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(旧) 退魔医術士 左近  作者: 脩由
第一章
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第16話

 そして、帝の処罰を受け現在に至ることを話終える。


 「今話しをしたことが、今回の件の全容です。って私の話聞いてましたか?」


 左近が話終え周りを見ると、目の前では豪華な海の幸がならべられており、みんな夢中で食べていた。


 「うん。もちろんきーておったよ~。」

 「当然です(キリ)」

 「このカニおいしいですね~。」

 「この魚の鍋料理最高です。」


 約一名、少年の声が混じっているのに左近以外は誰も気がつかずは目の前の料理に集中していた。


 「あの、あなたは?」


 左近の言葉にはっと我に返り、身なりを正すと少年は左近にひれ伏し、自己紹介を始める。


 「今回お助けいただきまして、ありがとうございました。僕は、左代家医学所所属の久留間(くるま 加太輔(かたすけといいます。確か島津左近様ですよね?」


 左近が魚鬼から救った患者が寝ていた場所を確認すると布団が綺麗にたたまれており、目の前の少年だと気がつく。


 「お目覚めになられたのですね。よかった。」

 「はい。目が覚めると豪華な料理が並んでおり、空腹だったのでつい勝手ながらいただいておりました。」

 「それは別にいいんですが、どうして魚鬼なんかに?」

 「え?魚鬼?なんですかそれ?」

 「覚えてらっしゃらないのですか?」

 「はい。なんでここにいるのかわかりませんが、オチこぼれだった僕に前崎先先が、毎日授業の補修をしてくださっていたんですけど、急にその補修中にめまいを起こし、そのまま気がついたらここに寝ていた次第で。」

