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あの子が鬼畜で外道になったワケ!  作者: キノコ飼育委員
思慕:思い慕い、恋しく思うこと。
13/16

彼の雌伏

『“この世から妖が消える”? ハハハ、なかなか面白い仮説ですね』


桃色の花びらが舞っている。


僕は、魂の言葉で彼女と話していた。


この僕の台詞で、彼女はその美しい柳眉をひそめ、再度僕に言った。


『仮説ではありません。事実です』


その声は凛としていて、その真っ直ぐな立ち姿はいつだって、孤高の存在独特の波動を放っていた。


『僕は占いは信じないタチなんだ。君の、ほら、隻腕の式。彼女なんかはよく風水とか気にするみたいだけどさ』


僕はそんな彼女に恋……じゃないな、そこまで熱くはなかった。


でも愛というほど、静かでもなかったな。


まぁ一緒にいると穏やかな気持ちになれたんだ。


凪いだ水面のような。


『そこらの木っ端易者や陰陽師と一緒にしないでください、私のは占いではなく予知であり予告です』


そんな彼女は何時だって自信に溢れていた。


たまにからかいたくもなったものだ。


『僕は倒せなかったくせに?』


だからいつものようにニヤニヤと言った。

けど、彼女はいつもの反応ではなかった。


『……わかっているでしょう? このまま時代が過ぎれば、この世界に囚われた貴方は―――』


あぁそれ以上言わなくていい。


『構わないさ』


わかりきってることなのだから。


例え消滅が避けられなくとも、例えこの世界から出ることができても、僕はこの世界から去る気はないのだから。


『なぜ? せっかく不死であるというのに』


あぁそう言えば、彼女は“不老不死”になりたいんだっけ?


