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あの子が鬼畜で外道になったワケ!  作者: キノコ飼育委員
思慕:思い慕い、恋しく思うこと。
15/16

彼の無意識

『もう、おそいよジャック!』


教会の中に入ると、頬を膨らませてぷりぷりしてる少年がいました。


『ほらこっちこっち!』


「おっとと、あまり引っ張らないでほしいです」


手を引かれるままに進み、居住区らしき場所に出ました。


質素な木の食卓があり、湯気をたてるティーカップとケーキのセットが用意されていました。


『いっしょにおやつたべよ!』


少年が机に座って私を呼ぶ。


私も向かいに座りフォークを手に取ります。


白いクリームで飾られた、真っ赤なイチゴの乗った小さく可愛らしいケーキ。


フォークを入れてみれば、ほろほろと簡単に崩れ、口にすればふわふわの食感と上品な甘味が広がります。


「おぉ……ケーキなんていったいいつ以来でしょうか」


『んふふ、おいふいね』


「こらこら、食べながら喋るのは行儀よくないですよ」


窘めれば黙って食べることに集中しだす少年。


おや?


見れば少年はケーキの下だけ食べて、イチゴを脇に除けていました。


「イチゴは嫌いですか?」


と聞けば、少年はちゃんと口の中を空にしてから返事を返してくれました。


『んーん。ぼくはいちごはさいごに食べるんだ!』


ふむ……。


「月光くん、月光くん」


ふと思い付いたことを即実行。


『? なーに?』


「はいアーン」


フォークで残っていた私のイチゴを刺し、少年にあげてみます。


『え!? く、くれるの?』


「ええ。さ、アーン」


『あ、あーん』


開いた小さな口にイチゴを入れてあげれば、それを頬張りながらニコニコと笑う月光くん。


『えへへ。ありがとうジャック!』


「どういたしまして。残りも差し上げます。私はもうお腹いっぱいなので、あとは紅茶だけでいいです」


『ほんとに!?ありがとう!』


輝くような笑顔の少年に、私は皿ごと残りを渡しました。


ケーキを食べた後、私は月光くんに大ホールまで連れてこられた。


ふむふむ、内装は『The☆教会』。


あ、でもかなり立派なパイプオルガンが備え付けてありますね。


おや、月光くんが祭壇の前に行き、こっちを向いて、


『おうたをうたうよ!』


おぉっと!!


「Wait! Wait!! いつも聞かされてばかりでは悪いですからね。ここは私の演奏を、聞いて貰えますか?」


聖歌なんぞ聞かされたくはないですしね!


月光くんはすこし不満げながらも、私の演奏を聴きたいと言ってくれました。


ということで、先ほどのパイプオルガンの前に座り、音の具合を確かめるためにちょっと弾いて。


「では!」


ふっふっふ。私はこう見えて結構教養がありましてね。ピアノもヴァイオリンも弾けるのです!


ていうか上流階級に食い込むのに教養は必須だったので。


ふっ……青かったな、あの頃は(遠い目)。


死んでからもちょくちょくそういったイベントに(無断で)参加したりしてたのでレパートリーも結構豊富なのですよ。


さて、では何を弾きましょうか。


んー名前忘れましたが昔流行った曲にしましょう。


「たぶん知ってるでしょう曲を弾きますね」


本来ピアノの曲ですが、適当にアレンジして、と。


弾くこと数分、サビに入ったところで少年の反応が芳しくないことに気づきました。


『んー、いいきょくだけどしらないよ?』


「おや?結構有名な、確実に音楽史に名を残すと言われた名曲なんですが……ではこちらは?」


同じ作曲者の別の曲を弾きますが、こちらもあまり良くない反応。


「ふーむ……そうですね、では私が個人的に好きだった曲を弾きましょう」


同じ時代の、遊び人の作った曲ですから知らないでしょうが。


でも私のお気に入りの一つです。


『あ!この曲なら知ってる!!』


え?




・・・・・・・・・・・・・・・・・




ところかわって、寝室。


なぜ寝室に来たかと言いますと、おやつを食べた月光くんが眠そうにしていたからですね。


こどもは起きているだけで体力を消費するので、お昼寝は欠かせないのです。


「ほーらほら、ベッドに入りなさい」


『ん……ねむく、ないよ?』


瞼を擦りながらぐずるので、ひょいと抱えてベッドに入れる。


「嘘おっしゃい。さ、ゆっくりおやすみ」


『うん……ねぇ』


布団から手を伸ばし、私の服を握る少年。


「はい?」


『い……』


何か言いたげにもごもごと口を動かし、しばらくしてようやくお願いをしてきた。


『いっしょに……ねてくれない?』


「……仕方ない子ですね」


どうも離してくれそうになかったので、私も少年のベッドに入る。


こどもと大人とはいえ流石に少し狭い。


『えへへ』


ぎゅっと少年が、私の腰に抱きついてきた。


こども特有の高い体温が伝わってくる。


『なんだか、なつかしいかんじがするよ……おとうさんみたい……』


安心したように、そんなことを言って目をつむる。


すやすやと寝息をたてて眠る少年。


やれやれ、こうしてみればただの可愛いこどもです。


しかしやはりあったかいですねぇ、こどもは。


それにしても、なんでしょう……随分と、疲れが溜まっていたようです……ね。


私も、眠く……なって、きました、よ。


「少し……休みます……か、……あとで……起きれば……」


ゆっくりと、私の意識は、溶けて――――――。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




『……おやすみ、ジャック』


目を閉じ、穏やかな寝息をたてるジャックに、月光は返事を返す。


起き上がり、ジャックの耳元に優しく囁く。


『ずぅっと寝てて、いいんだよ』


優しく、やさしく。


『ずぅっとずぅっと、ここで……ね?』


愛しげに、とても慈愛に満ちた表情で、月光はジャックの顔を撫でる。


『La----la--ah-,la--la-ah--……』


ゆったりと子守唄を歌う。


ジャックの頬を撫でながら歌う。


その時だ。


遠くからドアノッカーの音が反響してきた。


「…? 誰だろう? ここはジャックの(・・・・・)ための世界(・・・・・)なのに(・・・)


小首を傾げ、月光はベッドから降りる。


「そういえば……作った覚えのないものがあったな」

「侵入者?馬鹿な」

「でもそうなら不味いね」

「なんでもいいだろ。排除すればさ」

「排除する?もったいないことを言うなよ」

「そうだね。そいつにも」


部屋の扉に手をかけ、月光は笑顔で、慈愛に満ちた笑顔で言う。


「「「幸せになってもらえばいい」」」


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