 「毎日補修ですか?」

 「そうなんです。何人か、その補修を受けるようにと前崎先先から言われて、篠くずは様が行っていた授業のあとに補修を。」

 「そうでしたか。その補修でおかしなことはなかったでしたか?」

 「おかしな事といわれましても、特に変わったことはなかったと思います。ただ、授業の最後にいつも先生は飲み物をくだっさっていた記憶しかなくて。」

 「飲み物?少し診させていただいてもよろしいですか?」

 「はい。いいですよ。」


 特に嫌悪感もなく、診察に応じる加太輔に、篠老とのつながりを疑っていた左近だったが、加太輔の様子からそれはないのではないかと思う。

 しかし、まだ安心できたわけではないので

とりあえず、篠老と加太輔の関係は保留にしておいて、加太輔の診察を行う。


 「しまった。護符の手持ちがもうなかったのでした。」

 「それなら、ご安心ください。家を出てくるときに持ってきましたから。」


 笑顔であまづが答えながら、背負っていた袋から護符を何枚か取り出し、左近に渡す。


 「こ、これってかなり上等な紙じゃないですか?」

 「しばらく、家に帰る気はないので、怒られる心配はありません。」


 にこやかに舌を出しながら、あまづが答えると、左近はお礼を言う。


 「ありがとうございます。では早速使わせていただきます。加太輔さん、少しお待ちいただけますか?護符を作成いたしますので。」

 「護符を作っているところを拝見させていただいてもよろしいですか?」


 加太輔の大きな目が嬉々として開き、左近に顔を近づけながら質問をする。


 「いいですよ。どうぞ。」

 「わーい!」


 加太輔の横から女性3人が顔を出し、左近の護符作成を覗き込む。

 質問をした加太輔は端においやられ少ししょぼくれた顔をしていた。

 それをみて微笑みながら左近は3人に言葉を返す。


 「そんなに面白いものではありませんよ。」

 「いいから、いいから。」


 フーエンが両手で作業を促すと、左近は筆とすずりと墨を取り出し、筆に墨を浸した後は、紙に文字を書き始める。

 書いている筆が白い粒子のような光を放ちながら、書いていた文字も光出す。

 光がまるで踊っているかのように、軽やかに文字を描いているかのような、左近の筆さばきに見とれながら、4人は息をするのも忘れたかのように見とれていた。

 もらった護符すべて書き終えると、すずりと筆を片付け、4人に向き直る。


 「終わりましたけど、みなさんどうされましたか?」


 4人の顔が、歓喜に震えており、感嘆の声を漏らす。


 「いや~いいもんみせてもらったわ。すごいな~自分。あんなん初めてみたわ~。」

 「さすが先生です。嫁として鼻が高いです。」

 「誰が嫁ですか?!。それは私の台詞です。さ、左近様をとらないでいただけますか?」


 あまづとこよりが言い争っていると、加太輔が本当に関心したように、左近に言葉をかける。


 「初めて、左近様の作業を見させていただきましたが、全く無駄がなく、一字一字にこめられた”想い”を感じました。」

 「私は特に特別なことをしているわけではありませんよ。」


 左近が微笑み、それを見て加太輔は、こんなに感情が表にでる人だとおもっていなかったようで、少し驚いた顔をしていた。


 「どうかされましたか?」

 「いえ、医術所の学びやでは、左近様の良い話など聞くことがなくて、くずは様の講義と、前崎様の実技が主で、医術学の授業自体淡々とやっていたものですから、左近様の雰囲気とあの方達の雰囲気に差がありすぎて医術者は淡々と作業をこなすものだと思っていたところがありまして。」

 「教え方は人、それぞれだとは思いますよ。」


 左近は笑顔で答え、自分のいい話を聞いたことがないといわれた後の左近の反応に、加太輔は驚いていた。


 (左代家で学んでいた時は、いつも誰もがぴりぴりした緊張感をもっていたけど、左近様はそんな雰囲気もなく、暖かく、人としてのぬくもりを感じる人だ。)


 加太輔は、左近の暖かい人柄に今までの自分の退魔医術に対する認識が違っているのではと思い始めていた。


 「話はそれましたが、準備ができましたので早速診察をさせて頂いてもかまいませんか?」

 「よろしくお願いします。」

 「ではまず、心臓の音から確認させていただきます。」

 「心臓の音ですか?」


 加太輔は、なぜそんなことをするのかわからず、とりあえず左近の指示に従い、上半身を裸にする。


 「これでよろしいのですか?」

 「はい。では触りますので失礼しますね。」


 左近は護符を2枚取り出し、1枚は加太輔の心臓にあて、もう1枚は自分の耳に当てる。


 「何か聞こえるのですか?」

 「少し、静かに。」


 左近に促され、加太輔はそのままの状態で左近の次の行動を待つ。しばらくすると、別の部分に心臓に当てていた護符を移動させ、また左近はじっと何かを聞くような顔で止まる。


 「あれは何をされているんですか?」


 小声で、こよりがフーエンに聞くがフーエンも左近が何をしているのかわからない様子で、左近の行動を見守っていた。


 「次は背中を私に向けていただけますか?」

 「わかりました。」


 左近に背中を向けると、そのまままた左近は護符を色々な場所に当て、音を聞く。

 「では、目の下を確認させていただきますね。」

 「はい?」

 「ま、気にせず。」


 笑顔で診察を進める左近に、今まで行われたことのない診察をされ困惑する加太輔だが、不思議といやな気分ではなかった。


 「特に、体に関する異常は感じられませんね。すみませんが、血液を少し採取させていただいていいですか?」

 「け、血液をですか?何に使うのです?」

 「あ、のろいとかそういう類のものに使うのじゃないんですよ。これも診察のうちでして。血液採取は初めてですか?」


 左近の言葉に、変な疑いを持ちながら、頷く加太輔。


 「わかりました。ご説明させていただきますね。血液は人間の体内を流れているのは知っていますよね。」

 「もちろんです。」

 「では、なぜ流れているのですか?」

 「え?」


 左代家ではそんな授業してきたことなかったと加太輔は思った。

 退魔に関する知識とそれを人間の体から除去する知識しか今まで学習してこなかったのである。


 「わかりません。」

 「わからないのは当然です。今まで日ノ正でそんな研究してきた医術士はいなかったのですから。」

 「そうなんですか?」

 「医術とは非常に難しいものです。学習するには実験と研究の繰り返し。しかも人体を必要とします。人を治療するために、人を犠牲にして、研究を行う必要がある。医術の道からすれば矛盾しています。」

