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じゅぅ 罠

やっと更新できました…




───2006年 9月 1日

フィリピン首都マニラ ホテル・アチェロ





PPPPPP...PPPPPP... ガチャ




「あー…もしもし?」



『キュフナー・テオ様、国際回線からお電話です』



「…つないでくれ」



『かしこまりました』



「……もしもし?」



『テオか?ブルーノだ』



「あー、お前か…久しぶり…わざわざパラグアイから何のようだ」



『…眠たそうだな』



「当たり前だ。そっちは昼だろうがこっちは夜だぞ、時差を考えろ。んで、何のようで電話をしてきたんだ?」



『事態に進展があった』



「!?U-158が見つかったのか?」



『ああ、仲間の調査船がようやく発見したよ。発見位置はインド洋スマトラ沖合い、ベナンまで100キロ地点の海底だ。船体は酷く損傷して内部は浸水はしていたが、無事だったらしい。潜水したダイバーがいくつかの遺品を回収したよ』



「で、あれは?”彼女達”はみつけたのか?」



『いや、黒い箱だけはごっそり無くなっていた』



「………先を越された?」



『どうやらそのようだな』



「なんてこった!クソ、今までの努力は無駄だったのか!一体どこのどいつがネコババしやがったんだ?!アメリカか?イギリス?それともソ連か?!」



『いや、”日本”だ』



「……?!」



『その後の調査で、あの海域付近に以前”不自然”なサルベージ作業をしていた日本の調査船が目撃されていたことが分かった。詳しく調べてみると、調査船の名前は福龍丸。旧日本軍沈没船からの遺骨・遺品回収を目的に派遣されたらしいが、この船を出したのが日本の”旧日本海軍遺品返還機構”とかいう団体だ。だがな、この団体がどうやら一癖も二癖もある連中だったらしいぞ』



「いったいどういう奴らなんだ?」



『こいつらは、U-158が沈没していたインド洋に過去10回以上も調査船を派遣している。日本軍の沈没船なら、インド洋よりも太平洋のほうが遥かに多いはずなのにだ。この団体は他にもいくつかの地域で遺骨・遺品回収のために活動していたらしいが、どれもこれも実態の無い活動で、まるで唯の”アリバイ作り”だった』



「…なるほど、まるで端からU-158にしか興味がなかったみたいだな」



『十中八九そうだろう。この団体はU-158沈没地点付近でサルベージを行った直後、突然団体を解体している。この団体に関する資料はほとんど残ってないみたいだ』



「不自然すぎる」



『全くな。だが、残った数少ない資料から決定的な情報を見つけたよ』



「なんだ?」



『この”旧日本海軍遺品返還機構”って団体の設立に、日本の”佐伯重工”という大会社が多額の資金援助を行っている。それでだ、この”佐伯重工”って会社の社長の名前が、サエキ・トシオ…つまり』



「引渡し計画の日本側手配者か!」



『そうだ。これで決まりだ、この男が、そしてこの男が糸を引いてた”旧日本海軍遺品返還機構”が、U-158を俺達より先に発見し、そして”アレ”を回収した。「日本海軍の遺品回収」なんて、只の言い訳で、自分達が”アレ”を狙ってることがばれないようにするためだったんだ』



「だとすると、”彼女達”は今日本にいるのか?」



『そういうことになる。既に回収要員を派遣している。先発はもう日本入りしているはずだ。後発が時期に出発する』



「……」



『そこで、だ。これからが、今日お前に電話した理由だ。今回の”仕事”はかなり大規模になる可能性がある。だから、人員の輸送はこちらでなんとかするが、物資の輸送はどうにもならん。あれは税関を通るような代物ではないのでな。そこで…』



