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なな 経緯

今回はいろいろと長いかもです



その訪問者は“アシュレイ・シュトライヒャー”と名乗った。


背は俺より高く178cmくらいといったところで、男にしては長い髪の毛は金色だった。


外人のくせに日本語は流暢で、背は高いくせに女顔。


声も少し高い。


しかもいきなり抱き付いてくるというチグハグな野郎だ。


だが、それでも分かる。こいつは俺にとって……いや、



今回の事件にとって重要なキーパーソンであると!



俺はその外人──アシュレイとじっくり話をするために家に招きいれた。


今、アシュレイと俺は和室で机をはさんで向かい合っている。


しかし、外人と和室とは実にミスマッチだ。


外人であるアシュレイには和室がめずらしいのか、部屋中をキョロキョロと見渡している。そのわりにはきちんと正座をして座ってるじゃないか。


少しは日本の教養があるらしい。まぁ、日本語が喋れるくらいだからな。


さて、そんなことは一旦横に置いてじっくりとこいつの話を聞こうじゃないか。


と、そう思ってアシュレイに向き直った時だった。


さっきまで落ち着きなくキョロキョロしていたアシュレイが俺の方をじっと見つめていたのだ。


そして母性に満ちた優しげな笑顔で手を振りはじめた。


俺は“なにやってんだ?”と疑問に思ったが、次の瞬間ハッとして後を振り向いた。


そこには和室の入口でこちらに視線を向けているクーとアンとサンと玲がいた。


アシュレイの手振りに無表情に応じて手を振っている玲を除いて、その眼差しには明らかな抗議の念がやどっていた。


ちょっと異様な雰囲気だ。



「ユキ…彼は、客人か?」



クーがアシュレイに視線を送りながら尋ねてきた。


ちなみにアシュレイはまだ満面の笑顔で手を振っている。



「あぁ、まぁ、そうだけど」



俺はクーの質問に答える。



「そうか……。確かに、客人をもてなすのは主として当然だ、


だがな……



夕飯はいつ作るのだ!?」



あー…、確かそうだったっけ?


ちょうどキッチンで飯作ろうとした時にアシュレイが訪ねてきたんだったな。



「後でな。こっちの用事が終わったら作るよ」



「後でと言っても!こちらの我慢にも限界というものがあるのだが!」



「そうよ!すでにお腹の虫が鳴いてるんだからね!さっさと作りなさいよ!」



「お腹すいたよぉ〜!死んじゃうよぉ〜!」



いちいちうるさいやつらだな…


俺は手っ取り早く騒ぎを沈静化させるために入口の扉を勢いよく閉めてちかくにあった亡きじいちゃんの杖をつっかえ棒に利用して扉を開けられないように固定した。


扉の向こうでクー達が

「ユキの横暴に断固抗議する!」

とか

「アンタ地獄に落ちるわよ!」

とか言ってるが軽く無視だ。


さて、と今度こそじっくりと話を聞かせてもらおう。


そう思ってアシュレイの方に振り向いた。



「やっぱり、子供ってのはあれくらい元気な方が可愛いですねぇ♪」



そう言ってアシュレイは無邪気な笑顔を浮かべる。こいつも子供っぽい。



「そんなことよりも、アシュレイさん、さっきのは一体なんなんだ?」



「さっきのって?なんです?」



「ほら、玄関先でのことだよ。アンタ、クー達…あの子達の声を聞いて“彼女達は元気なんですね”って言っただろ」



「あぁ、あれですか」



「あの子達について何か知ってる風な言い方だったな。もし、あの子達について知ってることがあれば俺に教えて欲しい」



「…ユキさんは何も知らないんですか?」



「全然知らないし、あの子達も自分自身のことは何も知らなかった」



「そうですか…おじいさんからも教えてもらってないんですね?」



「じいちゃん?!やっぱりじいちゃんも関係してるのか?!」



俺は身を乗り出す。興奮している俺をよそに、アシュレイは冷静に話し始めた。



「わかりました、一から全てお話ししましょう。なぜ彼女達が貴方のもとにいるのか、なぜ僕が貴方を訪ねにきたのか、そして貴方のおじいさんがどう関係しているかも、全て。貴方にはそれを知る権利がありますしね。すこし長くなりますけど、いいですか?」



「あぁ、いいとも」



さっきまで興奮していた俺の気持ちも失せて、淡々と、そして緊張しながらアシュレイの一言一言に注意深く耳を傾けることにした。




「話は半世紀以上前に遡ります……




“ナチス”を御存知ですよね?


───正式名称“国家社会主義ドイツ労働者党”

ドイツ語の頭文字を取って“ナチス”


アドルフ・ヒトラーを指導者とする急進的な右派政党でした。


知っての通りナチスはドイツで政権を握ったあと、“全権委任法”により他政党を解散させ独裁体制を敷きます。


そして再軍備、ラインラント進駐を強行し、1939年にドイツ軍のポーランド侵攻をきっかけに第二次大戦が起こった…‥



ここまでならどの歴史教科書にも載ってますよね?


でも、ナチスの“ある一面”はあまり多くの人には知られていない。




──ナチスのある一面?



ええ、アーリア主義です。

伝説のアトランティスを起源に持つ今は廃れた神の血を引く北方民族“アーリア人”


そのアーリア人の末裔であるとされるゲルマン民族のナチスは、現代に神の民族であるアーリア人を復活させようとしたんです。自分達が“神の血”を手に入れる為に、ね。




──アーリア人ねぇ…うそくさいなぁ



実際には存在しませんから、彼等は人工的に造ることにしたんです。



──造る?



