありませんね」


 瞬き一つの間にアポリーヌの懐に飛び込んだシャルルは、背中に背負っていた大型のカイトシールドを構えて体当たりをかまし、壁際にアポリーヌを追い詰める。


「動けないでしょう? 次に詠唱をしたら、流石に喉くらい潰さなくてはなりません」


「シャルル!!!」


 娘を取り押さえられて、アロイスが怒鳴り声を上げる。

 シャルルはそれに対して涼しく返した。


「アロイス。とりあえず地上に出ましょう。アポリーヌ嬢を抑えるのは貴方が代わってください」


「……わかったよ……! さっさとどけ!」


 こうしてアポリーヌは実の父に取り押さえられたまま、配管から地上へと連れられた。




 ガタンと地上への出口に鉄格子が嵌め直されて、拘束されたアポリーヌはまた土砂降りの雨が降り続く王都の景色を見る。

 下水道を歩いた時間はそれほど長くはなかったが、アポリーヌは王都の様子が様変わりしている様に感じた。


「…………騒がしいな」


 ポツリとアポリーヌが呟いたのは、なんでもない感想だった。

 娘の両手を抑えているアロイスは、そんな感想を拾える距離にいる。


「……王国騎士が賊を探してんだ。騒がしくもなるってもんだ……」


 意気消沈といった様子で、下水道に現れた時とは打って変わった態度のアロイスが、ぼんやりと先を歩くシャルルの背中を眺めている。


「…………確かに騒がしいですね。賊を追うのに騒ぎを起こすのは、アロイスくらいなものですが……」


 会話を聞いていたのか、シャルルが振り返らずに言う。

 そして、キョロキョロと周囲を睥睨して様子を探っているようだ。


「……こいつぁ、戦いの音だぜ? 街中で、か? 何が起こってやがる」


 続いてアロイスも耳をそばだてて騒乱を分析する。

 アポリーヌも二人に習って自分に芽生えた違和感の原因を探す。


 確かに、街は騒がしい。

 雨の音で聞き分けづらいが、ざわざわと人の集まった様な声ではない。


 甲高く金属のぶつかる音。

 パチパチと何かが燃えるような音。

 そして、その火が雨によって沈黙に変わるジュウジュウという音。


 悲鳴。


 慟哭。


 哀願。


「…………!! ――デテクトレヴィン!!」


 シャルルが動揺を貼り付けた表情で、感知魔法を発動させた。


「襲撃か!!」


 アロイスも鋭い感覚で、街の異変の正体に気がついたようだ。

 アポリーヌも父親譲りの鋭敏な感覚で、同じ結論に至る。


「王都を襲撃しているのは、結構な数ですよ……! 一体どうやって現れたと言うんですか、これは……」


「ネイバブールの先制攻撃か!? それとも、マクシミリアンが戻って襲撃してんのか!?」


「違います! これは……街を襲っているのは、悪魔軍です!!」


 台詞と同時にシャルルが指差した方向には、身長ほどの槍を持った鎧姿の悪魔が青黒い翼を広げている所が見えた。




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