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2045年  作者: シュレディンガーの犬
15/17

決戦-1

2045年1月25日 10時20分

兵庫県、滝野社IC



一端降ろされた、<アームド・スーツ>、<MAS-3>と

次いで着陸したV-22ver.2<スーパーオスプレイ>から

担当の巡査長が降りてきて説明をし、美冬ちゃんが受けている。

この作戦の担当は今や国家安全保障庁に移り、

現在の責任者は美冬ちゃんだった。

 

俺は、ヘリから降ろして

<アームド・スーツ>の専用プロテクタースーツを着る。

全身カーボン繊維でできていて、

タイツのような服装。ところどころ固めの部分があり、

貴重なセンサー類、ホールド性の高い部分、

緊急で降りたときに使用する武器も拳銃かナイフなら

収納できるところが一ヶ所ある。

降りてすぐに戦えるように、ある程度の防刃性がある。

 

ボタンを押してスーツを身体に密着させた。

そして、愛用の拳銃グロック19を入れる。

32口径だと、鎮圧にちょうどいいし、扱いやすかった。

 

神蔵先生と美鈴に出発の挨拶をすると、

美鈴が泣きそうになりながらも


『活躍してきなさいよ』


と言ってきた。もしかすると、

美鈴のしおらしい姿を見たのは初めてかもしれない。

 

認証を行いハッチが閉まり、

直立のホールドシートに収まると身体が押さえつけられるように締る。

ヘルメットを着用しバイザーをおろすと、視界が360度開けた。


『警視、発信します』

 

パイロットがそう告げると、機体がヘリにホールドし発信する。


『聖さん、聞こえますか?』


と美冬ちゃんが言ってきた。


「感度良好だよ」


『まずは飛行ルートを示したあと、すぐに既に終了した戦闘のモニターを見せます。

 わずかに10秒程度です』

 

伝えられると、画面が切り替わる。

ルートは六甲山系の裏を抜け東側から敵機に接近する方法をとっている。

日差しを気にするにはいささか、関係ない気もしたが、余計な事を考えている暇もない。


グッとGがかかり飛行モードが切り替わったと思う。

オスプレイの最新型は巡航速度で時速600キロを軽く超える。

こちらの機体も、空気抵抗が少ないように、

背中をオスプレイの底面に張り合わせる形で固定されているので、

速力ダウンにあまり差支えないだろう。

問題なくルート通り飛べば8分から10分と言ったところだった。

 

画面が切り替わり、戦闘シーンが1度映る。

前に転がり出てきた<アームド・スーツ>が

セラミックナイフとポジトロン・ハンドガンを持っている。

装備はこちらと変わらないのだが、速い。

俊敏に動き、接近してきたと思ったら消えた。

全<アームド・スーツ>から消えており赤外線センサーの反応すらない。

瞬間といえる5秒ほどで全機方向は違うが、倒れる。

全員死角から攻撃されていた。

 

見終わったタイミングで、美冬ちゃんが話しかけてくる。


『聖さん、見てもらって何かわかりますか?』


「この運動性能は、内骨格型の<アームド・スーツ>だね」


『やはり、聖さんもそう思いますか?』


「ごめん、美冬ちゃん、作戦中だけ、

 桜木か美冬のどちらかでいいかな。短い方が呼びやすい」


『じゃあ、美冬で。私も(ひじり)で呼びます』


「助かるよ。話を戻すけれど、俺のPCを見てもらうと、

 内骨格型<アームド・スーツ>の利点はまとめてある。

 但し、作るまでにはいろいろ技術面で無理があるから、

 まさか作っている連中がいたとは…」


『まとめてあるPCを見させてもらいました。

 凄いですねこのまとめも。

 これから考えられるのは接近戦が得意ですよね』

 

俺の語調も作戦が迫っているため早くなり、雑になっていく。

多分、美冬ちゃんを目の前にしてはこの荒い話し方では言えないだろう。


「恐らく。相手の手にしていた武器は近接戦闘用だし、

 運動性能でもレールガンの照準出来ずに

 光学迷彩使用前に30メートル近く接近されている」


『勝てますか?』


「いや、このままじゃ確実に負けるね」

 

そうだ、このままでは単に潰されに行くだけだ。

何か方法は無いのだろうか。完全光学迷彩ということは、向こうもまったく見えない中を、

勘を頼りに動いていることになる。

そこに反撃の糸口がないだろうか。

手持ちの武器が他にたくさんあるように見えないし、

破壊された<アームド・スーツ>のカメラ映像や、

やられたカメラから見える傷口を見ると、

ポジトロン・ハンドガンの性能はほぼ一緒のようだ。

さらに使ったナイフもほぼ性能差はないだろう。

問題は機体、この1点に尽きる。


「美冬、敵の光学迷彩を使用する瞬間と再度、

 現れたあとを映したカメラは無いか?」


『少し、待って』

 

