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2045年  作者: シュレディンガーの犬
14/17

活動-3

2045年1月25日 10時10分

兵庫県神戸 三ノ宮近郊



今は、クライアントの要求通り、神戸の中心部、

三ノ宮でレーダーを最大にして警戒している。

警察無線も傍受しており、

今回の敵になる警察庁のロボット機動隊の

デジタル無線も傍受の準備済みだ。

VICSシステム道路、都市型高速の阪神高速と国道2号線を使って、

ここまでやってきた。


そろそろ、迎撃ポイントに向かわないと、

民間人の死傷者ゼロが不可能になってしまう。


『こちら、警察庁大阪支部、神戸支局警備部。

 出没した機種不明の<アームド・スーツ>は現在動きなし。

 交通管制を敷いています。民間人の避難誘導を最優先』


 

多少、間違っているかもしれないが

このような無線が先ほどから飛んでいる。


「おっと、大阪支部さんだ」

 

独り言を言いながら、

警察庁大阪支部のロボット機動部隊の無線を聞く。

 

どうも、僕たちのハワイ支部のAIの予測通り、

相手の<アームド・スーツ>は高速道路を使ってやってくるようだ。

到着まで10分かからない。

出没から10分間での出動決定は早い。

流石、世界に高等弁務官を設けただけあって、

迷う組織では無いようだった。


やってくる日本の、それから僕の<アームド・スーツ>も、

基本的には同じだが、頭部についている

対人用5.56ミリ自動小銃の弾(これはM16と同じ)以外は、

全く戦闘装備は持ち合わせていない。

オプションとして色々な武器を使える汎用ロボットに過ぎないのだ。


さて、彼らはどのような装備で来ているだろうか。

そう思いながら迎撃ポイントの魚崎浜へ移動を始め、AIに指示する。


「大阪支部から出た、敵<アームド・スーツ>舞台の情報を」


『了解』


AIはそう答えると表示してきた。



警察庁警備部ロボット機動部隊、大阪支部所属、第1小隊、出撃台数4機


第2世代型外骨格<アームド・スーツ>、<MAS-3>


身長7.50メートル

最大幅(肩周り)2.50メートル

足幅2.00メートル(直立時、走行時)

重量8.8トン(燃料満載時)

動力、水素燃料電池、エアコンプレッサ、エアシリンダー

冷却系ジェネレーターは自然外気を利用

最大出力稼働時間100分(バッテリーパック無し)、節電モード360分

軽量化でカーボン素材を使用、骨格内に空洞部分を設け軽量化

外骨格CFRPハニカム構造2段式

AI管理システム

背中に武器などの収納パック

機体中央部に直立搭乗式コクピット

第2世代型光学迷彩装甲


セラミックナイフ1本

短砲身式レールガン1丁

ポジトロン・ハンドガン1丁(予備バッテリーパック1)


 

なるほどね、ほぼハワイ支部のAIの予想通りなわけだ。

 

この、空力を追求したフォルムは好きになるね。

あと頭部の作りがこちらの<アレグロ>よりカッコイイ気がするよ。

そう思っていると乗っている<アームド・スーツ>のAIが補足してくる。


『敵は乗り物に乗っている様子、移動速度時速220キロ』


アームド・スーツ用に設計されたバイクに似た乗り物で

やってくるようだった。


10分前に水中推進機パックを外し海中に隠すと、

西宮浜から上陸して近くのハイウェイに入った。

一番驚いたのは、VICSシステムで自動車が止まったのはもちろんだったが、

進行方向と逆、

つまりバックまで行った事実だった。

一方通行の道をバックするシステムの凄さに

予想外で『おいおい』と思ったものだが、

それ以外は普通の自動車誘導システムだった。

あとは中央分離帯へ登ると、走って抜けていった。

 

