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2045年  作者: シュレディンガーの犬
8/17

暗躍-3

ブリーフィングルームを出ようとしたとき、

ジェファソン大佐に呼び止められた。


『ファインマン大尉、ちょっといいかね』


「何でしょうか?」 

 

また、今回の日本行きにあったような特命だろうか。

そうであればそれで構わないのだが、

などと思っていると、


『ちょっと待ってくれないか』


と全員が出て行くまで待たされる。

 

残っているのは、

ジェファソン大佐、ジョンソン中佐、スティール少佐、

と僕だった。


『これから、ハワイ支部長の

 コバーン中将に会いに行く。

 これは公にはしないでくれ』


と念を押され、部屋を後にする。


コバーン中将の執務室に、列の最後尾で入っていくと、


参謀長、ガーナー少将

コバーン中将副官、レーガン中佐

ハワイ支部海戦部隊指揮官、ウェルチ大佐

ハワイ支部情報部指揮官、ブロンソン大佐

潜水艦<ワーグナー>艦長、ミッチェル中佐

潜水艦<マーラー>艦長、オートレイ中佐


の7人が既におり、ちょっとした密室会議になる。


僕も入室して、従卒がドアを閉めると始まった。

対面式のソファーがあり奥からコバーン中将、

ガーナー少将が腰をかけ、

レーガン中佐が立って後ろに控えている。

僕が位置する側には、

ジェファソン大佐、ブロンソン大佐が腰をかけ、

その後ろに、

ジョンソン中佐ミッチェル中佐、オートレイ中佐、

の艦長三名とさらに後ろで

スティール少佐と僕が並んで立っていた。

 

唯一、対面していないのが、

テーブルの側面に位置するソファーにかけた

情報部指揮官のブロンソン大佐だった。


 

密室会議冒頭でコバーン中将がまず口を開き、


『ファインマン大尉、

 まずは交渉ご苦労さまだった。

 思惑どおりに進めてくれた』


「ありがとうございます」


と言ったあと、コバーン中将はさらに続けた。


『この中で、既に知っている者もいるが、

 今回の作戦が上手く言った場合、

 最も我々にとって有利な展開は、

 日本とアメリカが、

 中国かロシアを疑ってくれることだ。


 そうすれば、

 さらに我々のクライアントが

 増える事態が起こるかもしれない』

 

ここからは、ガーナー参謀長が引き継いだ。


『グリーンランド本部は

 一気に極東で火がつくことを狙っているようだ、

 最もほどほどにだが。


 そこで我々も

 潜水艦を<ドヴォルザーク>に加えてもう

 一隻<ワーグナー>を出撃させ小笠原諸島付近で待機させる。


 <ドヴォルザーク>は任務終了次第、

 このハワイ支部へ帰還。

 交代で各種装備を搭載し<マーラー>も出撃して

 <ワーグナー>と合流。今後の展開に備えて待機する』

 

ブロンソン大佐はさらに付け足した。


『今回は、今までの紛争地帯とは異なり

 先進国に仕掛ける初めてのテロになる。

 そのため我々ハワイ支部だけでなく、

 ロード島支部、小アンダマン島支部、

 ソコトラ島支部、ファイアル島支部、

 から潜水艦を1隻出港させることになっている。

 3海洋にそれぞれ展開し、混乱を見極める方針だ』

 

ブロンソン大佐は一端ここで話を切ると、さらに進めた。


『そして、これは別の計画になるが、

 今回のスティール少佐の率いる

 チームの作戦の先には日本の誇る

 AIのデータセンターの位置を

 特定することが狙いだ。

 この作戦は第1段階に過ぎない。


 我々も、日本のAIが収集するビッグデータや

 統計解析のデータセンターがどこにあるのか、

 未だ掴めていない。


 それは日本が上手く隠しているからだが、

 AI自治区のテロを依頼してくるクライアントが

 今後現れたときに、

 その位置がわかる、と我々は期待している』


そして、コバーン中将が最後を締めくくる。


『だから、ファインマン大尉。

 まずは上手く進めてくれ。

 出来れば、ブラッグ中尉ではなく

 上陸作戦遂行も君の方が適任だと思っていることを

 覚えていておいてほしい。


 それとジョンソン中佐、ミッチェル中佐、オートレイ中佐、

 スティール少佐、忙しくなるがよろしく頼む』

 