でもまぁ、絶対に阻止するけど。


『……不死でも、不滅じゃないってこと。もし滅する時が来るなら、それはきっと“潮時”なのさ』


死んで百年、狂って千年。


いい加減、幕を引いてもいいだろう。


彼女のいる、この世界で。


『……』


彼女は応えなかった。


僕は続けた。


『不死なんて、なるもんじゃないよ。この無限に続く煉獄は、僕のように発狂しなきゃやってられないさ』


『貴方は狂ってなど……』


自嘲する僕に、彼女はすぐに否定してくれようとしたけど、僕はそれを遮った。


『狂ってるんだ』


『……』


『狂ってる。どうしようもなく、ね』


彼女には言ってない。


僕には未だ、生者に対する激烈な殺害欲求があることを。


渇くような、魂に対する鮮烈な捕食衝動があることを。


僕は、告げてない。


だから君と居ると、僕に殺されない君と居ると、僕は安心できるんだ。


それはきっと、“止めてもらえる”ことへの安心感。


……彼女には内緒だがね。


『だったら……』


『ん?』


『だったら私が――――――』




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ぱちり。



また、夢……。



……あぁまったく。


未練がましいですね。


いや、よく考えたらそもそも悪霊なんて未練まみれなものですか……。


しかしどうしてでしょう。


最近昔のことをよく思い出します。


それも、何かの“ついで”のような感じに。


しかし“何の”ついでなのか……。


ふーむ……。



……ダメです、やはりわか「おっはよぉーー!!!」おっと。


来ましたか。


「みんなみんな! おはようおはようおはよう!! 今日も元気に日課をこなそうね!」


元気よく太陽のような笑顔の少年が階段を降りてここ、地下聖堂に来ました。


『おはようでございます、月光くん』


「キャハッ! おはようジャック!」


うん、相変わらず元気いっぱいです。


全く死にそうにない。



「あぁぁぁ月光さまぁ」


と、そんな少年にズルズルと這い寄る影がひとつ。


「月光さま月光さま月光さま月光さまぁ……」


その子は少年の足元にスリスリと、犬のようにすりつく。


「や、おはよう『傲慢』くん」


「やあぁぁぁ、犬って呼んでぇ……」


「わーんちゃん♪」


「くぅん……」


少年は、スッとすがり付かれた片足を上げると、


「お座り」


『傲慢』くんの背を踏みつけた。


「ギャン!」


短い悲鳴とともに床に潰されもがく『傲慢』くんに、少年はゆっくりと体重をかけていき


「ぎゅぅぅうううええええ!!!」


ごきんごきんと肋と背骨が砕けていく音がして、『傲慢』くんは意識を手放した。


それを満足げに眺めたあと、少年は次の子のところへ。


「さ、『怠惰』くん。オクスリの時間だよ!」


「ヒッ!? い、いらない! 眠くない! もう眠くないからぁ!!」


そこには鎖に繋がれていながらも何とか距離をとろうとする子供が一人。


しかし少年は、テキパキと鎖を手繰り寄せ、


「まぁ遠慮しないで♪ ほら、既製品と、僕の手作りと、あと新作幾つかと……さ、月までブッ飛ぼうか!」


うわぁ……すごい手際よく大量の注射を『怠惰』くんの首筋に、あ、しかもヤバ気な粒薬を瓶ごとざらざら口に流し込んでます。


……泡吹き始めましたね。


「やべ、やヴェれべべべぶぶあ、あー、あー、〜〜ー∇%♂♪♪ゑヱ♀☆●★○○Ж¥◇■◎★☆☆!?!!!?!!」


白目剥いてさらに全身の激しい痙攣、意味不明な獣の叫び。


……死にますよ、アレ。


しかしここで少年が、


「えいっ♪」


万能薬(エリクサー)』を『怠惰』くんの血管に注入しました。


するとすぐに『怠惰』くんの痙攣が治まり、しかし白目は剥いたまま、呼吸が深くゆっくりに。

時たま思い出したかのようにビクッと跳ねますが概ね容態が安定。


あ、ちなみにこれ、ほぼ死にかけの症状です。ここまで来ると精神はまずぶっ壊れてます。


そうならないのは、ひとえに『万能薬(エリクサー)』のおかげ。体調から不治の病、果ては壊れた精神すら治すのですから。


あれでまた一日耐えさせられるんでしょう。


……もう、何故神の薬である『万能薬(エリクサー)』があるのかは気にしません。


どこで手に入れたか聞けば『井戸から汲んだ』とのこと。


昔はたった一滴の『万能薬(エリクサー)』のために戦争が起きたのに……時代って、変わりますねぇ……。


……そうそう、『万能薬(エリクサー)』は信仰を対価に、魂の純粋さをもって神からもたらされる代物で、つまり彼は、ハァ……。


どうやら神は、かなり重い眼の病を患っていらっしゃるようで。


で、次。


ぼろ雑巾のように転がされる『憤怒』くん。


家具にされてる『虚飾』ちゃん。


両手足食われて抱き枕になってる『悲哀』くん。


鉄の処女(アイアンメイデン)』に蹴り込まれる『強欲』さん。



地獄かここは。



いやまぁ、いわゆるところの“アンデッド”である僕はこういうところにいたら元気になるのですが。


それにしたってこれは酷い。


バチカンの地下を思い出します。


あそこはあそこで酷かった。



しかし私が初めてこの地下室に来た日からついに一週間。


すごく調子がいいです。


「ジャックジャックーっ!! お話聞かせてー!」


ぱたぱたと“椅子”と“抱き枕”持って少年が傍に来ます。


同時にあの漏れ出た魂の触手、まぁ便宜上“触手オーラ”と呼んでるそれが私に突き刺さります。


『っ……ふぅ、いいでございますよ。何が聞きたいでございます?』


「昔話!」


『昔の話でございますか。そーでございますねぇ……』


フッ、もう前回のような失態は犯しませんよ。


来るとわかっていれば!


耐えられないものではありません!!


とまぁ、ようはしっかりと“自分”を保つことが慣用なのです。


それにこれを浴びてる間、私のエネルギーが回復し、さらに封印にも負荷がかかるので復活までの時間がどんどん短くなっています。


まさに一石二鳥。


こうなってくると、無理にこの子を殺さなくともいいのでは?とも思えてきます。


何せ一週間共に居ただけで復活までの時間が五年は縮まりました。


ならばこうやってずっと過ごし、復活と同時に取り殺す。


そうすれば彼のエネルギーがまるまま私の物に……。



と、思ってましたがそうもいかない事情が出来ました。



『その前に月光くん、そのボロボロの身体はどうしたのでございますか?』


「えっ? ……こ、転んだの」


サッと目を逸らしながらのこの台詞。


というかぱっと見ただけで打撲傷に擦り傷切り傷捻挫の腫れ、血も出てます。


明らかに誰かにボコられた跡です。


……間違いなくあの女だ。


この少年は毎日朝早くに『ドージョー(騎士の訓練所の様なところ)』に行き、こういった傷を全身につけて帰ってきます。


おそらくあの女はこの子を訓練事故に見せかけて殺したいのでしょう。


それが成功すると私は非常に困る。


もしこの子が殺され、この教会の管理(なんとこの子がやってる)が別の人に渡った場合。


新しい神父かシスターが来る→邪な気配に気づかれる→地下室が見つかる→私も見つかる→浄化!


困ります。


それをさせないためにもこの子を私の手で殺すか、この子があの女に殺されないよう忠告するか。


しかしそれをこの子に言っても信じないのはわかってます。


まさに“恋は盲目”。


この子の場合盲目過ぎますが。


まぁあと少しでこの子を殺す目処が立ちます。


それまでの辛抱。


『……ハァ。とりあえず、治療して来なさいでございます。それが終わるまで昔の話は無しでございます』


「そんなっ!?」


やたらショックな顔してますが知りません。


だいたい、そこの『万能薬(エリクサー)』一口でも飲めば一瞬で完治するのにそれをしないこの子が悪いのです。


なんでも『せっかく貰った愛だから、大切に治したい』そうです。


ま、彼自身すさまじい回復力の持ち主なので一晩で完治するんですが。


しかしそれでも傷口ほったらかしはいただけない。


「こんなのほっといても大丈夫なのに……」


…………おやおや、愉快なことを仰る。


決めました。


今日する昔のお話は、『本当に怖い正しい医学』です。


小さな切り傷を水で洗わなかったせいで、腕が腐り落ちた友人の話を情感たっぷりにしましょうねぇ……!

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