それは一人の女の子
ただいま、我が家。
一緒に帰ってきた朱莉は着替えにいったん帰った。
…俺も着替えるかと思いながらリビングに行くと
「…おかえり」
そこには仁王像のような顔をした葵が待っていた。
「ただいま」
というかこいつはいつまで不機嫌なんだよ。いいかげんめんどうだ、俺はこいつが妹になろうがいつも通り過ごしたいだけなんだけどな。
「まだ機嫌悪いのかよ」
「悪くないわよ」
「うそつけ、顔に出てるぞ」
「出てないわよ」
…めんどうだ。
「いやか?」
「なにが」
「俺の妹になるの」
ド直球に聞いてみた、もう機嫌がどうのこうの言ってる場合じゃない。
早く元通りになりたかった。
「…いや」
「なんで?」
「…いや」
「いや、理由ぐらい述べてくれよ」
「やなものはいやなの!」
「…嫌いなのか、俺が」
「そんなわけないじゃない!」
じゃあなんなんだ
葵がそこまで否定する理由がわからない
確かに一人の幼馴染から妹に関係は変わってしまうかもしれない
けど、いいじゃないかそれで。
関係は変わっても俺たちは変わらないはずだろ
「家族じゃなかったのか?」
「…そんなわけないじゃない」
「いいじゃねぇか、本当に家族になれたんだから俺達。喜ぼうぜそこは」
「…わかってない」
「ん?」
「翔は全然わかってないよ!」
「だから言ってくれねぇとわかんねぇだろ!」
「…言えないよ」
それはいつもの強気な葵じゃなかった
「…言えるわけないじゃんそんなの」
そこには般若心境でも仁王像でもなく
またいつもの強気な女の子じゃなく
涙を流した一人の女の子がいた。