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レジャンダール  作者: 鴉野来入
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◇百ニ 再来

 撒いた。


 足手まといが気がかりだが、猛剣の追撃を撒く事が出来た。

 父アロイスの身体能力の規格外さはよく知っていたが、ヴァレリアーノに変装をさせ、建物の外に出ることは出来た。


 しかし、自分はこの後どうするつもりなのだろう。


「垣根を超える。先に飛べ」


 思いの外ヴァレリアーノは従順に指示に従う。

 垣根を順番に飛び越え、着地した先でアポリーヌは炎熱魔法を詠唱し火を着けた。


 点火された一点を元に炎が勢い良く広がり、来客用の建物は周囲を炎に包まれる。


「……準備していたのか」


 ポツリとヴァレリアーノが零す。


「どこの魔法屋でも売っている炎熱魔法の魔法媒体だ」


 ラドミラに案内されて匿ってもらった魔法屋で大量に購入した油。

 それを建物の周囲に撒いておいたのだ。


「復讐さえ遂げられれば後のことはどうでもいい、と言ったところか」


 ヴァレリアーノの言葉に、言い得て妙だな、とアポリーヌは思った。

 吹っ切れたと言えばそうなのだろうか。

 王城の敷地内に火を放つなど、普通では考えられない事だ。


「おまえは私を殺した後、どうするつもりだったのだ?」


 ヴァレリアーノは臆すことなく尋ねる。


「随分と余裕があるようだな。もう殺されはしないと高を括っているのか?」


「何を言うか、先ほど私の部屋に駆けつけたのはアロイスとシャルルだったろう。おまえの父アロイスはともかく、シャルルは同盟派の使徒だ。いくら機会を脱したとはいえ、私が賊に殺されたことにするのには絶好の機会だった。命拾いしたことに変わりはない」


「拾いきれていない、と言っている」


 騒がしくなっている場所を避け、ヴァレリアーノを連れたまま王城を迂回する。


「落ちろ」


 辿り着いた先は下水道へと通じる配管だ。

 ヴァレリアーノを先に蹴落としてアポリーヌ自身も着地する。

 豪雨の影響で下水道の流れは速い。


「少し進めば開けた場所に出る。急げ」


 後ろからせっつくようにヴァレリアーノを急かして少し開けた場所に出た。

 この場所は一度アポリーヌも通っているので知っている。


「話せ。マリーについて貴様が知っていること、全てだ」


「その前に聞きたい。おまえは私を殺さないという選択肢はあるのか? そうでなくては話す意味が無い」


「助かりたいのか。ならばしっかりと言い訳をしろ」


 殺さないとは決して口にせず、アポリーヌは促す。


「……先ほど述べた通り、私はマリー嬢の誘拐を計画していた。常に側にいるアロイスの娘――おまえを遠ざけたのはその一環だ。おまえがいる時に襲撃しては、猛剣に返り討ちに合う可能性が高い。念には念を入れたわけだ」


「ほとんど同じ立場だったにも関わらず、マリーが護衛隊に選ばれなかったのはそのためか」


「……護衛隊の面子は私が手を回して操作した。マクシミリアン候が王都に入った後、誰に接触するかを見計らって行動を移す予定だった。同盟派がマクシミリアン候を呼び寄せたことはわかっておった。だが、それがフランシス家の者かそれ以外の者かがわからぬ内にマリー嬢を誘拐しても無駄骨になる可能性があるからだ。フランシス家の者だったと明確になっても、フランシス家の誰か、までわからなくては誰に圧力をかければよいかも変わってくる。だが、事は先に動いてしまった」


「…………」


 ヴァレリアーノの表情を観察しながら、アポリーヌは黙って話を聞く。


「マクシミリアン候が到着した当日にマリー嬢が行方不明になったという情報が入ったのだ。そして翌日には遺体が見つかった。その時、まだマクシミリアン候は派閥の関係者との接触はなかったが、十中八九フランシス家の者が関わっていると見た私は、フランシスにカマを掛けてみることにしたのだ」


「……それは、聞いたな。あろうことかマリーの死を利用するとは、それだけで貴様を殺すには十分だ」


「早まった私の部下や過激派の血気盛んな連中の仕業でないことは確認済みだ。……マクシミリアン候自身かとも思ったが、マリー嬢とマクシミリアン候の接点も考えられぬ。なによりマクシミリアン候には何の特もない。これは私の憶測だが、巷で噂されておる連続殺人犯の事件に巻き込まれたか、と考えた」


「……!」


「心当たりがあるな? マリー嬢が事件に付いて調べておったという事は知っている。ただ、マリー嬢が殺人犯の標的になるほどの使い手だったか……」


 ヴァレリアーノの言うことには真実味があった。

 マリーの仇はヴァレリアーノではない。

 そう、納得してしまったアポリーヌは納めきれない矛の行先を見失った。


「…………貴様はどこまでその殺人犯について掴んでいる」


 眼の色が変わったアポリーヌにヴァレリアーノは、しめたと思った。


「正直、殆どわかっておらん。手練の上級魔法使いを幾人も殺めたという事から、かなりの使い手だとは思っておるが……それに該当する者は……それこそ一番隊のシャルルやアロイス、急雷のジョゼに霆狼のマクシミリアンくらいしかおらんのだ」


 アロイスではない。

 シャルルにも特は無いだろう。

 ジョゼに至っては襲撃を受けた被害者だ。

 マクシミリアンも隣国から来たばかりで時期が合わない。


「……禍風のヴラスタ?」


「彼女が住むのは遥か遠方だ。物理的に不可能だろう」


「ならば誰が犯人だというのだ!!」


 バン! とアポリーヌは自分の横にあった配管を殴りつける。

 雨音に混じって金属の甲高い音が響いた。


「誰かいるのかっ!?」


 しまった、と思った時には既に遅く、アポリーヌが逆上して立てた物音は上界へと伝わり、格子の上で騎士が応援を呼ぶ声がする。

 直後――


「ここかぁ!!!」


 聞き覚えのある怒号――いや、咆哮が雨音を吹き飛ばし、同時に下水道と上界を隔てる格子をも吹き飛ばした。


「父上だ!」


「アロイスか!」


 声を揃えてアポリーヌとヴァレリアーノは降り立つ人影を迎えた。

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