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どうも。
俺の名前は大和武。
29歳の魔法使い候補だ。
職業はシステムエンジニア…所謂SEといったところ。
まぁこの職業の世間一般のイメージ通りで、休日出勤や終電までの残業のオンパレード。
今日も終電にギリギリ間に合い、3日ぶりに帰宅の途についている。
「くぁぁぁ〜ねっっっっむ。何で下請け会社のミスで俺がこんな目に合わなきゃならんのだ。。。」
現在進行中のプロジェクトは納期まであと2週間しか無い。
なのにこのタイミングで下請け会社の成果物にデグレ(デグレード)を見つけてしまった。
そのため、俺達SEはその改修作業で連日深夜までの作業を強いられている。
「くそ〜これが終わったら絶対に代休申請を通すぞ!ついでに溜まりに溜まってる有給も消化してやる!」
まぁ無理だろうけど……
心の中で皮肉めいた事を考えながら深夜2時過ぎの公道を歩く。
「ん?」
民家と空き地の間に狭いが確かに整備されている小道があった。
「あんな所に横道なんてあったっけ?」
いつも通っている道だが、俺の記憶にはそんな道は無かったはずだ。
ふむ。
いつもならもう少し先の道を曲がり家の前の道路に出るのだが、この横道がそこに繋がっていれば、ほんの少しだけ近道になる。
俺は少しの躊躇いもなく横道に足を踏み出した。
「はは、明日も朝早くから出勤しなきゃならんのに、なに冒険心を出してるんだか。」
まぁ例えこの先が行き止まりでも高々数分のロスになるだけだ。
いつも変わらない日常にちょっとしたアクセント。
たまにはこんな日があっても良いだろ?
「〜♪」
俺は鼻歌を歌い、ちょっとご機嫌な気分になっていた。
「ん〜」
鼻歌もサビに差し掛かった時、俺は袋小路に差し掛かった。
「やっぱり行き止まりか〜残念だったな。さて、戻るか……ん?」
踵を返し、今来た道を戻ろうとした俺の前には大きな扉が現れていた。
「…え?いや?なんで??」
その扉には豪華な意匠が施され、まさに旧ヨーロッパにある様な王侯貴族の宮殿に使われてもおかしくない物であった。
てか、訳分かんねーよ!!
なんで扉が空中に浮かんでんだよ!?
もう!
今日は家に帰ってから(恥ずかしがり屋でディスプレイから出てこない)嫁とイチャコラしようと思ってたのに!!
本来ならありえない光景に俺の頭の中は混乱の極みである。
混乱している俺を尻目に荘厳な扉の隙間から光が漏れ始めた。
扉は勝手に開く気配は無いが、その様子は『開けろ』と誘っているようだ。
しかし……
「この扉を開けたら、二度と戻ってこれない気がするんだよな〜」
俺は自他共に認めるヲタクだ。
ゲームやアニメ、ラノベに幅広く手を出している。
当然、異世界転生(トリップものを含め)の小説なども腐るほど読んだり、自分で執筆した事もある。
そんな俺の感が告げているのだ! ← ※若干厨二病を患っている
幸いにも俺には妻子は居ない ← ※そもそも魔法使い候補w
兄弟は兄と姉が居るので、両親の心配も要らない。
さてと……
「い、行ってみますか……」
覚悟は決めてみたが、やはり怖いものは怖い。
「や、やっぱり止めようかな?まだやりたいゲームも残ってるし、アニメも観たいのあるし……」
そう!
何を隠そう俺はヘタレである!!
え?隠すまでもない??
くっ!
だってしょうが無いじゃないか!
29年間も平凡な人生を送ってきたのに、突然非現実的な現象に遭遇したら、誰だってこうなるよ!
異世界に憧れたことは当然ある。
行ってみたいとも思った。
しかし、それは所謂「俺TSUEEEE!!!!」なものだ!
この扉をくぐった先がどんな世界かも解らない。
そもそも生きていける空間なのかも不明だ!
そんな所においそれと飛び込めるか!!
と、俺がグダグダやっていると扉から強い光が溢れだした。
「え?これってアレ?『待ちきれません!』みたいな奴?」
そんなバカな事を考えていると扉が少しづつ開き始めた。
マズイ!!
俺はとっさにUターンし、扉から逃走をはかろうとしたが……
「!!??」
俺は忘れていた……
ここが行き止まりの袋小路だったと言うことを。
「な〜に〜!やっちまったなぁ~!!」
ピカー!!
「ぎゃぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜」
渾身のギャグが滑り、俺は扉に吸い込まれていった……
スイーツ(笑)