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2045年  作者: シュレディンガーの犬
13/17

活動-2

2014年1月24日 7時30分

兵庫県、滝野社IC



朝、起きる時間になり多少つらかったが無理やり起床した。

これでも、普段より遅いぐらいなので、

どうということは無いはずだったが、

いつも通りに動けない自分が嫌だった。

 

一昨昨日から白血球値とCRP炎症反応が少しだけ上がってしまって、

少し身体を休めながらの公務になっている。

我ながら情けないという他なかった。この時ばかりは嫌になる。

 

20日からイレギュラーでこのインターチェンジ付近に

緊急の宿泊先が取れたので、ビジネスホテルに滞在している。

美冬ちゃんが手配した。ルート変更が上手くいったのだ。

時には学校跡地などで過ごすのもあるのだから本当にありがたかった。

 

体調悪化は、多分20日に少し無理をしたのが響いたのだろう。

風邪を気味になり、そこから持病も少し悪化させたのだ。

 

シャワーを浴び、身なりを整えると、

朝の勤務前に栄養点滴を打ってもらうため、

食堂にいるはずの神蔵先生と、美鈴のところへ行く。

 


「おはようございます、先生」


すでに、朝食のため食堂へ来ている先生に会った。美鈴はまだいない。


『おはよう、調子はどうだい?』


「ええ、まあまあです」


『さてと、女性陣が来る前に診察だけ済ませてしまおう』


端のソファーで診察してもらう。


「いつもすいません、勤務外なのに」


『心配無用だ、それに君のせいじゃない神楽君』


触診、血圧と体温を測定して血液をとる。


『うん、感触では私も良くなっていると思うよ。

 絶食はきつくないかい』


「いえ、そちらの方が助かります。

 食べないことは慣れました」


タイミングを見計らったように美鈴が点滴を持って入ってくる。


『はい、朝ごはん。聖の分だよ』


そう言うと、左手の点滴用チューブに

生理食塩水を入れて、点滴を繋いだ。


『3時間、ゆっくりと召し上がれー』


「はいはい、美味しくいただきますよ」


そう言うと、美鈴は使った医療道具を片づけに戻る。


「この3年、目に見えるほどに悪化させたことはなかったのですが、残念です」


『仕方ない、ゆっくりいこう。それに明日には神戸へ帰れるだろう、

 状況次第だが出来るなら有給をとって早目に休むといい』


「ええ、上司と相談してみます」


 

みんなの分の朝食が用意された。

もっとも、俺は先にとっているのだが。


点滴に変わった当初は、

毎食みんなが食べるときは食堂を離れようとしたが、

みんなが気遣ってくれて食堂で一緒に話そうと言ってくれたのだった。

俺としては食べにくいんじゃないかと思い、何だか気がとがめたが…。


『聖さん、今日は顔色、良くなったように思います』


美冬ちゃんも励ましの声をかけてくれる。

 

食べれば、体調面で辛くなる。ここは、多少の我慢をしても、

勤務終了のあと3日間。点滴で済ませるべきだった。



      ◆


 

4日前、聖さんが午後ランドクルーザーを使うか聞いてきた。

風が強く寒かったのもあってだったと思うが、

私も必要なのでそのことを伝えたのだった。

それ自体は、別に変な事もなかったのだが、ちょっとした不幸だった。

 

交番勤務の警官といつもように定期巡回での勤務中に聖さんは、

付近に住む男の子が転落事故を起こしたと連絡を受けた。

巡査と一緒に向かい、その子が硬膜外血種だったのだ。

 

聖さんは自分の上着を子どもにかけてあげた状態で、

男の子を担架でトランスポーターまで運んだのだった。

さらに上着をとることも出来ず、

交番まで再度歩いて自分の自転車を回収しに行く羽目になったので

3時間近く寒いままで過ごしたのだ。

 

その寒かったことで体調を崩したようだった。

ナーバスと言えばナーバスなのだが、

改めて自己免疫性の疾患は扱いづらいのだなあ、と思う。

ランドクルーザーを都合してあげられたら

こうはなっていなかったかもしれない。

ちょっと私は、胸が痛んだ。

 

