第6話
漁港の魚卸場の影で、左近達の様子を見ていたものが数名いた。
そしてその影の集団に近づくものがいた。
「黒田か・・・。」
「さすが左の方。もうお気づきになられましたか。気配は消しているつもりだったんですけどね。」
黒い装束を着た篠老と、そのお付と思われる篠老と同じ意服装をした集団、そして海に飛び込んだ黒田が篠老の背後から現れた。
「ふん。左近殺害に失敗しよって・・・。良く私の前に現れたものだ。」
「これは手厳しい。確かに証拠となりそうな手駒を取られたのは少々痛手ではありますが。」
まったく、痛手だと感じない口調で平然と話しをする黒田に少しいらだった篠老の声が響く。
「貴様が取られた手駒は、私が手配してやり、2年以上”鬼の芽”を馴染ませていたのではないのか?」
「そのとおりですね。しかし、駒はあれだけではありませんので。今回はちょうど挨拶がわり。これからが本番ですよ。」
黒田の話を聞いて、駒がまだある事に安堵はするものの失敗した事は確かであり、篠老は不機嫌な口調でさらに問いを重ねる。
「今度はうまくやれるのだろうな?2度目の失敗は許されないぞ。」
「これは、これは。私ども”影”を切り捨てるとおっしゃっているのですかね?」
「ぐ、雇い主の依頼をろくにできんような集団はいらぬのでな。ほかにも”影”になりそうな集団にはあてがある。」
「ほうほう、そのような脅しをかけてこられるようでは、篠様もかなり切羽詰っている様子ですね。我々ほどあなたの趣旨を理解し、行動できる”影”はそうそうみつかりますまい。」
黒田の軽い口調がだんだん重いものになっていき、篠老はその圧迫された雰囲気に飲み込まれるように口を閉ざす。
「これは少し、雇い主をいじめすぎたようです。我々も今回の仕事にはかなり手を入れております。1度や2度の失敗はあくまでも計画のうちと思っていただければ。」
軽い口調になり、深くお辞儀をする黒田に、ようやく篠老は何かから開放されるように息を大きく吸い込み、激しくなった動悸を抑える。
「わかった。今までどおり信用しておる。」
仮面で顔を確認する事ができないが雰囲気で篠老の言葉を聞き入れ、お辞儀をしながら闇に消える黒田を見守る篠老。
そのとき篠老は、顔を緩ませた黒田を感じた気がした。
「相変わらず何を考えておるかわからん。別の手のモノも用意しておかなくてはな。」
篠老の顔が悪徳商人のような笑みを浮かべ、その場を後にする。
周りの景色がようやく、赤色に染まり始めた頃、左近たちは宿を見つけ、一息ついていた。
「しかし、左近先生がお作りになったお薬、売れましたね~。」
「このあたりには薬師の方が来ないようで。色々作ってみましたけど確かに売れ行きはよかったですね。」
左近達が港に着くと、少し値段の高そうな宿を見つけ、前金を支払い魚鬼になった男性を寝かせ、九尾に見張りを頼むとそのまま、左近とこよりは近くの丘や、海に出て行き、薬に使えそうな植物などを採取して、左近が薬を調合し港町に売りに出かけてそして、今宿に戻ってきたところだった。
「確かに薬の需要性もありますけど、左近先生のその女装がまた売れ行きに一役買っていた気がしますね。」
「そうですかね?」
「薬を買っていく男性の目が熱いものを発していましたよ。」
「熱いもの?」
ほほを両手で押さえながら体をくねくねさせ、こよりは恥ずかしそうに返事をする。
「きゃ~~。先生ロマンスですよ。ロマンス。」
「よくわかりませんが、今回の薬代のおかげでこの宿の御代を払えそうでよかったです。」
「確かに、私達には路銀がほとんどないですからね。今後も定期的に薬を売ってお金を作っていくしかないですね。」
「そうですね~。そこは私の得意分野なので任せてください。」
にこやかなに話をする二人は座布団の上に座り、そばには九尾の女性はおらず、横になっている元魚鬼の男性だけだった。
「しかし、まだこの方目は目覚めないのですね。」
「それほど体の生気を邪気に変換し、放出していたのでしょう。明日になればおきてこられると思いますけど。」
とそこへ、温泉から上がってきた九尾の女性が左近の背中に張り付いてきた。
「いや~~~。いいお湯やったわ。そしてこれからお・と・なの時間やね~。にしししし。」
「な、なにいっているんですか?!そんなことより左近先生から離れてください!」
左近に抱きついた九尾の女性にこよりが、講義の声を上げるが全く気にせず、さらに左近にスキンシップを仕掛ける。
「左近く~~ん。どう背中に当たっている大きなふ・く・ら・みの感触は?」
「どうと聞かれましても?」
左近は九尾に押し付けられたやわらかい感触にまったく動じておらず、その反応に手ごたえを感じていない九尾の女性は少し身を離す。
「さ、左近くんって本当に”ロ”の人なん?」
「ロの人?」
「ロリコン。つまり幼女趣味や!ない乳のほうが好きなんか?!」
