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あの子が鬼畜で外道になったワケ!  作者: キノコ飼育委員
思慕:思い慕い、恋しく思うこと。
11/16

彼の計略

昔々、あるところに、ひとりの遊び人がいました。


遊び人はイカサマ賭博で悪魔を裸に剥いたあと、『自分を地獄に落ちなくする』と約束させました。


しかしいざ遊び人が流行り病で死ぬと、もちろん遊び人のような人間が天の国に行けようはずもなく、さりとて地獄にも入れてもらえず。


遊び人の魂は永遠に地上をさ迷うことになりました。


魂となった遊び人は夜の闇の中しか動けません。


しかし夜の闇の中にはたくさんの魔の物が潜んでいます。


恐ろしい悪霊や魔物、死神に追いかけられ、故郷に逃げ帰った遊び人の魂は、たまたま在った畑の、真新しいカカシの足元に捨ててあった萎びたカブの中に逃げ込みました。


遊び人の魂は真っ暗なカブの中に隠れ来る日も来る日も外の恐怖に怯えました。


そしてある日のこと。


遊び人の魂は、笑いました。


何故かも、何が可笑しいのかもわからないまま笑い続けました。


遊び人の魂があんまり笑うものだからカブに罅が入りました。


罅から遊び人の魂の光が漏れ、まるでランタンのように辺りを照らします。


遊び人の魂がカブごとふわりと浮きます。


ふわふわと容れ物ごと浮くのも何故だかひどく滑稽で、遊び人の魂はまた笑いました。


罅から見た外は鬱蒼とした森、そしてすぐ側には酷く汚れたカカシが立っていました。


『よう兄弟、ちょっとどいてくれや』


そう言って遊び人の魂は、カブの体当たりでカカシのカブ頭を弾き飛ばしました。


転がっていく生首を大笑いしながら、代わりに自分がそのカカシの頭になりました。


カカシは藁の手足を動かし杭から身体を抜いて地に降り立ちました。


そして遊び人の悪霊は、高らかに高らかに哄笑しました。



めでたしめでたし。




ちなみにウィル・オー・ウィスプさんとは別人。


あの人は僕の先輩です。


それから僕は火の玉で旅人を迷わせたり導いたり。


祟ったり恵んだり。


殺したりぶっ殺したり。


様々なことをしてきました。


世界中を旅しました。


異世界も。


過去も。


歴史も。


流行に合わせて頭をカブからカボチャに交換したりもしました。


……話が逸れましたね。


とどのつまり僕が何を言いたいのかというと。


――――子供を冥府に誘うなんて造作もないってこと。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



『その木を右でございますよ〜』


少年を誘導して奥へ奥へ深く深く。


この山は危険な場所がたくさんあります。


野良妖怪や弱い悪霊が長い時間の間に住み着いてるのです。


……あぁ、もしかしたらこの山自体の結界が壊れたのでしょうか?


それならこの少年がここに居るのも納得です。


「じゃ、ジャックさん……こ、こっちでホントにあってる?」


『もちろんでございます』


「でもなんか……おどろおどろしいんだけど……」


『気のせいでございます』


確かに野良妖怪や悪霊の妖気でこの辺はえらいことになってますが。


なんか木々に人っぽい顔がついてたり。


上は密集した木の枝葉によって真っ暗だけど下は刺々した枝が行く手を阻んだり。


真っ赤な目をした不気味な声を出す小動物が駆け回ったり。


ま、無視です無視。


早く“目的地”に着かないと。


おっと、そうこうしてるうちに到着です。




「なに……あれ?」


少年が怯えるように掠れた声を出します。


真っ暗な木の上には、十数頭の醜悪な猿の群れ。


しかしその猿達は額からちょこんと角を生やし、目は狂暴な赤い光を宿しています。


フフフ……ここは猿鬼の巣です!


魔物……いえ妖怪?の中では頭も悪く弱い方ですがそれでも妖怪。


小さな少年ぐらい殺すのは容易いでしょう。


彼らが少年を殺し肉を喰らい、僕が少年の魂を喰らう。

これぞまさにWinWinです!


