ろく 訪問
猛烈な睡魔に襲われるなか書きました。だから変かもしんないです
──西暦1944年 7月 14日
ドイツ占領地域 ポーランド首都ワルシャワ
「第一期児は成功確率は15%以下で、成功した者も軽度の脳障害や発育障害、人格障害を持つ者が大半でしかも短命でしたが、投与する薬物の革新や調整によって第二期児は問題の65%を解消することができました」
「………」
「第二期児の基本体力は一般的な成人兵士に相当し、8歳で4キロ走の記録が12分フラットです。ですが情緒不安定で癇癪癖があり著しく学習能力が劣っていた」
「………」
「第三期児は前二回の問題点を完璧に克服しました。成功率は40%以上、発育に問題なく学習能力は大学生にひけをとりません。薬物投与によって筋力は通常児童の三倍あり深層催眠により恐怖感を取り除いて絶対的な服従心を植え付けることができた」
「…博士。我々は着せ替え人形を作っているわけではない」
「は…?」
「我々が目的としていることは戦局をひっくり返すような、超人的能力を備えた“新人類”を創造することだ」
「それは、承知しております…」
「ならば、これでは不十分だ。これでは“子供にしては強い子供”に過ぎない、人類の革新にはなり得ない。まったくもって及第点には程遠いな、博士」
「しかし…」
「事態は切迫している。連合軍はノルマンディーに上陸し、パットンの戦車師団は今こうしている間にもフランス平原を駆け抜けているんだ。各機関は連合軍を打ち負かす新兵器開発と武器生産に全力を上げている。分かるか博士、年間数十億マルクの予算を欲しがっているのは貴方だけではないということだ」
「………」
「持論の“実践的超人理論”を大成させたければ成果をあげろ。親衛隊はいつまでもままごとに付き合ってる暇はない」
「わかりました…必ず、必ず成果を上げてご満足させてみますよ、エインリッヒ・シュトライヒャー大佐」
──それから61年後
日本
「ホントにイライラするわね!もっと普通に喋りなさいよ!!」
「うぇ〜ん、無理だよぉ〜だって癖なんだもぉ〜ん」
「なんでそんなフニャフニャした喋り方を癖に持つのよ!さっさと直しなさい!」
「うぅ…アンもその怒りっぽい性格直したほうがいいよぉ」
「言ったわね……よくもアンタみたいなフニャフニャ女が!!」
「痛いよぉ!頬っぺたつねっちゃ駄目だよぉ!虐待反対だよぉ!」
………
「よろしくな、玲。これからは家族だ!」
「……あなたは…」
「クーだよ、クー」
「クー……。……。…アンは怒りっぽいから、アン……サンは明るいから、サン……私は冷静だから、玲……クーは…クーは……。…クーは、何でクー…?」
「私か?そうだな、私は“蔵”で見つかったからクーだ」
「…クーは蔵だから、クー…。…?…じゃぁ、クーは蔵?」
「ん?」
「クーは…物置き部屋なんだ…」
「いや、そういう意味じゃなくて…」
なんか、賑やかになったなぁ。
合計四人の身元不明の金髪碧眼美少女か……はぁ…
流れで俺が引き取ることにしたが、これどうなんだ?実際の所。
四人の美少女は明らかに西洋人だ、ハーフには見えない。だが、完璧な日本語を扱いきっている。
じぃちゃんが教えたのか?それとも日本語学校に通ってた?
いや、きっと違うな。蔵から黒い箱と共に発見されるような子達だ、何か特別な理由だろう。それこそ俺が想像もできないような。
今更になって頭を抱える。
今の自分は普通じゃない、普通の状況じゃない。
はっきり言って警察に任せたいが、クーは俺を信用しきっているようだ。それを裏切るのもツラい、まだ出会って一日もたっていないが…
しかし、ホントに困ったなぁ
…どうしよう。
「ほら!普通にあいうえおって言ってみなさい!」
「あ〜い〜う〜え〜お〜だよぉ〜」
「普通にって言ってるでしょ!!」
「ふぇ〜ん、精一杯やってるのにぃ〜」
「だから、蔵だからクーなわけではなくて…」
「…じゃぁ、なんでクー?」
「それは、蔵から…」
「…やっぱりクーは蔵なんだ…」
「いや、だから…」
人が本気で悩んでるってのにこいつらは!