「俺がなんとかしろってか」



『そうだ。物資をそちらで調達して、密輸業者を利用し日本に移送してほしい。金を振り込む』



「…わかった。で、何時までにだ」



『詳細はメールで送る。だが、結構な大荷物になるぞ、覚悟しておいてくれ』








───5時間前

極東 日本





「ユキ、とりあえず聞いて欲しい」



「…なんだ」



「これをどう思う?」



クーの両腕には、有名な教育テレビ「森の昼下がり」に登場する牛を真似た人気キャラクター”モッ君”のぬいぐるみが抱かれていた。



「このつぶらな瞳、抱くもの全てを安楽の裾野へと誘うこの毛並み、そして、何よりも、後頭部を押すと投げかける「こんにちは」という優しい声……


ユキよ!まさしくこの”モッ君ぬいぐるみ”は、至高の一品だと思わんか!?」



「いいえ、思いません」



「買ってくれ!!」



「いいえ、買いません」



今俺は、クーと怜と一緒に近くのショッピングモールにやって来ている。


じいちゃんの蔵から出土したクー達の服を買うためだ。


クー達は60年も前の西洋服を着ていたので、街角をあれで歩いては嫌でも注目を引く。だからカジュアルな現代風の服を買いに来たのだが…



「そんな!こんなに素晴らしいぬいぐるみを買わないとは、ユキの神経を疑わざるおえないな!!」



さっきからこの有様だった。服屋のまん前にあるぬいぐるみ屋で足止めをくらってる。



「今日は服を買いに来たんだろうが…」



と言っても、クーはモッ君ぬいぐるみを手放そうとはしない。


このモッ君とやらは、自分には理解できないが何故か子供達の間でやたらと人気がある。


主に幼稚園児から小学校生の間で、毎年「結婚したいキャラクターNo1」やら「抱かれたい男No1」やらにランクインしているほどだ。今年は劇場版も製作されるらしく、ブームの火は今後もしばらくやみそうにない。


ただ、俺達大人にとって問題なのは、巷に溢れるこのモッ君キャラクターグッズが、無垢な子供の純真な心を惑わし、その保護者達から毎年10億以上のカネを巻き上げ続けているということだ。


そしてその”モッ君商法”に目の前のクーが見事にはまっている。



「こんなにカワイイのに…」



「駄目なのは駄目なんだ」



「モッ君もユキの家に来たいよーって言ってる」



「言ってない」



「『モッ君もユキ君の家に行きたいよー』」



「うっせーくんな」



「もぉーさっきからなんなんだユキは!!とにかく、私はユキが買うと言うまでここを動かないぞ!!」



「何歳児だお前は…」



「モッ君!必ず私が我が家に連れて行ってやるからな!!」



この子は、そのモッ君ぬいぐるみの値札に描かれている14500円という文字が見えないのだろうか…結構高いんだぞ。


というか、なぜぬいぐるみ程度であんな値段なんだ。子供向けビジネスというのは理解し難い。



「あのな、クー。そのぬいぐるみは、子供から身銭を巻き上げる利益追求主義のカタマリであってだな」



クーについて現代の商業主義の汚い一面を説明しようとした時、俺の腕を誰かがクイクイと引っ張ってきた。


振り向くと、そこにいたのは怜。さっきから俺が、モッ君ぬいぐるみの魔力にとり付かれたクーを相手にしている間、ほったらかしにしていた。


怜ならおとなしいから、問題を起こさないだろうと思っていたのだ。


実際、怜はあの少女達の中で一番無口で冷静な(そしてちょっと暗い)子だった。


アンみたいに怒りっぽくないし、サンみたいにポワーンとしていない。


そして目の前のクーみたいに、簡単に世の中の甘い誘惑には引っかからない性格だろうと、そう思っていた。



「……ユキ」



「ああ、怜。ごめん、すぐ終わるからもうちょっとそこで待っててくれる…」



その時、怜が両腕で持っていた大きな買い物カゴに目が行った。というよりは、その買い物カゴに入っている物に、と言うべきか。



「怜…それ…何かな」



「…モッ君キーホルダー三点モッ君消しゴム五点モッ君手袋6ペアデラックスモッ君人形一点おつかいモッ君メモ帳二点モッ君スリッパ三点モッ君消臭液3…」



「返して来なさい」



「…ユキ…多分…モッ君のいる”森の村”が財政危機に陥っているのだと思う…だから…こうやってモッ君グッズでお金を集めて…財政危機を乗り越えようと…頑張ってる…だから…私達もこれを買って…”森の村”を助けて…」



「返 し て こ い」



「…(´・ω・`)」



その後、約一時間かけて二人をモッ君の呪縛から解き放った。

(もっとも、小さなモッ君人形を二人に一つずつ買うはめになったが)

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