そして、一同を見渡しコバーン中将は締めくくった。


『皆の健闘に期待する』


 

コバーン中将の執務室を出て、

高級将校、高級士官の執務室フロアを出ると、

エレベーターを使って<アームド・スーツ>の格納庫へ向かう。


ここのエレベーターは静粛性を持っているが、

横浜で乗ったものと比べると

ただの上下しか移動できないワイヤー式だった。

 

こう考えると、コケのように言った

横浜の新自由自治区もリニアエレベーターもあり便利だった。

日本の凄さを改めて感じた。

 

先ほどの会議にあった狙いの先を僕なりに探ってみる。

 

恐らく、日本のデータセンターと

AI自治区が関係しているとすると、

大型の量子コンピュータ演算機能を壊すか、

データリンクを切って、

データの流れを大幅低下させたときに生じる

『テータ量の変化』だろう。

電力を細かく測定して、

大体の位置を割り出すのか。


そのとき使用するのは中国政府が

極秘裏に進めている

『ダイナモ理論を使った地震攻撃兵器研究』

に関係する人物から引き出すのかもしれない。

 

もともと、地震が多かった中国政府が

地震予知にマントル対流の関係を探り、

ダイナモ理論による地球磁場の研究を始めたのが、

地震兵器研究の始まりだった。

もっとも、そのときは地震予知研究だったが。


その後、中国政府はこのデータを細かく収集し、

地球上の磁場変化から

大きな電力の流れの変化を測定できるとされている。


これを、利用すれば確かに

AI自治区の量子コンピュータを止めるだけで、

日本のデータセンターの位置がわかるかもしれない。

 

先ほどのコバーン中将の野心的な言葉を思い出す。

そうすると噂で聞いたカムチャッカ半島に

もう1つ新しい太平洋基地を作るかもしれない、

というのもまんざらでたらめではないということになる。

 

物思いにふけりながら歩いていると、

格納庫に着いた。今回の任務で一緒になる

潜水艦<ドヴォルザーク>の技術士官の責任者、

ライト中尉に挨拶すると、

担当の整備兵を紹介してもらった。

 

<アームド・スーツ>は担当整備士長が決まっており、

担当者との意思疎通は

<アームド・スーツ>の性能を十分に引き出すため

必要不可欠だった。

 

担当整備士長は技術部下士官が着くことが多いため、

尉官以上しか搭乗できない<アームド・スーツ>では、

その整備長とは上下関係がついてしまうのだが、

僕はその関係があまり好きではなかった。


『はじめまして、ファインマン大尉。

 ポプラン伍長であります』


「はじめまして、ポプラン伍長。

 仕事中に悪いけれど、時間は構わないかな?」


『構いません、何なりと』


「僕が乗る機体を見せてくれないか、

 あとできれば実際に乗って細かな調整を行いたい」


『すいません、大尉。

 現在、大尉の乗る予定の<アレグロ>、

 <ドヴォルザーク>用1号機は定期オーバーホール中で、

 仕上がりは3日後になります』


「そうか、残念だな。

 まあ、無理を言って困らせても悪い。

 しっかりとメンテナンスを頼むよ」


『はい』


「あと、武器を換装するだろう。

 既に決めてあるから、

 言っておいて構わないかな?」


『伺います』


「セラミックナイフを2本、

 ポジトロン・ハンドガンを2丁。

 それと、光学迷彩を第3世代型で

 使える装甲にしておいてほしい」


『わかりました』


あくまで、ポプラン伍長は律義に答えてくる。


「そんなに硬くならなくていいよ、伍長。

 それだと最後の注文がしにくくなる」


『はあ、すいません』

 

そして最後の注文をした。


「搭載されるAIとの調整を行いたい、

 4日後の12日から3日間。

 15日まで毎日くるので、

 整備に付き合ってほしい。

 ポプラン伍長の勤務で空いている時間を

 メールしておいてくれないか?」

 