俺の考える通りなら、勝利には、これに賭けるしかなかった。

 

その間に装備している武器を表示させる。


セラミックナイフ2本

ポジトロン・ハンドガン2丁(予備バッテリーパック2)


 

不必要なレールガンが装備されていないことにホッとする。

特に今回は全く必要なかった。

自分自身も考えにふけっていると、美冬から


『あります、光学迷彩使用時はビル事務所のカメラで脚の映像のみ。

 光学迷彩を切ったときは交差点のカメラ』


「一端スローで見せてくれ」

 

使用時から映るが、スローで見てもほとんど消える瞬間がわからない。

一方、出現する瞬間は少し陽炎(かげろう)のようなものが見えて、

それから出現している。


『聖、何かわかる』

 

完全にタメ口になった美冬から質問が飛んでくる。


「迷彩使用時はダメだが、出現時に陽炎みたいなのがみえるだろう」


『ちょっと待って』

 

そう言ってすぐに見たのだろう。


『確かに』


「それは何秒だ」


『えっと、0.15秒』


「それじゃあ、気付いて反応できる速度を超えている。

 時間を同期させて、出現時と衛星映像を見せてくれ」


『了解、いくわ』


思ったより、美冬の機器の操作処理が早い。

 

映像が映った。一瞬で後衛の<アームド・スーツ>が右脚を撃ち抜かれている。


「今回の映像もスローで見せてくれ」


『何かわかりそう?』


「俺の勘が当たっていれば…」

 

映像を見て確信する。


「やっぱりだ。スロー映像を見ると、光学迷彩解除直前の陽炎から、

 姿が見えて、さらに照準し直すまで少しだけラグがある」


『ホントだわ、これだと…、0.35秒』


「理由はどうだか知らないが、

 相手は単に敵に当てればいいとは思っていないようだ。そこが弱点だな」


『勝てそう?』


「勝つのは最初から不可能だと思う。

 不可能を可能にしようとして負けるより、鼻から合いうちを狙う」

 

美冬が不思議そうに聞いてきた。


『どういうこと?』


「悪いが頼みがあるんだ」

 

そう言うと、考えと秘策を教えた。



同日 10時35分

兵庫県神戸、魚崎浜


 

AIに、


「無線を捕虜の警官に聞こえるだけのエネルギーで発信」


と伝えると、<アームド・スーツ>パイロットの4人の捕虜に向かって言い放った。

「諸君、私はここを移動する。あと5分、身動きをとらなければあとは自由だ。

 衛星で見ているが、20分を超えれば例え動いても殺さないと約束しよう。

 市街地にミサイルを打たれたら被害者は君たちだけでは済まないだろう?」

 

そう言うと魚崎浜から移動する。ハイウェイに乗り時速93マイルで西宮浜まで走る。

 

既に、上陸から35分経過している、もうあとは帰るだけだ。

所定のポイントまで3分と言ったところか。

 

そんなとき、AIが警告を告げた。


『衛星で、接近するヘリを発見。低空侵入してきます』


頭部の5.56ミリ弾で迎撃するのは難しそうだった。


『遭遇まであと1分』


5分前、六甲山系東側から出てきて海側に接近し始めてからAIからの警告は聞いていたが、

まさか航空機、しかもヘリで接近を試みるとは考えられなかった。

報道用の民間機と勘違いしたのが仇になってしまった。

 

現代戦を知る者なら電子兵装の塊であるヘリは

EMP(電磁パルス爆弾)で攻撃されたら電子機器が使えなくなり、ひとたまりもない。

低空で迎撃を避ける、と言ってもEMPだけは避けようがないのは知っているはずだった。

 

悔しいのは、相手はこちらがEMPを持っていない事を知っているのかと思うほど、

一番嫌なタイミングで、しかも嫌な接近方法をとってきた。

僕は長距離兵器を持っていないのだから。

 

一端、ミサイル攻撃を直線的に受けないように建物の陰に隠れる。

ハイウェイは既に降り海まであと少しだというのに、ついていなかった。

 

相手の動きが止まったことに疑問を覚えて、

準天頂衛星で映像を確認するが見えなかった。


『ハイウェイの真下に着陸したのか?』


独り言を言ってしまう。

 

準天頂衛星で見えない以上、

それしかありえなかった。

まだ、ヘリのローター音はセンサーが捉えているので、

何かを降ろしているために一端、隠れたとしかあり得ない。

 

そしてそれは、陸戦部隊かと思ったのだが違った。

 

ハイウェイの下から出てきたもの。

衛星に映ったのは<アームド・スーツ>だった。

僕が4機倒して違う装備でも持ってきたのか、

と思うが来たのは警察のヘリのようで、自衛隊ではない。

それほど大きな攻撃は予想できなかった。

結局、1機<アームド・スーツ>を持ってきただけなのだ。

 