 

最初こそ「大丈夫ですか」と声をかけていたけれど、

逆に気を遣わせるようなのでその発言は控えるようして、

代わりに力になれることを探した。

そうは言っても公務中はこの班のリーダーであり、

私情をはさむのは良くないのは良くないのはわかっているのだけれど…。

 

 

今は、神蔵先生、美鈴さん、私でご飯を食べている。

それに美鈴さんの言う『ご飯』を食べている神蔵さんも一緒に。

 

『状況が状況だけに、まともなサービスはできませんよ』とホテルの支配人に

言われたが、毎食もらえるし、寝室も1人1つ用意された。

それだけでも十分だと思う、何しろシャワーが浴びられる。

これが一番嬉しかった。

 

 

私は今、伝えられている情報をみんなに伝えた。


「多分ですけれど、午後から少しずつ弱まるようです。

 首都の辺りはまだ強いみたいですし、東京や東北、北海道はまだ、

 動けないようですが、近畿方面や西日本は除雪作業に入るようで、

 多分明日には神戸支局へ帰れます」


『そうかぁ、じゃあ報告書を今日までに仕上げないといけないな』


神蔵先生が笑いながら言った。

それさえ終わらせれば家族サービスができる時間が増えるからだそうだ。


『えー、美冬ちゃんがとってくれたホテル、

 居心地良かったし、他のお客さんもいないから、

 もう少しノンビリしたかったなー』


美鈴さんは冗談半分に言っている。


『そうか、それは良かった。

 帰るまでは気が抜けないが、俺も報告書は作らないと』


聖さんも周りに合わせている。


「もう、仕事はいつでも出来るんですから、

 無理しちゃいけませんよ」


私はそれだけを言った。


 

朝食が終わると、全員が自室でPCに向き合って報告書をまとめている。

 

医療のスタッフ、神蔵先生と美鈴さんだが、は

医療記録を外務先での提出分を全てまとめなければならない。

忙しい時、中には音声ログで保管したものもあるし、

使用した薬剤や残量のチェックなども含まれる。

 

警察庁スタッフ、聖さんだが、は

申請した裁判所の捜査令状簡易手続きに至る経緯を報告しないといけないし、

検察への土地の強制徴収や買収の申請も経緯も報告義務に含まれる。

こちらも多分、忙しい時は音声ログだけだろうから、

その掘り起こし作業に追われているはずだ。

 

そんな中で私は、実のところあまりデスクワークはなかった。

今回の外務は地形調査、特に新型特科部隊の展開できる地域や、

その後方支援が可能かどうかを検証して回る任務だったが、

どちらかというともう防衛省の次に決まっている4月からの勤務先、

国家安全保障庁への移動に向けてガーデニング休暇と言ったところだった。


「あー、退屈だなぁ」


と独り言を漏らす。自室の窓からも見えるのだけれど、

もっと大きな窓から見たくて、廊下へ出て、外を見た。

雪が吹雪から『深々と降る』という表現がピッタリになっていた。

明日になるともう帰還かぁ、みんなともお別れ。

外務の仕事ってこんなものなんだろうか、と疑問に思ったりする。


『あれ、美冬ちゃん。どうしたの?こんなところで』


後ろを通りかかった美鈴さんが声をかけてくれた。


「少し疲れちゃって、それにもう明日でおわりなんだなっておもうと、

 ちょっぴり悲しい気分にもなりますし」


『それ、わかるわ。私も最初、そうだったから』


「やっぱり、そうなんですね」


『でも、不思議と慣れていってしまうのよね』


「慣れ、ですか」


『そう、慣れって怖いわよ。もっとも、

 この「ごはん」食べていた聖は

 最初からさばさばとしているように見えたけれどね』


そう言って、聖さんに使っていた空の点滴を指す。


「そうなんですか?意外です、凄く優しいのに」


『アイツって、意外にこっちが話しかけないと

 あまり話さないじゃない。

 気を遣っているのか知らないけれど。

 しかも、何かって言うと本を持っているから、

 こっちも話しにくかったよ、最初は無言の時も結構あったの』


「確かに、本は良く持ってますね。しかもジャンルはバラバラだし」


『だから、1回目に一緒になった外務の終わりぐらいに話しかけてみたら、

 意外と面白くて…』


「そうだったんですか」


『それで聖<ひじり>に「聖<セイ>」ってニックネームを付けたのよ』

 