そういうと、格納庫を後にした。


 

この、ハワイ基地は比較的恵まれていて、

都会のホノルルが近いため、

定期便の静粛性潜水艦で外出するものも多い。


元々、アメリカ国籍や、

表向きのペーパーカンパニーに所属して

ビザを取得している者ばかりなので、

ホノルルは遊びに持ってこいだった。

 

僕のいるハワイ支部を含めて、

ロード島支部、小アンダマン島支部、ソコトラ島支部、

は都会に結構近いため、同じような手段で外出できるが、


ファイアル島支部とグリーンランド本部は

都会が遠いため娯楽施設が限られていた。

 

グリーンランド本部は、

大きいこともあってそれなりに

娯楽施設も充実しているが、

ファイアル島支部はいつも


『イギリス領ジブラルタルから定期チャーター便を出せ』


と勤務者から声が上がるのだそうだ。

 

もっとも、そんなことができるはずもなく、

結局は長期勤務、長期休暇で我慢しているという話だった。

 

ジョンは早くもホノルルに出たようだが、

娯楽は僕にはあまり関係ない、

と思うので必要なかった。

外出するのは、陽の光を直に浴びたいときだけで、

あとはトレーニング、読書、<アームド・スーツ>のシュミレーターで

時間を過ごすのがほとんどだ。

 

陸戦部隊の部屋もあるが専用デスクはなく、

たまに覗くだけで、

特に予算申請の時以外は入ることもない。


メールも腕時計型のウェアブル端末に届くので

PCもほとんど使わなかった。



      ◆

 


そもそも、この規模の組織が

なぜ内通者も出ることなく、

独立して国家並みの軍隊規模を誇れるのかは、

かなり謎だった。

本部や支部に出入りするものは

僕と同じく腕時計型ウェアブルセンサーで

会話までログされているし、

情報漏れは少ないかもしれないが、

それだけが理由なのだろうか。

 

兵力を消耗するテロ行為は、

情報部が仲介して資金源としている。


そのため、戦闘テロで組織の直接の人間は

死ぬことはまずない。

今回のような特殊任務でもない限り、

直に組織から出撃する人間はいない。

それも、この組織を保っている1つと言えた。

 

陸戦部隊が出撃するときは

ミサイルのレーザー誘導や施設の破壊など、

アメリカのレンジャーやデルタのような

戦術のしっかりしたものだった。

海戦部隊も同じようなもので、

一定の施設を狙ったミサイルテロや

ミサイルの迎撃に

レールガンを<アームド・スーツ>で撃たせる程度だった。

 

「あとは僕たちのような飼い犬」の存在が

大きいのかもしれない。

もともと、組織に管理された人間は、

組織外では生きていけない。

 

それでも単なる、ひとつのテロ組織に

そこまで出来るものなのか?

と疑いたくはなる。


もしかすると、僕のようなiPS細胞を

採取されている人間でない、

普通の人間、でもこの組織を抜けたとして

世界中で生きる場所など無いのかもしれない。

各国の要人クラスと何だかで繋がりがあれば、

それも可能かもしれない。

暗殺される、という事だ。

 

だが僕は生き続けることなんて

望んでいないのだから構わないが…。

ただ、この組織をバラバラにすることさえできれば

構わなかった。

もっとも、それが難しいのだが。



      ◆

 

 

まだ、夕食には早く、時間があるため

シュミレーターをすることにしたが既に先客がいた。

同じ陸戦部隊のマーガレット=ディラック中尉だ。


『あら、帰ってきてたの?』


「ああ、さっきね」


『で、今度は乗るの、<アームド・スーツ>に?』


「一応、予定されているよ」


『で、「そのための肩慣らしに来た」ってわけね』


 

マーガレット=ディラックは

身長5.3フィート。

兵士らしい強い目つきをしているが、

それは人前だけであって、

可愛らしい顔つきをすることもあるのを知っている。

大きな猫目と、小さめの鼻と口が特徴の女性だった。

僕と同じく、ラボで育ち今まで

負傷なしで任務をこなしている。

身体の若返りのために換装手術を行っていて

脳以外はiPS細胞の身体だった。

それもあって27歳のはずだが、20歳ぐらいに見える。

 

