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(旧) 退魔医術士 左近  作者: 脩由
第一章
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第5話

 防波堤で戦っていたため、結界を解いたことにより海の香りと水しぶきが上がる音が聞こえてくる中、左近は周りを見渡し、患者を安静にできる場所を探す。

 その中で防波堤の先に、夏なのに黒い装束を身につけ顔には翁の仮面をつけた人物を発見する。


 「始めまして、島津左近さん。私は黒田招請くろだ しょうせいといいます。」

 「あの~この暑い中その格好で大丈夫ですか?」

 「貴様!聞くところが違うだろ?!ま、いいです。私はその男の知り合いでしてね。その男を帰してもらえますか?」

 

 左近の顔が険しくなるがあくまでも口調は軽く言葉を返す。


 「この患者はたった今、霊的外科手術を行ったばかりで一旦安静にする必要があります。たとえ知り合いだとしても今、あなたにお引渡しできる状態ではありません。」

 「では力ずくで奪っても?」


 左近が黒田と名乗った人物をにらみつける。


 「ふはははは。そのにらみつけるまなざしがとてもいい。私が男にゾクゾクするなんて、今まで感じたことがありませんでしたよ。その美しい顔を私の手で切り裂くことができればどれだけの快感を感じれますかな?」

 「変態に付き合っている暇はないんです。ここはお帰り願いますか?」

 「つれないですね。島津さん。いや親しみを持って左近くんとおよびしましょう。あなたが私の元に来ればその男を手放しましょう。どうですか?」

 「答えはさきほどと同じです。お帰りください。」

 「交渉決裂ですね。では、その男を力ずくでもらいます。」


 警戒を強める左近に、黒田はゆっくり無防備に近づいてくる。

 左近は新しい護符を取るために袖に手を入れるが、さきほどの戦闘と治療で護符が後1枚になっているのを確認する。

 

(この黒田という男、かなりできそうですね。私ではこの患者を守れるかきついところです。)


 左近は退魔医術のエキスパートではあるが、戦闘に関しては先ほどの魚鬼をようやく倒せるほどの術しか持っていない。

 それに対してこの黒田は血なまぐさいにおいが感じられる。

 気配で何人も殺していると感じている。

 黒田が左近たちに接近した時、ちょうど、左近たちと黒田の中間あたりの防波堤から人が上がってきた。


 「いや~、大変大変。まさか船が爆発するなんてな~。泳いでここまで来るのに苦労したわ。」


 上がってきた人は赤いチャイナ服を着た女性で、泳いできたということもありずぶぬれで、わかめを頭につけたりなど、ぼろぼろな状態だった。

 女性は目の前の異様な雰囲気を感じとり、濡れた顔を手で拭いながら、周り状況を確認する。


 「ありゃ~。なんかやばいところにきてしも~たみたいやな。でどっちが悪者なん?ま~見たらわかるんやけどな。イケメンのおにいちゃんが悪者って展開も悪くないけど、どうみても黒いほうが邪悪な感じやんね~。」


 この状況で独り言を、舌もかまず早口で話をしながら、女性は何食わぬ顔で左近の近くまで歩いてくる。


 「きゃ~~~~!近くで見たら、めっちゃイケメンやん。もうこれはこっちに尽くしかないやろ。」


 かなり変な方向に空気が持っていかれる感じがするが、左近は気持ちを持ち直し女性に離れるように話をする。


 「よくわかりませんが、あぶないですからあなたは下がっていてください。」

 「大丈夫やって。これでも、うちはぎょ~さん”力”もってるで。」


 左近の周りを確認しながら女性は服についた汚れをとり、海水を絞りながら頭についたわかめを取ろうと手にかけた時、黒田が口を挟んできた。


 「急に出てきて、いきなり私と左近くんの間に割って入ろうというのですか?」


 黒田の話を聞き流しながら、わかめを頭から取ると、頭に狐のような耳がついていた。

 それを見た黒田の動揺が仮面越しから伝わって来る。


 「まさかとは思っていましたが、そのへんな関西弁を使う九尾の女性が”宗”にいると聞いていましたがあなたがその方でしたか。」

 「な~んや。ただのもぐりかと思ってたけど結構物知りちゃうん。うちはただ島津左近ってかわいい男の子を”宗”に案内するために呼ばれたんやけど、この状況じゃ見てみぬ不利はできんやろ。イケメン人口は大切にしていかなあかんとおもうんや~。」