 「確かに。」

 「私は、知りたかった。なぜ人は病気にかかり、死んでいくのかを。”ひのか”様に弟子入りをし、そこで学んだ知識の中で動物実験を行い、人の変わりに薬の経過を動物で試す実験などしておりました。その過程で、血液とは体全体に流れ、栄養、排泄物、などの動物に必要な要素を多く含んでいることを突き止めたのです。」


 加太輔、女性3人もびっくりした顔をしていた。

 そんな研究をしていたなんて聞いたことがなかったからである。

 左近たちがいる世界は、文化は平安時代初期に近く、まだ鉄砲などは開発されておらず、戦闘は切りあいが主流であった。

 輸血技術もなければ、薬を処方する技術も一部の医術士と薬士しか確立されておらず、薬もかなり高額なものだったのである。

 そんな時代に、血液の研究をし、それを治療に生かすなんて聞いたことがなかったのである。


 「左近先生。でも僕の体内に含まれる要素を血液から調べてどうされるのですか?」

 「私は、これまで、多くの患者さんの意思を確認し、血液採取を行ってきました。そこから導きだされる、体に含まれる栄養素などの平均含有量の情報も持っています。」

 「つまり、その栄養素を調べるためだと。」

 「そうです。」


 加太輔は目の前に座っている、まだ10代の医者が遠い存在に感じた。

 いままで医者になるために必死で勉強していたが、目の前にいる医者は何十年先をいっており、驚かずにはいられなかった。

 

 「そ、そんなのうそです!?僕の血液を取ってのろいにかけるおつもりなんだ!」 「わかりました。では血液採取はやめましょう。」


 なんのためらいもなく、血液採取の取りやめを決める左近にさらに驚きを覚える。

 「そ、そんな簡単に。」

 「医者は患者の意思を尊重するべきだと思います。無理やりやりたくない検査などさせられれば、納得しない心が不信感を生み、私に対する嫌悪感しか残りません。私は、患者さんが納得していただけるだけの治療を行いたいだけなのです。」


 言葉を失った加太輔は、下を向き、血液採取することを認める。


 「さ、左近様。わかりました。血液を採取していただけますか?ただし、採取後の処理は一部始終見せていただきたいのですが?」

 「もちろんかまいませんよ。」


 笑顔で答える左近に、加太輔はまた驚かされる。

 一度否定した検査を受けることに恐怖がないといえばうそになる。

 それでも未知の治療への好奇心が勝ち、もう一度血液検査を受けることを了承したことなんて、左近に気づかれていないはずがない。

 そんな自分を軽蔑するわけでもなく、あくまでも医者として決して自分を下げずんだりしない左近に、驚かされぱっなしだった。


 「では右腕を出していただけますか?」

 「はい。」


 怖くないといえばうそになる。

 少し顔が引きつった加太輔だったが、袖をまくり右腕を左近の前に差し出す。


 「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ。」


 笑顔で、安心感を与える左近に、気持ちを落ち着けていく加太輔。

 左近が札を加太輔の右腕に近づけ、注意事項を伝える。

 

 「少しちくっとしますが、問題ありませんので。」

 

 その言葉の後に確かに、軽い針で刺されたような痛みを感じたが、特に傷がついているわけでもないのに護符が下の方からだんだん赤く染まっていく。

 護符がすべて血に染まり終えると、加太輔は右腕から何かが引き抜かれる感覚を感じ術の終わりを左近から告げられる。

 

 「お疲れ様でした。後はこの護符に術をかけて、今まで取ってきた情報と照らし合わせるだけです。」

 

 左近が右手の人差し指と中指で護符を顔の前で構え、術を唱えると青色に護符が燃えるが、護符はそのまま燃え尽きることなくその姿を維持する。

 左近は目を閉じ、ゆっくり息を吐くと護符が青い炎と光を放ち丸い玉のように形を変えていく。

 水晶のようなきれいな形に変わると、左近は目を開けその水晶の玉を診断する。

 