「何のことを言われているのかさっぱりですけど。」
本当になんのことかわからないように、左近は首をかしげながら席を立つ。
「ではそろそろ、私もお風呂に入ってきます。」
「じゃ、じゃあ私も左近先生と・・・。」
左近と一緒にこよりも席を立つが九尾の女性が、こよりだけとおせんぼうをする。
「なに?その私一緒についていきますね~。みたいな感じいややわ。」
「九尾さん、そこをどいていただけますか?私は左近先生のおせなか・・・。を流さねばなりませんので。」
「はぁ?!背中を流すって一緒に入るつもりなんかいな!?」
「も、もちろんです。これも監視役の務めですから。」
「意味がわからんわ!?監視役ってそんな役目ないやろ。ここは大人な女性の魅力を左近くんに叩き込むためにうちが同席するべきやろ?」
「そ、それこそ破廉恥な。これだから大人の世界は困るんです。子供の私が先生のお背中を流すことになんの問題がありましょうか。」
「このませガキ!」
「淫乱狐!」
「どうしたんですか?そんな大声出して。いや、すごくいいお風呂でした。こよりさんも早くどうぞ。」
二人のにらみ合いが始まって数分間言い争っているうちに左近は温泉にいき、満喫して戻ってきていた。
そのほんわかした左近の雰囲気に言い争っていた二人はやる気をなくして、こよりはお風呂に、九尾は頭をかきながら食堂へと向かう。
二人が部屋を後にしたすぐに宿の亭主が左近を訪れた。
「失礼いたします。お客様のお知り合いの方と言われている方がお越しになられておりますがお連れしてもよろしいでしょうか?」
「知り合いですか?どなたかわかりますでしょうか?」
「紙宮 あまづ様とおっしゃっておられましたが?」
「あまづさんですか!?わかりました部屋までお願いできますでしょうか。」
そのまま亭主はあまづを部屋に案内するために一旦左近たちの部屋を出る。
左近は何かを考えるようにあごに左手を当て、真剣な表情で考えるように待ち人を待った。
「こちらになります。」
部屋の前から亭主の声が聞こえ、左近は体を起こしながら、あごに当てていた手を離す。
「失礼いたします。あまづ様をお連れいたしました。」
確かに亭主の隣にいたのは左近が知る紙宮あまづと呼ばれる少女だった。
歳は12歳でこよりより少し背が高いぐらい。
腰の位置まである長髪黒髪で、一番先で紐で結びそれがまた良く似合っている少女だった。
「夜分遅くに申し訳ございません。左近様。そしてお会いしとうございました。」
あまづのその声は凛としており、心に芯を感じさせる響きを持つ音を発しながら、左近を見ると腰をおりお辞儀をする。
「数日ぶりになりますね。あまづさん。」
「左近様もお元気そうでなによりです。」
「ところで、こんな港町までどうなされたのですか?」
「私は、家を出ました。」
「え?」
左近は驚きながら立ち上がる。
それに驚いたあまづが左近の顔色を伺う。
「これは失礼。あまりに驚きましたので。」
左近は衣服を正すと、もう一度座りなおしあまづを見つめる。
「私は今回の許婚解消の件をよしと思っておりません。」
「私にはあなたのような方に待っていてもらう権利などないのです。」
「それは違います。あの時、一緒に来てくれといっていっていただければ私はその場でついていくつもりでした。しかし、左近様は私の気持ちをわからずそのまま、その場を後にされた。」
左近は何も言えず、沈黙を作る。
「ちょっと、これどうなってるん?」
「私に聞かれてもわかりかねます。」
九尾の女性とこよりの二人は、廊下の前で、扉をそっと開け隙間を作り、左近とあまづが見える程度で事の成り行きを見つめ小声で質問を共有していた。
「左近様。あまづは決めました。左近様がついてこいとおしゃっていただけないのなら、無理にでも私がおそばに着いていくと。」
「私にはついてこいという権利はござません。できればお家の方々もご心配しておられると思います。このままお引取りをしていただけませんか?」
あまづが悲しそうに何かを言おうとしたとき扉が全開に開かれる。
「いや~。ようわからんけど乙女の純情を踏みにじるのはイケメンのすることじゃないわ。つれてったったらいいんちゃうの?」
九尾の女性が勢いよく部屋に入ってきた。
左近とあまづはびっくりしながら抱き合い、逢引の現場を押さえられた浮気男のような顔で左近は口をパクパクさせていた。
「ちょっとそこのあなた!ドサクサにまぎれて左近先生にくっつくのはおやめになってくださいな。」
こよりの抗議にあまづは体を左近から離し、恥らうように体をちぢ込ませる。
「いや~。今のはナイスなテクやな。乙女アピールで、意中の男性のハートをゲットするテクの中でも難易度高めの技やな~。にししし。」
食堂から持ってきた酒をおちょこに注ぎながら、それを飲み干し顔を赤らめて、九尾が場の空気をどんどん悪化させていくのであった。




