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レジャンダール  作者: 鴉野来入
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◇百八 仮面を纏う絶望

 自分の戦場に、ここまで酷い横槍を入れられたのは初めてだ。


 マクシミリアンはまず初めに怒りを覚えた。

 ほぼ引退したと聞いていた"急雷のジョゼ"と戦えるなど、願ってもみなかった機会であり、戦に私情を挟むことの無いマクシミリアンでも心躍るものがあったことは否定出来ない。

 それを邪魔されたのだ。

 怒りを覚えずとしてなんとしよう。


 そして、次にマクシミリアンは不安を覚えた。

 これはマクシミリアンにとって戦場で感じる初めての感情だった。


 強敵だと想定していた"急雷のジョゼ"。

 現にジョゼは百戦錬磨のマクシミリアンを完璧ではないが手玉に取り、視覚を奪ってみせた。

 もし、横槍を入れられなければ、マクシミリアンは致命傷を負っていた事だろう。

 もちろん、マクシミリアンもただの木偶ではない為、ただでやられるわけもない。

 反撃し、相打ちの覚悟で霆狼をけしかけるつもりではあった。


 そんな状況をぶち壊すことのできる乱入者は、もしかしなくてもジョゼやマクシミリアン自身では、全く話しにならないほどの高みにいる人物ではないだろうか。


「いや……人なのか……?」


 マクシミリアンが意図せず漏らした疑問は、乱入者の耳に届いたらしい。

 答えが帰ってくることを期待しない疑問に、キシキシと不快な音が返す。


「人ではありませんヨ。……それだと、少し語弊がありますカ。身体は人でしタ。中身は――そうですネ。魔物だと思ってくださイ」


「悪魔……」


 人ではない魔法を操るもの。

 それを想像してマクシミリアンは"悪魔"と言った。

 それは単に悪魔という種族を指しただけではなく、乱入者が行った所業を現す形容でもあった。


「少し違いますネ。悪魔と魔物は同義では無いのですヨ。生物と人間が同義でないのと同じように……ネ」


 乱入者は生物学的な分類で答えるが、マクシミリアンに取ってそんな答えはどうでもいいことだった。


「何故、現れた……貴様のような……魔物など聞いたこともない。魔法をこれだけ操る者など……」


「今日は自己紹介が多いですネ。私は聞かれたことには答えたくなる気性でしてネ……。私はナーダといいまス。十八熾将"うつろうナーダ"。貴方が最後に知る名前ですヨ」


 今から殺す。

 そう宣言されたに等しい自己紹介に、マクシミリアンは不安と怒りを更に強めた。


「――ブリッツファング!!」


 目は少しずつ慣れてきた。

 未だに黒い斑点が視界の中央を漂ってはいるが、意図して焦点をずらすことによって目の端で全てを捕らえる。


 黒衣に仮面の男が、地面から少し離れた所を浮遊している。

 足元には人間の形をした黒い炭。

 ジョゼの成れの果てだろう。


「その魔法は便利そうですネ。私には…………う~ん、どうも上手くは出来ないようですガ」


 魔力を練って電撃とする所作が垣間見え、仮面の男――ナーダの周囲にパリパリと放電現象が起こる。

 "ブリッツファング"を真似ようとしたナーダは、どうやら魔法の模倣に失敗したようだ。


 それもそのはず、"ブリッツファング"はマクシミリアンの独自の魔法だ。

 電雷魔法を特定の形状に変化させ、操る魔法は他にもあるが、狼の形を取ったものは他にない。


 魔力に生物の形を取らせるのは、魔力のそのまま風や雷に変える旋風魔法や電雷魔法では難しいのだ。

 大抵が"スパークリングネット"や"ウインドカッター"の様に単純な形状になる。


「そうやすやすと、真似られてたまるか。"ブリッツファング"は儂が生涯を掛けて研ぎすませた儂だけの牙だ! 人外だろうと……十八熾将だろうと怯みはせん!」


「わざわざ、獣の形にしなくてモ……。これでいいじゃないですカ? ――エレクトリックバウンス」


 ナーダが片手の掌を上に向けると、ジジジジと音を立てながら電光の球体が精製される。

 その球体はそのまま上空へと舞い上がり、今度はパンッと破裂音を響かせて炸裂した。


「な、なんだ……!?」


 マクシミリアンは目の端でなんとかその球体が破裂した所を見たが、その後の光景には目を疑った。


 球体は上空で弾けると、小さな無数の球体へと分裂し、四方八方に散っていく。

 その殆どがとんでもない速さで地面に落下するのだが、着地と同時に発光し、また別の方向へと弾む。


 パァン! パン! パァン!


 そこら中で電光の球体が跳弾し、耳をつんざくような破裂音が続く。

 さながらマクシミリアンとナーダの立っている場所は、そこを中心とした半球状の電界と化し、その中を触れれば即感電の球体が縦横無尽に迸る。


「広範囲を攻撃する電雷魔法なら、こちらのほうが手軽に出来まス。……下手に動くと危ないかもしれませんヨ?」


 ナーダの忠告を聞き、マクシミリアンは身を竦めた。

 触れれば即死の嵐の中で、動くことが死に繋がるならマクシミリアンは完全に手詰まりだ。

 そこで、マクシミリアンは既に展開した霆狼に、自分の周囲を守らせようと指示を出す。

 霆狼は電雷魔法の塊のため、致死の球体を受ける盾には持って来いだ


「ブリッツファング! 儂の周囲を固め――――ぶわぁ!?」


「かと言って、動かないのが安全とは限りませんガ……。遅かったみたいですネ」


 ナーダはつまらなそうにエレクトリックバウンスに回す魔力を解除して、一瞬にして黒焦げになったマクシミリアンを見下ろした。




「さて、後は一番隊のシャルルとか言う魔法使いですカ。……都に戻るのは面倒ですネ。シャルルの方は"依頼人"が自分でなんとかするとしておきましょウ。私は――」


 ナーダは仮面の奥から目を凝らし、街道横の丘を見据えた。

 その視線の先には、アンジェロ軍の残党が豆粒のように小さく見えていた。

 

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