おっと、今まさに一匹の角の赤い猿鬼が少年の前に降り立ちました!


さぁ惨劇の始まりです!


突然の出現に少年は顔中を驚愕に染め、


「う、うわぁああああ!!!!」


歓声をあげて猿鬼を抱き締めました。


ご丁寧にそっと私を地面に置いてから。


「かわいい!! 可愛いなぁ!!」


……きみきみ、君が今抱っこしてるソレは妖怪ですよ。


じゃなくて。


猿鬼は全く動かずされるがまま。


どうなってるんです?


確かあの角が赤い猿鬼はプライド高いボス猿でしょう?


それが何故大人しくしてるんでしょう?


しかし猿鬼がかわいい、ねぇ?


この子の美的センスは大丈夫でしょうか?


もしかしたら長年封印されていた間に美の基準が変化した……いやいやどう考えても(ぶちゅん!)……ジーザス。


「あはぁ……ほんとうに可愛いなぁ……」


そこからは惨劇でした。


瞬く間に猿鬼の密集した木を蹴り倒し、目にも止まらぬ速さで叩き潰してまわる少年。


ぶちぶちと皮を引き裂いて血肉を喰らい頭蓋を砕いて脳漿を啜っています。


ていうかなるほど。


動かなかったのではなく、動けなかったんですね。


恐怖で。


「キャハァ……あははぁ……」


全身真っ赤に染めた少年が熱の籠った吐息をつき、ぐるりとこちらを向きました。


この、僕の魂を直接震撼させる波動。


私を消そうとした死神をイカサマ賭博で全裸にしてデスサイズも毟った時に浴びたものと同じです。


つまり、“殺意”。


息をするのも困難になるであろう濃密な殺意が、恍惚とした表情の少年から放たれています。


これなら先程の小動物が不気味な声をあげて走って、いや、逃げて(・・・)いったのが納得です。


しかもこちらを向くまで気取らせない恐ろしいほどの完璧な指向性。


昔エクソシストに喰らったゴッドブレスビームのようです。


少年がゆっくりと近づいてきます。


「……なぁ」


ん? 何か呟いてますね。


そしてその血塗れな手を私に伸ばし――――――



『Trick Or Treeeeeeat!!!!!!!』


おどろかします!!


「キャッ!」


狙い通りビックリした少年は、元通りに目をぱちくりさせています。


どうやら正気を取り戻したようですね。


脅したら泣く、ならばおどろかすだけでいいはず!


フッ、狙い通りです。


『危ない危ない、また悪い悪霊に取り憑かれかけていたでございます』

「わぁホントに!? ありがとう助けてくれて!」


おっと、また抱きついてきました血塗れで。


……さっきの“抱っこ”を見た後だと恐ろしくて仕方ないんですが。


『さ、さぁ先を急ぐでございます!』


「うんっ!」



・・・・・・・・・・・・・



あ! 不味い!!


森の奥、暗闇からフワフワと真っ直ぐこちらに飛んでくる紫のゴースト!


【ほーぅ……うまそうな子供だな、俺にもよこせよ】


チッ!


嫌な奴に見つかりました。


彼はティッキー。


私が封印されたこの場所を頻繁に訪れる、海を渡ってきた悪霊です。


【ティッキー、この子は僕の獲物だ】


【そう言うなよジャック。お前は手も足も出ねえんだ、俺によこせ。オコボレくらいはくれてやる】


そう言ってふわふわ少年に近づくティッキー。


「あ! もしかして幽霊さんですか?」


私も幽霊なんですが……この子僕を何だと思ってるんでしょう……?


「歌を聞いてくださいっ!」


歌? 普通は叫んで逃げるべきでしょう?


