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(旧) 退魔医術士 左近  作者: 脩由
第一章
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第2話

 事の始めを話す前に、この国の情勢を少し語ろうと思う。

 国の名を”日ノひのまさ”といい、私達の知る”日本”とほぼ同じ文化を持つ国だと思ってもらっていい。

 しかし、この日ノ正と”日本”には違うところがある。

 人間を襲う魑魅魍魎”鬼”が出るのである。

 いつから、その存在を示したのかは定かになっていなが、もう日ノ正という名前が国民に認知されたときには”鬼”と呼ばれる魑魅魍魎が現れていたと文献では語られている。

 ”鬼”は人間の、負の感情”恐怖、怒り、悲しみ、妬み、嫉妬”などの感情を餌とし、いくら倒しても、鬼は減ることなくどこからか生まれ、人々を苦しめてきた。

 その鬼を退治するのが”退魔陰陽師”と呼ばれる異能を持って鬼を退治し、民を守ってきた存在がいた。

 常に危険と隣り合わせの”退魔陰陽師”は民からの絶対的な支持を受け、その地位を確立していた。

 日ノ正を収める王を”帝”と呼び、”退魔陰陽師”の頂点に立ちながら日ノ正を何百年と収めてきた。

 しかし、時代が移り行くにつれて”帝”の権限は弱くなり、各地に”武士”と呼ばれる武装集団が現れるようになった。

 彼らはやがて戦を始め、天下を我が物にと声を上げ、武力を持って自国領を収める自分達のことを”大名”と呼んだ。

 大名達が自国の領土を広げるために戦が耐えない状況は人々の心を畏怖させるには十分だった。

 ”鬼”と大名達の戦のおかげでいつ死に行くかわからない状況で、人々は負の感情を抑えろというほうが難しかった。

 ”鬼”の力が活発化し国が混沌とし始めていた。

 しかし大名達が領土を広げる事をやめることはなく、さらに混沌を加速させていく。

 その中で我々が知る京都の場所に”帝”の都があり、そこだけは武士達も手が出せずにいた。

 ”退魔陰陽師”の頂点の”帝”に手を出す事は、今後自分達が”鬼”に襲われたとき助けになる組織がなくなるからである。

 ”鬼”は人間が使う金属製の武器では、傷つけることはできない。

 異能を持ってようやく鬼を退治できるのである。

 全国にいる”退魔陰陽師”をすべて束ねている帝に手を出すことはできないが、”退魔陰陽師”を金にものを言わせ、自国に組み込む大名達が増え、あくまでも表向きは、武士達は”帝”には友好的に、しかし”帝”の権力を少しずつ奪っていった。

 そして事が起こったのが3ヶ月前。

 西の地方で、大きな”鬼”が出たと都に話が飛び込んできた。

 西の地方の”大名”が雇っていた”退魔陰陽師”ではまったく歯が立たず、都の最強といわれている”最輪転法 退魔陰陽師 島津 右近”に討伐の依頼が持ち上がったのである。

 最輪転法とはこの国で一番位が高く、最強の退魔陰陽師だけに与えられる称号で、この国には1人しかいなかった。

 帝が、大名達を良い様に思えるはずもなく、そんな危険な場所に”島津 右近”を向かわせるのは、どうかと考えもあって、話を先延ばしにしていた。

 右近自身はいますぐにでも出向いて、民を守り、鬼を退治する準備ができていた。 慈愛に満ち、思いやりの心を持つ右近にとって帝の想いが少し、苛立ちを覚えていた。

 ようやく帝が重い腰をあげ、右近に討伐命令を出したのは話がきてから1ヶ月過ぎたときだった。

 西の情勢が一気に思わしくなくなり、話が大きくなってきたのだった。

 先延ばしにしていたこの1ヶ月の間に”鬼”が取り込んだ土地は、私達が知る中国地方全土となり、草木も邪気に当てられ腐り、土地も砂漠化が進んでいるという情報が入ってきた。

 中国地方にいた大名達も多くの”退魔陰陽師”を雇っていたのではあるが、退魔陰陽師としての”質”の問題もあったかもしれないが、それでも中国地方全土を飲み込むような”鬼”は今まで出現したことがなく、緊急事態と判断し、帝は右近を現地へ行かせる事となった。

 このとき帝は対応が遅すぎた過ちに右近に謝罪を入れていた。

 

 「右近よ。すまぬ。私の対応が遅れたためにお前を危険な目に合わせることになった。」

 「帝。今は謝罪よりも対応でございます。しかし、まだ”中国地方”のみでよかった。この状況ならまだ打つ手はございます。」


 右近の話を聞いた帝は少し間を置き、自ら作った沈黙を破った。


 「今回のこと、”鬼”だけではない気がするのだ。」

 「人為的な、何かが動いていると言うことでございますでしょうか?」

 「この件を調査させていた調査団が2日前に帰ってきたのだが、確かに鬼の脅威がひどいのはわかっている。それとは別に、暗躍する陰のようなものを調査報告として上がってきておってな。時間と証拠が少なく断定できんのだ。」