この<アレグロ>は相手の<MAS-3>よりも時速19マイル速い、

時速93マイルまで出る。走って車の間や障害物をかわすのは、困らなかった。

神戸の中心部、三ノ宮まではハイウェイだったからだ。

しかも、危機管理用に車をどけてくれたVICSシステムのおかげで

三ノ宮に着くころにはすっかり走りやすくなっていた。

 

日本は電線が存在しないのも、

公共物を壊さずに済んだ理由かもしれない。

既に、4つのインフラ、電気、水道、ガス、通信は全て共同洪になって

地下へ入っているのだ。

しかも、高圧電線もなくなり、日本列島には

地下に3本の超電流超電導ケーブルが走っている。

世界初の超電導直流送電を国家レベルで実現させていた。

 

 

さて、もうすぐ、魚崎浜に着く。

もうすでに、道路は空だった。AIに


「敵の位置情報を、あと無線の傍受を開始してくれ」


『了解』


敵の位置情報が表示される。既に敵はハイウェイを降りている。

 

無線が聞こえてくる。


『全機フォーメーションAで接近。

 相手の機体特性がわからない、慎重に行動しろ。

 あと、民間人の避難は終えていないと思え。発砲は極力控えろ』


『了解』

 

ごく無難な指揮官のようだった。


『無難が一番だ。自分の方が数に勝っている場合、

 無理に奇策を使う必要はない。会ってみたら僕と気が合うかもしれない』


そう思いながら、魚崎浜に急いだ。


 

橋から急いで進入してくるが、

恐らく進入路の橋の上は一番警戒しているだろう。

何もしかけていないのだが…。

 

準天頂衛星で宇宙からの支援がある以上

こちらが不利なのは明白だった。

そして、何より相手は短距離レールガンを装備している。

ほぼ格闘戦を考えたこちらとは違うのだ。

 

僕の<アレグロ>も相手の<MAS-3>も、

身長でいうとビルの2階と半分程度しかないため、

隠れるのは簡単だが、民間人が騒ぐため位置はすぐにバレてしまう。

 

相手はフォーメーションA、つまりダイヤ状に展開して

前衛1機、中衛2機、後衛1機の密集隊形で接近してくる。

あと2ブロック100ヤード。

ビルの陰からこちらも相手の衛星を使って、

位置情報を収集し最終確認をした。

 

AIに指示する。


「パターンC、相手の後衛を狙う。

 その直後に中衛の西側の1機もしとめる。

 3秒後無線への介入を行う。

 光学迷彩スタートの3秒後に無線を同期させろ」


『了解』


<アレグロ>の装備、セラミックナイフを抜いて左腕に、

ポジトロン・ハンドガンを抜いて右腕に装備させる。


「3秒間の空白を埋めろよ。

 ではカウント、3、2、1、」

 

そう言うとビルの陰から転がり出る。

相手は、すぐに迎撃態勢に入ろうとしているが、

レールガンの照準が定まるよりも先に起き上がると、

左から右へと俊足で移動し距離を詰める。


『大尉』


AIが光学迷彩起動可能を告げてくる。


「開始」


短く告げると、画面がモノクロ映像に切り替わる。

AIが予想した仮想画面を元にステップを踏んで

相手の部隊を東周りにかわして後衛機の側面を反転しながら抜ける。

ポジトロン・ハンドガンを構えて相手の後ろから右脚の付け根を狙う。

 

画面がモノクロからカラーに変わった。

AIの予想映像と実際の3秒間での現実には若干のズレは存在するが、

ほぼAIの予想は当たっていて、

後衛機の右脚にポジトロン・ハンドガンを見舞う。

 

「敵、9時方向」

 

叫んで相手の無線に入った。敵は全員そちらの方向を向こうとする。

 

僕は叫ぶと同時に、こちらから見て右側の敵に

ポジトロン・ハンドガンを左脚へ見舞う。

 