      ◆



「済まないができる限り引きつけてくれ」

 

非可視レーザーで通信する。


「あと、国交省の道路監視カメラで相手の動きを見て教えてほしい」


というと、


『わかったわ』


と美冬が返してきた。

正直、敵が<アームド・スーツ>でヘリを飛ばすことが、

どれだけリスクのある行為か知っていることを考えると、ありがたい限りだった。

 

さらに遭遇ポイントが良かった、

高速道路の真下で降りることができたし。

ここはヨットハーバーのある場所で、その他も区画整備されている。

走ったところで、相手から姿が見えない。

 

出来れば、レールガンがあると相手に思ってほしかった。

海中に逃げるつもりだったのだろうが、俺にレールガンがあるとなると、

射程圏から逃げ切る前に撃たれると考えるだろうと予想したのだ。

 

<アームド・スーツ>に搭載されているAIは万能ではない。

肉弾戦も視野に入れた、<アームド・スーツ>の戦闘行為で

身体の部品各種の動きを計算しながら、

衛星通信でこちらの動きを細かく調べることまでは出来るはずもなかった。

 

彼らにサポートが1人でもいたなら、

準天頂衛星でミリ単位まで測定できるので、

こちらの装備も知らされているかもしれないが、

これは賭けだ。そう思って割り切る。


『次の交差点9時方向より敵機、距離30メートル』


警告が流れる。速度を落とすこと無く曲がって接近し

両手に持ったセラミックナイフで接近戦に持ち込む。

 

お互い<アームド・スーツ>での戦闘なので、

大きな一撃が当たると勝負での命取りになる。


だが、距離をとると、

俺はあの完全光学迷彩を使われてほぼ負けになってしまう。

それだけは、時間的にもう少し避けたかった。

 

相手は出会い頭になってしまい、動きが一端止まる。

やはりずっと衛星で監視していたわけではなかったようだ。

躊躇なく、曲がって相手との距離を詰める。

 

戦闘に一機に突入すると、

初手は左手のセラミックナイフで相手の右のポジトロン・ハンドガンを狙って突く。

 

かわされるが、さらに続いて右手のセラミックナイフで相手の懐下向きに突くと、

切っ先が銃口の上に当たり、相手の右手に持つポジトロン・ハンドガンを下向きにする。

 

続いて、相手がバランスを崩しながらも

左手に持つセラミックナイフが降り降ろされようとする瞬間、

ハンドガンを突いた右手のセラミックナイフで下から払うように振り上げて手首を狙った。

 

相手がセラミックナイフを放して、腕を引きダメージを追うのを避ける。

 

相手の左手が早くも空になってしまった。


「美冬っ」

 

叫んで、準備できる位置に着いたか確認するが、


『あと少し』


と返ってくる。

 

こちらの不意打ちはまだ聞いているので、

左足で相手の右手に持つポジトロン・ハンドガンを蹴りあげる。

トウで相手の右手首から弾きあげるような軌道をとって狙うと、

ハンドガンも放して、同じく腕を引いてきた。

今回は相手も避けきれず、軽く手首に当てることができた。

もちろん、相手のポジトロン・ハンドガンは蹴飛ばしている。

 

相手は両手とも手ぶらになり、ますます態勢を立て直しやすくなっているが、

ハンドガンへの攻撃でまだバランスを崩していた。

 

もし組み手になったら、内骨格型の相手の方が有利なのは間違いなかった。

時間がまだ必要だ。

振り上げた左脚を降ろすと、前に踏み込んだ形で、

左腕で肘打ちを繰り出し、さらに、相手の頭部へ手の甲を当てる。

ナイフを握ったまま落とさないように注意した。

 

こちらと同じ仕様なら、カメラにある程度のダメージが出ていると助かるのだが、

確信は持てなかった。

 

さらに右手からナイフで胸元を狙って突く。

流石に相手が胸をそらし装甲を少し削る程度でかわされた。

装甲を削ったことで、光学迷彩に影響が出ているとさらに助かる。

 

そう思いながら左足で相手の左足へ足払いを入れる。

これは脚をあげて避けられてしまうが、構わず左脚を戻しながら、今度は中段を突くように蹴り込む。

少し胴体部に当たり相手の機体が後ろへよろめきながら3歩ほどバックする。

 

左脚を戻すと同時に、左手のナイフを小さく突き出し牽制したときだった。


『聖っ』


と通信が入り、合図が送られた。


「一つ手前の交差点へ戻る、胸を削った、チャンス」


とだけ言って、左のナイフを戻して、

右のナイフで大きく下から払って相手に距離を取らせた。

こちらも後方へジャンプして態勢を立て直す。

まるで、機種性能を感じさせないように姿勢を取った。

まだ、肉弾戦をやるのだ、と言わんばかりに。

 

飛んだ最中に少しだけ計器に目をやるが、異常はなかった。ここが交差点だ。


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