 「たとえ、人為的な何かがあろうとも、私のやることは変わりありません。」

 「おぬしの決意、わかった。」


 支度をするためにその場から去ろうとした右近に小声で帝が忠告を送る。


 「余の”左手”に違和感を感じる。用心してくれ。」

 「わかりました。」


 その言葉を背に右近がその場を後にした。

 その後、右近は討伐隊を組織し、1ヶ月かけて中国地方を回り、ようやく原因となる鬼を”討伐”することに成功した。

 しかしそのときに負った手傷により、深い”呪い”を受け、右近は昏睡状態となる。

 右腕に呪いと思われる黒いあざが浮かび上がり、日を追うごとにそのあざは広がりを見せる。

 呪いを治療するために、帝は右近の弟、”退魔医術士 島津左近”を現地へ派遣を予定していた。

 退魔医術士とは、鬼が吐く邪気を吸った人間から邪気を取り除き、霊的医術の内科的治療と漢方的治療を取り入れ、邪気を吸った人間の回復を促進させる医者のことをいう。

 邪気を吸った人間は身体機能に支障をきたし、症状は軽症、重症にかかわらず、邪気が体に広がっていく。邪気が広がる進行が遅いか早いかの違いだけで、最終的には死にいたる。

 左近はその退魔医術士の中で帝つきの医術士で都を出ることがほとんどない。

 腕前は国内で知らないものがいないといわれるぐらい、天才と賞賛され民からは神が現世に光臨したとまで噂がたつほどだった。

 左近自信はそんな賞賛を気にすることなく都の城下にて、小さな診療所を営んでおり、格安の医療費とその腕前で町民からは愛されていた。

 誰もが右近の回復を疑わなかった。

 左近でさえ助けられると思っていたのだ。

 しかし、結果からみれば、治療はできず、左近はその責任をすべて押し付けられ、今回の国外追放を受けることになった。

 この国外追放にも実は意味があり、本来、意味なく国外へ出た日ノ正の民は、永久追放となる。

 現代の中国にあたる”しゅう”と呼ばれる国との貿易以外で民が国外へ行くことを許されていない。

 そのため、帝は権限により、左近を罪人として一時的に扱い、国外追放を命じ、新しい治療法を発見するようにと命じたのだった。

 そして帝との約束の一週間が過ぎた。

 左近はこの一週間色々な文献に目を通し、”宗”に渡る事にした。

 ”宗”に渡るには2箇所から商船が出ており、都からずいぶん離れた、港から出航することになった。

 道のりとしては一度、都から出ている船で九州地方に移動し、そこから商船を使って”宗”に移動する。

 直高の屋敷を出発し約2日ほど馬車で移動し港に着いた。

 港の一番汚らしい場所に、左近は手首に縄をかけられ、2人の兵士に連れられていた。

 罪人として扱われているため、見送りも少ない。

 それでも左近の目には希望を見出したように輝いていた。

 そこに予期せぬ見送り人が現れた。


 「まさか、あなたが見送りにこられるとは思っていませんでした。」


 左近は目の前にいる老人”左代退魔医術代官ささ 篠道灌どうかん”に本当に意外だったような口調で話しかける。


 「ふ、わしとてこんな辺境の港なんぞに来たくもないわ。帝より貴様の船出を確認せよと命じられここにおる。」

 「そうですか。」

 「後、貴様の監視役を連れてきた。」


 篠老の後ろから、130CMほどの身長で、目がくりっとしておりメガネをかけたまさに美少女という称号がふさわしい、少女が道灌の後ろから出てくる。


 「お久しぶりです。左近先生。」

 「花右京 こよりさん?」


 動きやすそうな着物に身を包み、まるで子犬のように愛らしく、つい頭をなでたくなる衝動に駆られそうな少女”花右京 こより”。

 こんな愛らしい少女だが実は篠道灌の5番目の娘にあたり、10歳になる。

 以前に左近に治療をしてもらい面識があった。


 「2年ぶりになりますね。先生。」


 こよりの目に映る左近は罪人としてではなく、愛しき人を見るまなざしが向けられているが、それに全く気がつくこともなく、左近は篠老に監視役の件について質問をする。


 「なぜこよりさんを監視役に?」

 「こよりとは面識があったはず。そんなに驚くことでもあるまい?」

 「いえ、驚きました。用心深いあなたが少しでも私と面識のある人物を監視役にするとは考えてませんでしたよ。」


 左近の指摘に言葉を詰まらせ、慎重に次の言葉を選ぼうとするが、篠老の口からその理由は聞くことができず、となりにいたこよりが変わりに返事をする。

 

 「私がお父様に直接、今回の監視役にしていただけるようにお願いをいたしました。」

 「そうなのですか?しかし、危険なことも多々あることだと思うのですが、まだ10歳になられたばかりのこよりさんには少し厳しいかと思いまして篠様にお聞きいたしたのですが?」


 左近は篠老の裏の気持ちを確かめるために質問をしたのだが、その真意を聞く前にこよりに話しに入ってこられ、その間に、時間を与えたことにより篠老の中で考えてがまとまり口調が滑らかに進む。


 「こよりが左近貴様の監視役にどうしてもやりたいと泣き付かれてな。ほかにも選抜していたモノもおったのだが、今回、貴様と面識のある者が監視したほうが判断もしやすかろうと思ってな。」

 「そうですか。」


 左近は篠老からこれ以上は詳しい事情を聞くことができないと話を切り上げる。

 それをどう思っているかわからないようにポーカーフェイスを作る篠老灌。

 2人のやり取りを、こよりの目には怪しく映っていなかった。

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