単刀直入に言えば優秀なアーリア人に近づけるために人類を人工的に“進化”させようとしたんです。


そしてそんな時に一人の博士が現れた。


ハンス・ニーンベルグ、


薬物投与や外部的ショックによって人間を“強化”させる“実践的超人理論”を唱えていた人物です。


ナチスは彼の実践的超人理論こそ人類の進化の方法だと考え、彼の理論を採用しました。




──…それは、進化なのか?



いいえ。実際には単なるドーピングでした。


でも、ナチスにはどうでもよかったんです。


ナチスはニーンベルグ博士をトップに置いた研究グループを編成して、アーリア人を作り出す計画を推進しました。


秘匿作戦名“生命の(レーベン・スボルン)


そして計画遂行の為に設立されたのが“生命の泉機関”



話の核心はここからです。



当初、優秀な人間を作るはずだった計画も、戦況が悪化するにつれて強い人間を作ることに目的が変更された。


新兵器として投入し、戦局をひっくり返すつもりだったんでしょう。


ですが思うように成果はでず、ナチスは追い詰められていく……


ようやく敗戦間近の1945年に入って満足の行く兵士が“作られ”ました。


でも、手遅れでした。


製造された“アーリア人”300余名のうちほとんどがソ連軍が迫るベルリンへ投入され、残りの十数人が潜水艦に乗せて同盟国日本に引き渡すことになったんです。


その引き渡し計画を立てたのが僕の祖父であるレオ・シュトライヒャーと貴方の祖父、佐伯俊夫だった。



──俺のじいちゃんが?!



そう、僕の祖父ど貴方の祖父がジュネーブで秘密裡に会合し、計画した。


そして僕の祖父は三兄弟で、長男であり生命の泉作戦を指揮していたエインリッヒ・シュトライヒャーが許可を出し、次男のフォン・シュトライヒャーが実際に潜水艦に乗って輸送作戦に加わった。


ですが、輸送作戦は失敗に終わり潜水艦はインド洋沖に沈没した。


そして戦争は終わり、僕の祖父の兄弟、長男エインリッヒは戦犯として処刑され、次男フォンは既にベルリン戦で戦死していた。生き残ったのは僕の祖父のレオだけでした。


僕の祖父と貴方の祖父は戦後も度々会ってはどうにかしてインド洋に沈んだ潜水艦から“例の積み荷”引き上げられないかと話し合っていました。敗戦国としての意地だったのでしょうね。


そして、貴方の祖父は戦後に築き上げた莫大な資産(この広い邸宅もその一つでしょ?)を投じてそれを実現させた。


貴方の祖父は引き上げた積み荷を僕の祖父に引き渡そうとしましたが祖父は拒否しました。保管する場所がないのと元々日本に引き渡す目的だったからというのがその理由です。


何か問題があったら協力すると約束していたので、貴方の祖父が亡くなったという“問題”が生じたので僕がやってきました。



以上でアシュレイおにいさんの説明は終わり☆です♪」



話が唐突に打ち切られ、俺の体から力が抜けた。


まだ頭の中は少し混乱してる。



「ええと、つまり…あの子達はアンタの話に出てくる人工的に作られたアーリア人なのか?」



「そのとおり、正確に言えば強化兵ですね」



「あんな子どもが?」



「投与される薬物の性質上、被倹体は子どもであることが望ましかったですから」



「アンタの話が本当なら、60年もたってるのにあの子達は年をとってないが?」



「そこはほら、強化人間ですもの」



「はぁ…。あのな、そんなナチスやら実践的超人理論やら強化兵やら漫画みたいな話を信じろってのか?」



あまりにも話がぶっ飛び過ぎている。普通の人間なら疑って当然だ。



「僕の話を信じてくれないんですか?」



「当たり前だ!こっちはな、朝から身元不明の子ども四人を引き取ってそれどころじゃないんだよ!だいたいどーやってお前は俺のじいちゃんが死んだのを知ったんだ!?」「それは貴方の祖父の弁護士との…」



そうアシュレイが喋り始めた時だった。


壁を一枚隔てた向こうのリビングからサンの悲鳴が飛び込んできた。



「うわぁーん!!ゴ○ブリだよぉー!!苦手だよぉー!!」



「任せろ、サン!その黒い悪魔、クーが退治してくれる!」



どうやら例の害虫が現れたようだ。俺はアシュレイの話を馬鹿馬鹿しくおもったのでゴキブ○退治に参加しようと思い立ち畳みから腰をあげようとした。


その時、アシュレイが話し掛けてきた。



「ユキさん、強化兵は強いから強化兵なんですよ?」



「は?」



俺がアシュレイが突然言った言葉を理解しきれず間の抜けた返事をしたその刹那だった。



「スペシャルジェットストリームキィーック!!」



ドゴォ!!!



クーの叫び声と同時に家全体が衝撃に包まれ、俺の背後にある和室とリビングを隔てる分厚い壁が入口のドアごと派手に吹き飛んだ。


吹き飛ぶドア、砕け散る壁、俺の後頭部にクリーンヒットする壁の残骸。


俺は目の前の机に倒れ伏した。


後頭部への衝撃がひどかったようで、意識が朦朧としている。



「ね?言ったでしょ、あの子達は強化兵だって」



…これはクーの仕業なのか?


あぁ、お前は嘘なんかついてなかったんだな…こんなもん人間技じゃない



「ぎゃー!!ちょっとクー!壁ごと壊してどうすんのよ!」



「しまった、力が強すぎた!しかもユキが巻き添えをくってるではないか!!」



薄れゆく意識と後ろから聞こえるクー達の悲鳴のなか、俺は壁の修繕費に想いを馳せて静かに目を閉じた。

ちなみに“生命の泉機関”は実際に存在していた組織です。

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