残りの2機は僕のフェイク無線に騙されて姿勢を右に変えていた。

中衛の残りの1機の右腕の関節部分にセラミックナイフを突き刺す。

同時に前衛の1機には、左脚にポジトロン・ハンドガンを見舞う。

これまで、姿を消してからわずかに5秒強程度しか経っていなかった。

 

最後にセラミックナイフで、

即時反撃不可能にした中衛1機の左脚を狙い撃った。

全て脚は腰との付け根を狙っており、

吹き飛びこそしなかったが、行動が不可能な事は見て取れた。

 

一端、4機が倒れた交差点から距離をとり、

ポジトロン・ハンドガンのバッテリーパックを交換する。

 

ポジトロン・ハンドガンは射程11ヤード程の超近距離銃だが、

陽電子を目標に向かって直撃させるためダメージは溶ける形で現れる。

反動も少ない、<アームド・スーツ>には最適の武器だった。

発砲段数が4発しか撃てないのが難点ではあったが。

 

また、セラミックナイフは、薄く作れるため軽く、

またCFRP装甲に対して有効なため良く使っている。

 

距離をとると、そのまま無線で彼らに英語で告げた。


「既に君たちは無力化された。

 このまま更に交戦するのなら、

 コクピットにポジトロンを見舞うだけだ。

 だが別の選択肢もある。コクピットから降りて、

 手持ちの武装も放棄するならこれ以上攻撃しない。

 約束しよう、君たちの機体は鹵獲しない」

 

信用してもらえるか不明だったが、

機体を鹵獲されなければ従うのではないかと思えた。

もしこれが戦場で機体を放棄するような事があれば、

その場合、機体は破壊しないといけない。だが、ここは平和な街だ。


『約束を信用できる保証がどこにある』


と無線越しに『フォーメーションA』を告げた男が言ってくる。

だがそれに割り込むように、


『私は、警察庁の大阪支部所属。彼らの上司だ。

 約束は必ず守ってくれ、パイロットは要求通りにさせる』


と言ってきた。


「わかりましたよ。元より破るつもりもなかったので、

 変な話ですが、改めて誓いますよ」

 

現場パイロットの先ほどの男が


『警視正…』


とうめくが、


『従うんだ』


と上司に言われ諦めた様だった。

コクピットハッチが開き、パイロットが出てくる。

そして、所持している拳銃を地面に置くと、

少し彼らの<アームド・スーツ>から距離をとって待機した。


「悪いが、パイロット諸君はあと20分間だけ

 そのままそこで待機してもらう。あと指揮官殿」


『なんだ』


「彼らの身柄は、20分で開放する。

 その間に支援を送っても構わないし、

 支援の有無に関わらず20分間彼らが動かなければ殺しはしない。

 変に聞こえるかもしれないが、これは守ろう」


『それはありがたい』


「だが、交渉はしない。

 勝手に無線に介入して悪かったと思っているが、

 指揮官殿と話すのはこれが最後だ。いいかな?」


『……』


答えを待つ必要はなく、

手で無線をカットする捜査を行うと、AIに告げた。


「無線に関して、今後交渉は一切受けるな。

 あと、彼らへの指示以外は特に知らせる必要もない」


『了解』

 

さて、あと20分。既にVICSシステムは止めた。

更に警察庁のロボット機動部隊も壊しはしたが、死傷者ゼロ。

戦闘した交差点でビルも壊れていない。

ガラスが割れている程度だった。

クライアントの要求はしっかりと答えている。



同日 10時10分

兵庫県、滝野社IC



急いで、準備をしている。

腕のAIに情報をリンクさせながら、

端末ボードで各パイロットの状況を、

もう一つの端末で天頂衛星からの映像を映していた。AIから警告音が鳴る。


『これ以上は情報をここだけに保存出来ません、あと一分で限界です』

 

これだけの規模で<アームド・スーツ>を乗り入れてきた。

しかも見たことの無い機種が時速150キロものスピードで走り、

神戸の中心部に何も無く鎮座しているというのだ。

内通者を疑うのが常識で、報告を受けてから、

俺の今までまとめた内骨格型<アームド・スーツ>のデータを

俺のPCからリンクさせてAIに送りながら、映像と照合させていたのだ。

 

