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あの子が鬼畜で外道になったワケ!  作者: キノコ飼育委員
思慕:思い慕い、恋しく思うこと。
12/16

彼の寂然

へこんだ。


も、すごい、凹んだ。


ちょっぴり、泣きそう、泣き崩れそう。


「やったぁー!!出れた!」


『よかったで、ございます、ね……』


生者の五臓六腑を腐敗させる瘴気の窪地を『フローラルな薫りがするね!』と言い。


「にしてももう夜だからねー、お腹もいっぱいだから眠いや」


山中の妖怪を喰い殺し。


「それにしてもここが出口だったなんて……道に迷うはずだね!」


……この、ロンドン塔ぐらいの高さの垂直断崖絶壁を飛び降りて。


いや、まぁあの存在ならば基本体が人間でもおかしくはないのですが……覚醒前でこれって。


まるであのバカのような力技です。


……というか、ここ、どこですか?


私が封印されたのはニホンですよね?


……異世界?


なんですこの、炎でも魔光でもない街灯は。


なんですあの、空中を伝う紐は(鳥の止まり木?)


地面……によく似たこれは?


あと家の建築様式変わりすぎでは?統一性もまっっっっったくありませんし。


よくわからない馬車?的な物をどの家も持ってますね?貴族街?


何より、木がない。


自然がない。


空気が汚い。


夜空を見上げても弱い妖怪の影も気配もない。


あんなにあった星の光も、地上の光に消されている。


文明が素晴らしく発展した……?


それでこんな、こんな何もない(・・・・)世界に?


…………なんだろう。


この、“置いていかれた”ような寂しさは。


自分だけが、ぽっかりと忘れられたような感覚は。





…………いや、いやいやいやいや!


そんなことはありません!


それを言ったらティッキーや外から来た連中は……でもここ最近、結界が日々弱まっていたにもかかわらず新しく来る妖怪はめっきり減っていた、いえ、無かったような……。


まさか……


「ジャック? どうしたの?」


心配そうな少年の声。


私は、不安のままに、問いを発していた。


『……月光くん。もしかして、幽霊や妖怪を、滅多に見たことないでございますか?』


おそるおそる問いかけた僕の言葉に、少年はアッサリと返答した。


「え? ……うん、そうだね。そりゃ珍しいよ(・・・・)




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



まさか、あぁまさかあの人の言った通りになるとは……。


いや、確実にそうなる(・・・・)ことは理解していたんだ。


……じゃあ僕は何のために…………。


「あぁ!!!!」


『ッ!? ど、どうしたでございます?』


見上げれば少年は、それはもう嬉しそうなキラキラ輝く笑顔。


その視線を追えば……向こうに女の子がいますね。


「ルリカちゃぁーーん!!」


ぶんぶんと手を振る少年。


あぁ、彼女が少年の好きな子でしょうか?


僕を抱えて笑顔なまま走り出す少年。


……フフッ。


かわいらしいですね。


好きな子のもとに一生懸命に駆ける姿は、時代や世界が違っても変わりません。


例えそれが返り血塗れの少年でも。


まぁ……このことは少しだけ先送りにして、今は流れに任せましょう。


少なくとも復活するまではこの少年から離れるわけにいかないんだし。


さしあたって先ずは、この少年の好きな少女が、この血塗れの姿にどんな風に怯えるかを見物させてもらいますかね!


少年はそれは幸せそうに少女の元へと駆けていき、顔をぶん殴られて吹っ飛んだ。


……は?


どんな力で殴ったのでしょう、少年は十メートルほどを物のように転がり止まりました。


少年が殴られたときに手から落ちてしまった僕はコロコロ転がって近くにあった……石の棒?な外灯に当たって止まりました。


見上げれば冷たい光に照らされる、美しい少女。


濡れたように艶やかなショートカットの黒髪。


光るような白い肌が覗くジンベエ。


そして、隠す気も無いのであろう嫌悪感滲む冷たい瞳。


少女はその形のよい唇を開き、


「近づくなと言ったでしょう。臭いんですよ、あなたは」


……キッツーーーー!!?


キッツいことを!


こ、この年頃の子は時として残酷なモノですが、ここまでキツいのは滅多にお目にかかれない!!


「え、エヘヘ、ゴメンねルリカちゃん!」


でもめげない! 少年全然堪えてない!


にこやかな笑顔のままシュバッと戻ってきました!


「おや? これは……」


ッ! 気づかれた!!


ヒョイと僕を拾いしげしげと眺めてくる少女。


ていうかヤッヴァイ。



この子、退魔師だ。



何で気づかなかったんだろう、少年に、世界の変化に気を取られ過ぎた?


あぁ不味い、本気で不味い。


何が不味いって退魔師っていわば魔に対する過激なカルト集団なんですよね。


『とりあえず魔は殺す』が彼らのモットー、『魔は魔だから滅されるべき』が金科玉条、老若男女問わず生まれた瞬間から死ぬその時まで魔を消し続ける東洋版エクソシスト!


全盛期なら別ですが今の無力な僕は駆け出しの退魔師にも余裕で滅される!


てかそうだ! 少年の話が本当ならこの少女、あの山から抜け出せるくらいの実力者だ!!


カボチャのフリカボチャのフリ、極限まで妖気抑えてカボチャのフリ!!


「ん……?」


ジッと、なにもかも見透かし見下すような、驚くほど冷たい瞳に覗き込まれ――――――


「……うん、風水的になかなかいいものを見つけましたね。大事に家にしまっておきなさい。できるだけ暗い所がいいですよ」


一転、ニッコリ笑ってぽいと少年に僕を放り渡す少女。


「う、うん! エヘヘへへ!!」


僕を受け取った少年は頬を上気させますが、少女はまた冷たい侮蔑と嫌悪の表情に戻り、


「笑わないでもらえますか? とても気持ち悪いです。では私はこれで」


さっさと踵を返して行ってしまいました。



それを残念そうに見送る少年。


しかし僕は彼女が浮かべた表情を、きっと忘れないだろう。


アイツ、僕を見て、僕が何か(・・)理解して笑いやがった。


その笑みは、他者を陥れようとする者特有の、冷ややかな笑みだった。


……まさか。


またも嫌な予感が、さっきとは違う意味でじっとりとした予感がします。


『月光くん……今回の“ピクニック”、あの女の子からの誘いでございますか?』


「え! スゴイよくわかったね!?」


丸い瞳を零れそうなくらい見開いて驚く少年。


やはり。


あの少女、この子を殺すためにあの山に連れ込んだな。


これだからカルト集団は。


あんな少女まで歪んでる。


しかし退魔師が僕のような存在を見逃すなんて……。


カルト集団も時代とともに変化したのだろうか?


それともその矜持を曲げてでもこの少年を殺したいのだろうか?


でも、何故(・・)


……まぁいいや。


今だけは利用されてあげよう。


けど、僕が完全に復活した暁には――――――フフフ。



……それにしても何でしょうこの違和感は?


彼女はまるで――――――

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