 「栄養素的には、”鬼”となったせいか少し不足しておりますが、しっかり栄養を取れば問題ないでしょう。”鬼の芽”の影響で邪気が体内に残っている事もなさそうです。」

 「そ、そこまでわかるものなのですか?」


 加太輔が今まで学んできた常識の中で、血液から判断する術は未知でどの程度何がわかるのか、医学者として左近に質問をする。

 

 「この水晶があなたから採取した血液を、”目”で判断できる形に変化させたものです。水晶の色、透明度などから判断できるように術を改良して作り上げております。私の授業ではこういった術を取り入れ研究と意見交換などを行っていたんですよ。」


 左近の説明を受けて、さらにショックを受ける加太輔。

 自分が受けてきた授業が最先端であり、退魔医学のエリートだと吹き込まれてきた。

 でも実際はそうではなく、自分は医学にかなり遅れているのではと絶望を味わってしまった。

 あまりのショックに、加太輔は腰が抜けたようにその場に座りこみ、焦点の合わない目をしていた。


 「ぼ、僕は。」


 加太輔がショックを受けた事はわかるが、左近は何にそんなにショックを受けたのかわからず、心配そうな顔を向ける。


 「久留間さん?大丈夫ですか?何か診断に関して不満などはありましたでしょうか?」


 左近の心配そうな顔と質問に対して首を振り、加太輔はようやく焦点を合わせると自分の思いを語る。


 「左近様、私は今まで前崎先生たちから、自分達がエリートだといわれ続けて着ました。そして最先端の医術を学んでいると。しかし、左近様の技術を拝見し、それは大きな間違いだと気がつきました。今、僕が感じているのは道が閉ざされた世界にいるようで、不安で仕方ないんです。」

 「では、どうしたらその不安が消えるのですか?」

 「え?」


 優しく暖かな声色で左近に問いかけられ、加太輔はうつむき考えた。

 そして答えを出したかのように、顔に生気が戻り正座をして左近に向き合った。


 「このまま、左近様達とご一緒させていただくことはできないでしょうか?僕はもっとあなたから、医術を学びたいんです。」

 「それは・・・。」

 「いいんちゃうん?道連れが1人や2人増えたところでどおってことないで。」

 「どおってことあります!私達の懐事情に影響するんです!」

 「ちぃっさいな。そんなんやから、おちびさんなんちゃうん?」

 「いいましたねー!この淫乱狐。」


 こよりと、フーエンが顔を近づけて言い争っている間も、加太輔は真剣な目を左近に向けていた。

 左近としては、危険が待っているであろう、この先の旅の中に連れて行くべきかを悩んでいたが、向けられる真剣な目に心を動かされ、返事をする。

 

 「わかりました。では行きましょう。ただし私の助手としてしっかり働いて頂きますので、お願いします。」

 「左近様ありがとうございます!」


 あまりにうれしくなった加太輔は左近の手を握りぶんぶん振り回す。

 苦笑しながらでも、感じている暖かさが重く苦しいこの旅の目的を和らげてくれているような気がして左近はそう感じていた。


 加太輔を新たに加え、女装した左近、こより、フーエン、あまづは夜明けと共に、宿を後にし、ここから始まる本当の苦難の旅に出るのであった。

 

 

 

 

退魔医術士 左近 第一章 完結

最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

「退魔医術士 左近」につきましては次回第2章を書くことを今の時点では考えておりません。

左近は2011年に書いて放置していた作品で、読み返してこの章だけでも完結させなければという気持ちがわき、何とか1章を完成させました。

以後の展開についても最後まで頭の中では構想はありますが、2011年の時に書いていた気持ちが物語に反映できていないことを感じており、充電期間を置くことにしました。

現在作成中の「クロスロード 第2章」、「監獄のクラブチーム」で培うであろう物語を書く情熱と文章力を身に着けて、「退魔医術士 左近 第2章」を作成しようと思っております。

みなさまのご意見、ご感想で私のやる気がなりたっております。

ぜひ感想などお待ちしております。

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