 軽口を叩く九尾の女性だったが目の光に笑いはなく、威嚇するように黒田をにらみつける。


 「これはかなり、仕事がしにくくなってしまいました。今日は、顔見せだけで終わっておきましょうか。」

 「うちから逃げられると思ってるん?」


 九尾の女性が服の袖に手を入れた瞬間、黒田は後ろに飛びさがる。

 

 「海が近くてよかった。ではこれで失礼します。また、お会いしましょう。左近くん。」


 そのまま、黒田は捨て台詞を吐きながら、さらに後ろに跳び下がり、海の中へと逃げていった。


 「逃げ足はや。しかし、陰湿なやつやったな~。」


 構えた手を下ろしながら、九尾の女性は左近に近づく。


 「大丈夫か~?」

 「危ないところを、ありがとうございました。自己紹介が遅れました。私の名前は島津左近と申します。」

 「やっぱり~!君が島津左近やったか~。うちの勘はさえとるで。」


 九尾の女性は喜びを表現するために、左近に抱きつこうと左近の胸に飛び込む。


 「う~ん急に、ぷにぷに?ちょっと硬い感じのする感覚やな。左近くんはもっとがっしりしてるイメージあったんやけどな~。しかもなんか小さいし。ん?あんた誰や?」


 抱きついたのは、左近と九尾の女性の間に入ったこよりだった。


 「私は花右京こよりといいます。」

 「ほへ?あっそ。よくわからんけど、左近くんこの子は?」

 「私の・・・。」

 「嫁です!(キリ)」


 どや顔でこよりが左近の言葉をさえぎりながら嫁だと宣言する。


 「よ、よめ・・・。ぶはははは。ありえへんやろ。」

 「先生はロリコンの気がございまして。私を娶られたのです。」

 「え?ほんまなん?」


 かなり真剣な顔で九尾の女性は左近に聞いてくる。

 左近も苦い顔をしながら何のことを言っているのかさっぱりわからないという表情で質問を返す。


 「こよりさんは私の監視役でして、嫁かと聞かれると、私はいつの間にか結婚していたんでしょうか?」

 「なんやそれ。左近くんもわかってないんかいな。そんな妄想結婚はなしやな。」 「ぷぅ。」


 顔を膨らせながら、こよりはすねているようだったが左近は気になることを九尾の女性に確認する。


 「あなたは先ほど、戦いの中で私を”宗”に案内するために呼ばれたとおっしゃっていましたが、どなたに頼まれたのですか?」

 「あんたのお父さんの直高さんやで。ちょっと昔の知り合いやってな。今回の件であんじょうしてやってくれって頼まれたんや。」

 「あ、あんじょう?」

 「その辺はニュアンスで感じてくれると助かるわ。説明するのが面倒やし。」


 笑顔で答えながら、九尾の女性は今後どうするのかを左近に確認する。


 「これからどうするん?船があれじゃ~、明日にならないと”宗”に渡る船来ないよ?」

 「明日ですか・・。私は本日中に本土を出ないといけないんですけど。」

 「それじゃ~とりあえず、人にわからないよに変装しないとだめやね。明日までの辛抱だし。にひひひひ。」

 「なんですか?その笑いは。」


 左近はいやな予感を抱えながら、九尾の女性の言うとおり、変装をして一日をすごす提案を受け入れ、一旦近くにあった空き屋を見つけ、支度を整えると、こよりと九尾の女性に港町のほうへ買い物に付き合わされる。

 そして空き屋に戻り変装を行ったのだが。


 「しかし、本当にこんな格好で・・・。」

 「大丈夫やって誰もわからんよ。しかし、素材がいいからめっちゃかわいいわ~。」


 左近は化粧道具でメイクされ女性に変装していた。

 それも飛び切りの美女に変身してしまったので、こよりは目を大きくあけ、何かを焼き付けようと必死だった。

 

 「こよりさん。大丈夫ですか?すごくそんなに見られると困るんですけど。」

 「も、萌えですわ・・・。」

 「はい?」

 「い、いえ何でもありません。こちらの話です。しかし、左近先生が女装されるとは思ってませんでした。」


 この時代の男性は女性を軽んじている部分があり、男性が女装などするような行為がかなり新鮮だった。

 

 「そうですね。しかし、これだと誰にもわからないと思いますので。それよりそろそろ宿を探して、この方を介抱してあげないと。」


 魚鬼となっていた男性を、女装した左近が背負うと、こよりと九尾の女性はそれについていくように港町の中へと消えていった。

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