前進の兆し
次の日の朝、私はいつも通りに起きて学校に向かった。お父さんと少し会話をしたが、部屋に侵入したことがバレた気配はなかった。
学校に着くなり先に到着していた茉莉にトイレに引っ張られて、昨日の訪問者について根掘り葉掘り聞かれた。まだ恋愛対象かは分からないって言っているのに、茉莉がにやにやしてるもんだから、なんだか気分が落ち着かない。
「茉莉、それからさ」
「うん?」
冷やかしの会話を切って、話題を変えた私に茉莉の表情が通常運転に戻る。
「あのさ、昨日の……さくらって人。私、ちょっと調べてみようと思うんだ」
「あぁ、幼なじみかもしれないんだよね。顔出ししてないし芸名だったら分からないもんね。でも、どうやって?」
「……ゆーと」
「え?」
「共通の幼なじみに、聞いてみようと思う」
「ゆうと……君、は連絡先知ってるの?親戚なんだっけ?」
「……知らない。まず、ゆうとを探してみようと思う」
茉莉は見るからに困惑していた。何故、私がこんな無謀なことをしようとしているのか分からないだろう。芸能人に会いたいからってそこまでするなんて思えない、よね。
それでも、茉莉は理由を聞いてきたりはしなかった。勘の良い子だから、何かあるのか察してくれているのかもしれないな、と思う。
私の記憶から、紗知とお母さんの死について、紐解いていくにももう限界を感じていた。それでも、どうしても突き詰めたかったのだ。もしかしたら、紗知の歌声が届けてくれたチャンスなんじゃないかと思っていた。
私が頼れるとしたら、私といつも遊んでいてくれた少年、ゆうとだけだと思った。探しだして話を聞いて欲しい、でもどうやって?親戚はほとんどが黒島本家の周辺に住んでると聞いたことがあるのを思い出す、でも思い出したところで何十件もある黒島さんを訪ねていく訳にもいかない。待ち伏せするにも土地勘がないから分からない。
少し考えたあと、茉莉が口を開いた。
「うーんと、ゆうとくん?face bookやってないかなぁ。私もこの前、しばらく連絡とってなかった小学校の同級生からメッセージが届いて……」
はっとした。本当、この間さくらの情報を探した時もそうだったけど、茉莉は情報社会を上手く使っているんだろうなって思う。Facebookは実名登録だ。私も連絡先は知らなくてもface bookで繋がっている知り合いが何人もいる。
「茉莉ありがとう!探してみる!!」
私はその日、帰宅するとすぐに自分の部屋のノートパソコンの前でface bookの画面とにらめっこしていた。学校でスマホでも調べられたけど、時間がかかるかなと思ったし、なんだか落ち着かなかったので家でしっかり調べようと思ったのだ。
私の1つ年下だったことは覚えてる。苗字は自信ないけど多分黒島で……ゆうと……佑都、勇人、悠斗……どれだろう。
考えられるゆうとの漢字を全て、それがダメなら平仮名でもカタカナでもローマ字でも思い当たるものは片っ端から検索するつもりだった。思いもよらず前半で見覚えのある風景をカバー写真にしている少年に行き着く。
『黒島 勇人』
この写真は、あの山で撮った写真だ。3人で見つけた夕日が1番綺麗な場所。もう行き方は忘れてしまったけれど、この景色は絶対間違えない。
本人の顔写真は見当たらなかったけれど、確信を持った私は彼にメッセージを送った。
『こんにちは。お久しぶりです。
小学生の頃、黒島家の集まりで一緒に遊んでいた有川玲奈です。
覚えていますか?
聞きたいことがあるので、返信ください。
よろしくお願いします。 玲奈』
緊張して送信ボタンを押すまで時間がかかったが、思いもよらず返信はすぐに届いた。
『れいちゃん?』
『そう!勇人久しぶり!!』
『わー懐かしいな、よく俺だって分かったね。どうしたの?』
『カバー写真で分かったよ^^
いきなりなんだけど、会って聞きたいことがあるんだけど、会えないかな?』
そこから少し間があって、いいよって3文字とメールアドレスが記載されて返事が来た。アドレスに連絡してからはぽんぽんと日程が決まり、来週の日曜日に勇人が東京に来てくれることになった。本当は、私が行くつもりだったんだけど『こっち田舎で何もないし、都会行ってみたい』という勇人の言葉でお出迎えの側に決まった。