そう言って、美鈴さんは笑うと勤務に戻っていった。

 

きっと聖さんは、それなりに気にしているのだろう。

距離をとるのも、人に変に気を使うのも。


 

再生医療がかなり進んで、

さらに身体にナノマシンを入れるようになった結果、

昔と違って、ガンすら早期発見により死因の順では低下している。

今や死亡する一番の原因は老衰で50%を超えていた。

細胞活性化剤のおかげで、平均寿命は100歳を超え、

病院で見てもらうのも病気の治療から、健康維持まで大きく増えた。

 

そんな中で、未だに良くわからず治らないのが自己免疫疾患だった。

まず、後発性の自己免疫疾患に関して再生医療は大きく成果を上げた。

3Dプリンターで細胞すら立体的に作ることができ1人1人に合った、

臓器が早く作れるようになった。


続いて、今は自己免疫疾患の遺伝で発病する病気でも

『死亡するもの』が優先的に再生医療の対象になっている。

 

聖さんのかかっているような

『遺伝で発生し、死に至らない病』

は再生医療分野では最後になることはわかっている。

厚生省の医療ガイドラインはすでにそのように発表しているのだから。

 

聖さんにこの話をしたら、


『んー、それは自己中を通すと交換してほしいなと思うけれど、

 治したところでまた発病する可能性のある人間よりも、

 発病しない人を優先するほうが合理的だよ』


と返された。優先順位を付けることに、


「どこかおかしいと思わないんですか?」


と言った私に、


『心配してくれて、ありがとう。

 でも、俺は別に構わないと思っているよ。

 個人的な感情で特例措置が認められる社会はどうかしている』


とあくまで一般論で返事をされて、何だか鉄の心を持っている気がした。

 

いや、違うのかもしれない。あの人は、

きっと自分の感情を持ってはいるけれど、

それとは別の自分。

どこか遠くから自分をみている自分を持っている気がする、そう思う。

 

私はどうだろう、そこまで冷静になれるだろうか。

そう考えるとあまり自信がなかった。



2045年1月25日 8:00

日本領海、大阪湾


 

第3種戦闘配備のまま、大阪湾を北上しており、

日本の誇る自治区のひとつ鎖国自治区と呼ばれる人工島が迫っている。

タイミング的にもそろそろだ、と期待が半分と、

殺戮はしたくない気分が半分だった。

現在、スティール少佐のもとブリーフィングが行われている。


『予定ではあと30分で作戦開始する。

 今作戦では、最初にブラッグ中尉の乗る2号機を30分後に水中発射管より射出。

 更に、第2地点へ接近し40分後にファインマン大尉の乗る1号機を射出する。

 両名は、<アームド・スーツ>水中発射管へこの後入り

 射出後は海岸10ヤードの地点深度20フィートで潜って待機。

 尚、気象条件は前に言った通り、

 回収ポイントも変わりない。両名質問はあるか?』


『大丈夫ですよ、せいぜい魚群探知機に注意しますよ』


ジョンがいつものように言っている。


「わかりました」


僕は簡単に返事をした。


『今回は水上戦を想定していないが、

 <アレグロ>3号機、4号機はそれぞれ、

 パーナンキ少尉とグリーンスパン准尉が搭乗して格納庫で待機。

 万が一の水上戦に備えて装備には

 低気圧砲身レールガンを準備。

 V-22ver.2<スーパーオスプレイ>にはサンダース軍曹、

 UH-60ver.3<改良型ブラックホーク>にはポートマン軍曹、

 がそれぞれ乗り必要に応じて出動する。

 陸戦隊、第1小隊は装備を付けて待機し、

 いざというときの出動に備えよ。各員質問はあるか?』


無言だった。


『作戦開始コードは、

 1号機は「アイン」、2号機は「ツヴァイ」、

 中止コードは「レクイエム」だ。

 では、11時には無事に皆がそろうことを願っている解散』


 