いや、まぁこの少年は常識があまり通じなさそうですから……。


『はい、是非聞かせてくれです』


片言片言、日本に来て何年経ってるかわかってるんですかこの悪霊は。


しかしやれやれ、“歌”を媒介に少年に憑依する気ですね。


で、崖から飛び降りる気ですか。


効果的ですがエレガントさに欠けますね。


「じゃあ早速」


少年は祈るように手を組み―――


「Ah―――――」


透き通るような歌声で聖歌を歌い始めた。


階段を上るように、天上へ届けるかのように、高く高くしかし深く深く。


なんと言う……なんと言う美しい歌声。


そう、まるで天上の調べ、聖歌とはここまで美しい代物だったとは……まるで心が、魂が浄化されるようだ。


今なら安らかに逝くことも出来るだろう……それほどまでに美しい歌声だ……


僕をこの世に縛る未練が薄れていく。


あぁ、光が見える


この光を辿れば天国へと行けるのだろうか


ありがとう、少年。


こんな僕を、君を殺そうとした僕を、救ってくれて


「――ah―――ah――――――」


少年は未だ歌い続けている。


その姿は本当に輝いて見え、祈るように歌うその姿は神話の一ページを眺めているようだ。


……何だか身体が軽くなってきた、時間のようだ。


さぁ、もう行こう。


そうだ、ティッキーと一緒に行こう。


あんな奴だけど今ならわかり合える気がする。


喧嘩ばかりだったけど、ホントはきっとイイヤツだ。


そう思ってティッキーを見れば、彼もこの歌声に浄化されているようで、うっとりとした表情で光に喰われてたってアブねえええええええええ!!!!


急速に現実に引き戻されました!


光をよくよく目を凝らして見れば、これ触手です!


少年から生えた触手です!


【アア……シ、あワ、セ……ダ……なんテ、アタタカ、イ…………】


ティッキーが光の触手に包まれ、どんどん吸収され小さくなっていく……神々しくもおぞましい光景。


何故ティッキーは気づかない!


……あれは!?


【……アタタ、カイ……ココ、チ、イ…………】


触手がドクッ、ドクッと何かを注入している……?!


……そうか!


この触手、あの少年の魂か!


あの、余りあって漏れ出ていた魂のエネルギー!


あれを注入して救われるかのような“多幸感”を与えているのか!


しかもこの『聖歌』ホンモノの、ホントに浄化の力がある『聖歌』だ!


神の祝福をこんな血塗れに穢れてる少年が何故歌える!?


「Ah―――…………」


終わった、ようですね。


ティッキーは……喰われましたか。


危なかった。


この依り代が無ければ僕も喰われてました。


この依り代が僕が吸い出される、つまり外に出るのを防ぐ壁になってくれたようです。


代わりに“浄化”されかけましたが……。


しかし怪我の功名か、注入されたエネルギーはまるまる手に入りました。


「あ……幽霊さんは、行っちゃいましたか」


『えっと……今の歌は何でございますか?』


「おとうさんに習いました! 『フワフワと光る幽霊さんを見つけたらこの歌を歌って癒してあげなさい』って言われてるんです!」


ニコニコと少年は笑う。


そこに含まれるようなものは何もない。


『左様でございますか……』


嘘かどうかくらい僕には簡単にわかる。


……どうやら完全に無意識でやってるようですね。


しかしこの力、吸魂能力?


いや何か違う。


人間、の子供ですよね?


人間が吸魂?


そんなことすれば人間でなくなります、魔物に変じます。


だと言うのに……ッ!!!


まさか……!?


そうか……この子はあいつ(・・・)と同類か!


魔王城に食客として招かれた時に見た、あの最悪の存在!


それならこの濃密で漏れ出すほどの魂のエネルギーも納得がいきます!


ということは……さっきの猿鬼の魂も喰われているはず……。


つまり、僕がこの子に殺意を抱いていることがバレたら―――逆に僕が喰われる。



……面白い。


これは、ますます喰いたくなりました。


あの存在を喰らったならば、いったいどれだけ強くなれるか見当もつきません。


……見たところまだ完全に覚醒していない。


今なら僕でも殺れる!


フフ……フフフ、ヒャアハハハハハハハ!!!!!









僕がこの後七回ほど殺しにかかって全部失敗して凹むまであと二時間。


無事山を降りきった少年と一緒に結界から出た僕が様変わりした世界に『異世界ッ!?』と言うまであと二時間ちょっと。




――――――あの女に出会うまで、あと三時間。


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