俺の勘が間違いなければ、

あれは内骨格型<アームド・スーツ>に間違いなかった。

 

仕方ない、警察庁と別組織の公安庁の友人を頼り

ストレージ先を用意してもらうかな、

そう思いかけたとき部屋のノックもほどほどに


『聖さん、入ります』


と言って美冬ちゃんが入ってきた。

 

ほとんど何も着ていないが

恥ずかしがっているような精神的余裕もなく、


「なに、今はちょっと時間がない」


『私も手伝います』


「自衛隊の出動要請は出ていない」


『いえ、違います。今、私は自衛官ではなくなりました』


何を言っているのかわからず聞き返した。


「はい?」


『国家安全保障庁、特別技術官、桜木美冬になったんです』

 

意味がわからなかった、

さっき食堂で人払いをして慌ただしくなったばかりだったのに、

今度は手伝うと言って美冬ちゃんが入ってきて、

自衛官では無くなったと言い始めた。


「AI、とりあえずPCのデータを破棄。

 ライブ映像のストレージを確保して」


『了解』


すると美冬ちゃんが、


『ストレージ?データの漏えいを防ぐためですか。

 警察庁内に情報提供者がいると考えているのですか。

 それなら、こちらで用意します』

 

そう言って、美冬ちゃんが俺の腕を引っ張ってAIとリンクさせた。


『桜木美冬、国家安全保障庁、特別技術官。

 警察庁、神楽聖警視のAIとリンク構築』


『了解、リンクを開始します』


『警察庁へは悟られないで』


『わかりました。ダミーデータを走らせます』

 

ロングTシャツにボクサーブリーフの俺に向かって、


『準備のため歩きながら話します』


というと、俺のPCをとり、

もう片方の手で俺の手を引いて部屋から出ていこうとする。

 

俺はコートをとるのがやっとだった。


 

今から5分前、AIに通信が入った。

警察庁警備部ロボット機動部隊、大阪支部の統括責任者、本多警視正だった。

たまに、研修で行っている部署で、

今まで学んだロボット工学の知識と操縦性の向上のために行っていた。

 

ホログラムを映し、通信に出た。


「はい、本多警視正。お久しぶりです」


『急いでいる、神楽警視。今は1人か』

 

滞在先のホテルで、朝の点滴を打っていた。

これが終われば帰れると皆で話していたところだったのだ。


「いえ、外務メンバーと一緒です」


『外してもらえ』


声のトーンが激しく、ホロ映像からも分かったのか、

神蔵先生をはじめとして皆がその緊張感に食堂を外す。

ほとんど待ったとも言えないペースで、

本多警視正は続けてきた。


『5分前、兵庫県西宮浜から<アームド・スーツ>が上陸。

 神戸市内へ向けて一直線に向かっている。

 見たことの無い機種だ。アーカイブにも無い。

 現在待機していた隊員にスクランブルをかけ

 あと3分ほどで第1小隊が出動する』


「上陸は単機ですか?」


『そうだ、細かいデータと準天頂衛星の映像データは随時見られるように、

 今データ送り、衛星へのアクセス許可を出しておいた。移動中に見ろ』


「移動中…、ですか?」


『そうだ、細かい事は省くが、出現した機体は時速150キロで

 高速道路の中央分離帯を見事に走った。

 万が一に備えたほうがいいと思い現在、

 君の機体をV-22ver.2<スーパーオスプレイ>に輸送させる準備をしている。

 5分後にはここを出て、君の所まで8分後到着の予定だ』


「待ってください、私が出るのですか?」


『そうだ、ここの待機隊員より君の腕を見込んでいる。

 幸い着陸ポイントもそのホテルで確保できそうだ』


「現在、身体も万全とは言えません。

 別の隊員を搭乗させてください」


『すまんが拒否権は無い。

 既に、<MAS-3>3機は災害救助に回している。

 もし、いまの第1小隊が敗れたら、

 君に最後の砦になってもらう。

 装備、使用はいつものようになっている。

 ヘリに搭乗させる技術巡査長に細かい事は指示してくれ、急げ』

 