……
…でもまぁ、あんまり悩んでても仕方ないか。
「…そうだよな」
そうとも。こればっかりは悩んでも解決する問題じゃない。
うだうだ考えるのはもうやめだ。
割り切ろう!
とりあえず、今日はいろいろあったからそろそろ飯にするか。気分転換にもちょうどいいし。「ようし、飯だ!飯にするぞ!」
俺は雑念を振り切るように声を張り上げた。
「い、いきなり大声出さないでよ!びっくりするじゃない!」
「わ〜い☆ご飯だよぉ♪」
「む、もう夕食の時間か」
「…栄養摂取…」
「そこで待ってろ、キッチンで作ってくるから」
そう言ってキッチンに行こうと立ち上がった時だった。
〈ピンポーン〉
インターホンが俺を呼ぶ。
「…誰だ?」
俺は宅配便か郵便局が来たのだろうと思って玄関に向かった。
じいちゃんは近所付き合いなどしていなかったので近所の人が訪ねて来たという予測はしなかった。
「はいはいどなたさま──」
玄関を開けると、俺はそこにいた訪問者に驚いた。
それは、
普段接触することのない人種、
そこにいたのは金髪の男性(女性のようにも見える)外国人だった。
「あ…」
呆気に取られた。
恥ずかしいかな、日本人とは概して異人種との交流に苦手な民族なのだ。
「あ、あの、あ」
我ながらひどくキョドってるな。
とにかく、会話しないと。
「な、ないすとぅーみーちゅうー!」
出来る限りの中学英語で交信を試みた。
「…サエキ・ユキさんですか?」
日本語喋れるのかよ。
「え?あ、あぁ。そうですけど…」そう返した時だった。
目の前にいる外国人の蒼い瞳が涙でウルウルになった。
「え?!どうし──」
女性みたいな整った綺麗な顔立ちが泣きそうになったのを見てひどく焦った、そして…
「あぁ、逢いたかったぁ!!」
思いっきり抱き付かれた。
「ちょっ、はぁ?!!」
突然の出来事に混乱する。
抱き付いてきた外国人は涙声で喋り出す。
「貴方の家を探していたら、ろ、路地裏で迷っちゃって…それで3時間くらい迷っちゃって、気がついたら日も暮れて、真っ暗になってきて…」
「あの…とりあえず離れてもらえます?」
ちょっと苦しい。
「ふぇ?…あ!す、すいません、つい…」
その外国人は慌てて俺から離れる。まだ涙目だった。
女顔だが背は俺より少し高い。さすが外国人。ちなみに抱き付かれた時の感触で男だと確信した。
「えぇっと…俺に何か用があるんですかね?」
外国人は落ち着きを取り戻して話し出す。
「えぇ、実は…」
が、しかし、その時。
「わぁーん、お腹へったよぉ!」
「あーもー!いちいちうるさいわね!我慢しなさいよ!」
家の奥から聞き苦しい声が響いてきた。
(あいつら…)
客人に聞かせるようなものではなかったのだが、それを聞いた訪問者である外国人の顔からは微笑みがこぼれていた。
もう涙目ではない。
「そうか。……“彼女達”は元気なんですね」
「…は?」
ちょっと待て、今の“彼女達”ってのはどういう意味だ?
もしかして──
「あぁ、先に名前を名乗っておきますね。
僕の名前はアシュレイ、
アシュレイ・シュトライヒャーです。よろしく」