夏の日、冷たい雨の下で
その日、雨が降った。
夏なのに肌を刺すように冷たい、そんな雨だった。
僕は学校の昇降口から、雫で霞んでいる景色を見る。
向こうには、山頂が雲で隠れた山がある。
向こうには、灰色の雫で埋め尽くされた平野がある。
向こうには、視界を遮る校舎があって、突き出た屋根の下に君がいる。
傘を持っていないのか、君は空を見上げて溜息を吐いていた。
ちょっとだけ時間が過ぎて、君は屋根の下を歩き出す。
校門に一番近い所まで歩いた君は、また足を止めて空を見上げる。
その目は何かを決意したような、神秘的な光を灯していて。
そして、君がいざ走り出そうとした時、ちょっとだけ強い風が吹いた。
"あっ"という君の残念そうな声と共に、艶やかな黒髪が少しだけ濡れる。
そして、君は残念そうな顔で、また深く溜息を吐いた。
僕は鞄の中に入れていた折り畳み傘を広げ、雨の中を進みだす。
その行く先は、山の方向でも、平野の方向でもない。
君の所へと、静かに、だけどしっかりした足取りで。
そして、振り返った君に微笑みかけて、僕は提案する。
"ちょっと、駅まで一緒に行かない?"
君はちょっと悩む仕草を見せた後に、こう言ってくれた。
"じゃあ、お願いしようかな"
それを聞いた僕の顔には、少しだけ血が昇って。
そう言った君の顔は、少しだけ朱が差していて。
そして、僕たちは肩を並べて歩き出す。
小さな傘の下で、濡れないように体をくっつけながら。
はみ出た肩が少しだけ冷たかったけど。
君に触れている反対の肩は、とてもあたたかかった。