そう言って通信は切られた。

試しに添付フォルダを開くが、状況は本当のようだ。

 

点滴台を転がして、神蔵先生のところへ行った。


「すいません、神蔵先生。出動命令が出ました。

 8分で<アームド・スーツ>に乗ります。

 点滴を抜いて、便の出ない薬を打ってもらえませんか。

 それと、栄養注射をお願いします」


『無理、だと思うけれど、選択の余地は無いんだね』


神蔵先生が言ってくる。


「すいません、先生。お願いします」


先ほどまでの空気とは全く違う張りつめた雰囲気に

感じ取ってくれたのか、


『毛利君、ブスコパンとアリナミンを、点滴は私が抜いておく』


そういって美鈴に指示を出すと、点滴の針を抜いてくれた。


「先生、美鈴がとりに行っている間に、準備をしてきます」


『ああ、わかった。私もエントランスまで降りよう。

 そこで待っている』


「すいません」

 

そう言って、自室に急いだ。



      ◆


 

聖さんに緊急の連絡が入って、

美鈴さんと神蔵先生と私。3人は食堂から出た。


『なんなのかしら?』


と美鈴さん。神蔵先生は覗くという表現は全く相応しくなく、

心配そうにみている。

 

今回の外務で一番よくわかったのだけれど、

神蔵先生は聖さんの過去について一番よくわかっているように思う。

聖さんも絶対の信頼を置いているし…。


「緊急、といっても聖さんは動ける身体じゃ無いのに…」


私も心配だった。食べなくても大丈夫って言っているような人を、

緊急とはいえどうして呼び出すのかしら。

そう思っていた矢先、私の腕のAIも着信を知らせてきた。

 

所属する、伊丹駐屯地や陸自関係からではなく、

次の勤務地である国家安全保障庁からだった。


「はい、桜木です」


『すいません、桜木三佐。緊急の話があるの、

 人のいないところに移ってもらえるかしら』


「あっ、はい。わかりました」

 

音声は美鈴さんや神蔵先生にも聞こえていただろうから、

顔で、すいません、と挨拶してその場を離れた。


「大丈夫です」


静かな場所に移った事を話すと、


『では続けるわ、桜木三佐』


と緊張した雰囲気で話が始まる。


『私は国家安全保障庁、山梨本部所属、

 主席政務官の皆部綾です』


驚いた、首都から直々の通信だ。


『7分前、神戸に正体不明の<アームド・スーツ>が出現しました。

 大統領府安全保障庁としては戦後100年の節目に

 テロとはいえ陸自を使った市街戦は避けたいと考えています。

 そこで現在、報道管制と国内のネットサーバを強制停止させています』


「はい」


にわかに信じ難いが、聖さんの先ほどの行動を見ていると納得のいく展開だった。


『ですが、この報道管制もこの事態を阻止しないと

 全く意味の無いものになってしまいます。

 私たちは、最近の調査で警察内部、

 警察庁か公安庁のどちらかに諜報活動を行っている者がいると

 突きとめました』


「それで、私にどうしろと?」


次の勤務先で、まだ内示と言っても

所属部署も何も決まっていない私にこのような事を

明かして何をしようと言うの。そう思ったが、


『既に警察庁が動いてしまったので

 それのあとを引き継いでもらいます。

 神楽聖警視にいま出動要請が出ています、

 出発は10分かからないでしょう。

 大統領補佐官から警察庁へ話が通ることになっていますが、

 機密漏洩を防ぐため神楽警視の任務をこちらの

 国家安全保障庁で行います。

 三佐、申し訳ないですが、

 大統領特例で貴方は今をもって

 防衛省から国家安全保障庁へ異動になります。

 仮の身分で特別技術官という肩書を用意しました』

 