格納庫へ向かう。後ろからジョンが


『出来りゃ、「ツヴァイ」ってコードいいが、

 どっちが来ても恨みっこなしだぜ』


と言って通り抜けていった。


「ジョンこそ、『アイン』で怒るなよ」


とだけ返す。どうせ余程の事がない限り

出撃は僕だと決まっているのだが、言えるはずもない。


 

<アレグロ>1号機に乗り込みAIを起動する。

全指の指紋認証、声紋認証、網膜認証を済ませ確認が終わると、


『ファインマン大尉、作戦まであと10分と40秒です。

 <アームド・スーツ>発射管へ向かいます』

 

移動中に、腕のウェアブル端末から

『ワルキューレの騎行』の最初10秒程度が流れる。

ミッション開始10分前の合図にいつも個人的に使っていた。


『発射管の水密ハッチを閉じました。

 注水許可が降りていますので注水を開始します』


「待ってくれ、装備の最終確認をしたいから、

 画面に表示してくれ」


『了解しました』


セラミックナイフ2本

ポジトロン・ハンドガン2丁

ポジトロン・ハンドガン、エネルギーパック2(サイドポケット)


ポプラン伍長は言った通りに装備してくれていた。


「わかった、大丈夫だ。注水してくれ」


『了解しました』


注水が開始された。


 

基地を出る前、何度もAIとのマッチングテストを行った。

ポプラン伍長をはじめとする整備班は良く付き合ってくれ、

3日間で最高の仕上げにしてくれた。



第2世代型内骨格型<アームド・スーツ>、<アレグロ>


身長23.85フィート

最大幅(肩周り)8.05フィート

足幅6.37フィート(直立時、走行時)

重量21.63ポンド(燃料満載時)

動力、水素燃料電池

冷却系ジェネレーターは外気で水素燃料電池に付属

最大出力稼働時間80分(バッテリーパック無し)、節電モード220分

軽量化を図りほとんどでカーボンや有機素材、空洞を使ったハニカム構造を採用

骨格はカーボンと人工関節を利用

人工筋繊維と人工神経を電気で動かし全てをAIで管理

フラーレンに似たタイツ状のもので筋繊維を覆い、その上からCFRPのパネルを装着

背中に武器などの収納パック

反対側の胸元にコクピット


 

<アレグロ>はこのような設計になっている。

CFRPは防弾使用など色々と変更可能だが、

今回僕は、防弾条件は標準にして、その代わり第3世代の光学迷彩を付けた。

塗料にも工夫があるのだが、周りから絶対見えない電磁迷彩繊維だ。

但し、完全迷彩な分、使用時は自分からも周りが見えない。

 

試しにジョンの使用をみてみると、

第2世代の光学迷彩装甲を使用していた。

これは、使用時に可視光線を防ぐタイプで外部からは赤外線のみ視認が可能だ。

その代わり、中からも赤外線で外が見える。

モノクロではなく、カラーリングされて赤外線が映るのが特徴となっている。

但し、外骨格型の<アームド・スーツ>でも第2世代の光学迷彩装甲は

もう各国で使用されており、赤外線センサーは当たり前になっている。

僕はそれが嫌いだった。

 

<アレグロ>は稼働時間が短いのが難点だが、

非常に小回りが利くため、

僕たちテロ屋には向いている機体だと思う。

 

そもそも、<アームド・スーツ>自体が、

同じ<アームド・スーツ>の兵器や航空機の兵器、

戦車の兵器には当たって大丈夫なように設計されておらず、

かわすことが前提となっている兵器だ。

現代戦で当たっても大丈夫なのは戦車ぐらいではないだろうか。

 

さて、そろそろジョンが出発する。僕もあと10分後だ。


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