<アームド・スーツ>と陸戦の格闘技に長けていて、

陸戦隊のメンバーからは『鉄の女』とか

60歳近い整備士からは『サッチャー』などと呼ばれている。

もっとも、本人は全く気にしていないようだったが。


『どうよ、アル。私と腕試ししない?』

 

そう言って、マーガレットは返事も効かず

シュミレーターに乗り込む。


「おいおい、メグ。確か俺の26勝2敗だったから…、

 って聞いていないね、仕方ない」

 

お互い、『アル』、『メグ』と呼ぶ程度には

仲が良いと思う。数少ない打ち解けられる人間だった。

 

僕もシュミレーターに乗りこむ。


 

<アームド・スーツ>は実際には24フィートほどの

直立式2足歩行のロボットで、

搭乗時のGが少ないように立って乗る姿勢を取る。

コクピットに治まると、

ベッドのマットレスのようなもので

全身を締め付けて安全を保つと同時に、

操作系に直結する。

専用のヘルメットをかぶり、

そのバイザーに映像が映し出される仕組みだった。

 

これで頭部の目に当たる部分に2カ所カメラがついてあり、

これだけで立体的に映像解析できる。

さらに腰の見えないほど小さな部分に1カ所カメラがついていおり

サブとして機能していた。

バイザーには3次元的に映像が映る。

手にも、手袋を装着して、

5本の指を使うのだった。

 

今回はシュミレーターなので、

スーツ姿でも可能だが、

本来は専用のプロテクタースーツを着て、

感覚を研ぎ澄まして乗るようになっている。


 

シュミレーターのフロントハッチが閉まると、

地形設定してシュミレーション開始になるのだった。



      ◆


 

結局、2時間は付き合わされた。

本当のGがかかる<アームド・スーツ>に比べれば

大分マシだったが、それでも集中力はかなりのもので、

久々な事もあって流石に疲れた。

お互いに、シュミレーターを降りると、


「結局連敗しただけだったな、メグ」


『アルこそ、女の子には優しくしろ』


と言いながら、

汗でベトベトになったスーツパンツを見やる。

流石にこれはクリーニングが必要だろう。

1回履いたを通しただけだというのに、最悪だった。

 

ドローンがシュミレーターの使用後の

メンテナンスに取りかかる。

ここに来たもう一つの目的を

メグから聞きださなければならなかった。

僕たちしかわからない悩みに関してだった。

それでも、聞くのに多少の抵抗を覚える。


「なぁ、メグ」


『ん?』


「僕は、今回の任務が終了したら、身体の換装作業だ」


『あぁ、そうか。アルも25歳だからね』


「身体を換えた後の感想を聞いても構わないかな?」


怒るかと思ったが、真剣さが伝わったのか、真面目に考えてくれたようだ。


『正直、人によるとは思うけれど、

 私は苦労した。

 細かい感覚は今も戻っていないのかもしれないって

 ときどき思う。

 何かをして、

 例えばトレーニングや訓練をして数値を見たら、

 正常なんだけれどね。

 とにかく、なんて言うか、

 自分のベースをゼロにされてしまう気分になるわ』


「そうか、ありがとう。参考になったよ」


『やっぱ、怖い?』


「いや、怖いことはない。

 失敗したら処分されるから痛みはないと思うし。

 ただ、復帰は早くしたいからね、

 そのためのコツを聞いておきたかった」

 

思っていることの半分は伝えた。

 

組織に復讐するために

早く身体の感覚を取り戻す必要があるのだ。

今回、支部長の密室会議に顔を出せる程度には

組織の機密情報に触れる機会を得た。

復讐するためには

もっともっと上に行かないといけないのだから…。

 

そう思いながら去ろうとして、


「シュミレーター、面白かったよ。ありがとう」


と伝えると、メグの方から、


『アル、夕食ぐらい一緒しなよ。基地の食堂だけれど』


と誘われて、夕食を一緒にとることになった。


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