確かに警察庁も公安庁も、

それに国家安全保障庁も同じ大統領府だが、

そんな強引な手段が通用するのかしら、とさえ思ってしまう。


『警察庁は今のところ、

 私たちと同じく自衛隊を頼らず

 正体不明の<アームド・スーツ>を捕えようとしていて、

 最後の手段として神楽警視を使おうとしています。

 それは私たちも変わりません』


「待ってください、神楽警視は体調がすぐれない状態です。

 とても<アームド・スーツ>に乗れるとは思えません」


そこまで一気にまくしたてたが、


『これには、拒否権はありません。

 神楽警視が外務部での勤務以外に、

 警備部のロボット機動部隊に技術協力していた事実と、

 持ち合わせる技量を考えると適任者なのです』


「そんな…」


『桜木特別技術官、すぐに準備に取りかかり、

 貴方も神楽警視と同行してください。

 貴方の防衛省の勤務記録からも、

 即時調整に適任だと確信しています』


「無理ですよ、いきなりすぎます」


『桜木特別技術官、急ぎなさい。

 貴方の端末ボードには既に異動の特別書が来ています。

 認証の上でサインをして、

 到着するV-22ver.2<スーパーオスプレイ>に搭乗するのです』


「……」


返事ができなかった、いきなりすぎる。


『全てがかかっています。

 今は時間が何よりも貴重です、急ぎなさい』


そう言うと通信ホロが無くなり、途切れた。

 

自室に急ぐ。装備も何も無いのだから、

署名して、聖さんを連れてヘリに乗り込むしかない。

あまりの展開に、理性的に考えられなくなっているのだから。



      ◆


 

真剣な表情で先生に言われたから用意するけれど、

聖が<アームド・スーツ>に乗るってどういうことよ。

あんな体調で乗れるわけないじゃない。

 

医療用トランスポーターから言われた医薬品と注射針、

それに消毒用のアルコール綿を持っていく。

 

ホテルに入ると、先生が既にエントランスにいて、


『このソファーで、神楽君に最後の処置を施すよ』


と言ってくる。

当たる先は先生でも、聖でも無いとわかっているが、


「先生は、あの状態で<アームド・スーツ>っていうロボットに

 乗せて大丈夫だと思っているんですか?」


と叫び気味に聞いた。


『落ちついて、既に神楽君はかなり動揺しているだろう。

 私たちまで感情的になってしまっては、彼に余計な心配をさせるだけだ』


「先生、私が知るずっと前から聖が潰瘍性大腸炎を

 たまに悪くしていることを知っていたんでしょう。なのに…」


その勢いのまま、告げた。


「ブスコパンを打つなんて、

 『悪化してください』と言っているようなものです」


『そうだよ、でも仕方がない。これまでも色々、彼も悩んできた』


そして優しく私を見ると、


『もしも、心配なら、無事に帰られるように全力を尽くして、

 満身創痍で帰ってきたらまた治療してあげる、

 それしかない。私はそう思っているよ』

 

エレベーターで聖が降りてきた。

なぜか美冬ちゃんも一緒で、

聖は下着程度の状態にコートを身にまとっているだけに見えた。

 

聖は無理に笑いながら


『先生、すいません。無理を言っちゃって』


『さあ、注射をしよう、毛利君』

 

私は無言で先生にブスコパンを入れた注射を渡した。

私は栄養のアリナミンを打つので先生の処置を待ち、


「打つよ、聖」


そう言って筋肉注射である注射針を指した。

 

ふつうは結構痛いはずなのだけれど、

聖は、ほとんど痛がっている素振りも見えなかった。

 

そして消毒用アルコール綿で注射したところを揉んでいると、

背後からヘリコプターの音が聞こえてきた。


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