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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王と日常の章 その2
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Episode27 ダンスの相手

「もうだめだ、絶望だ」

 近頃チャーリーは、ダイナーのカウンター席に座るたびそんな言葉を口にする。

 私としてはその理由を問い、彼の力になりたかったが、師匠曰く「くだらない理由だし、あんたじゃどうにもできない」らしいので、日に日に憔悴していくチャーリーを見守ることしか出来ないのが歯がゆい。

「いい加減しゃきっとしなさいよ。あんたが凹んでると、なんか良い歌詞浮かんでこないのよ」

 それに少々横暴な部分はあるが、珍しく近頃は師匠がチャーリーに声をかけている。

 ということはきっと高校に関する悩みなのだろうなとわかり、私は渋々様子を見るにとどめる。

「歌詞より、俺の相談に乗ってくれよ」

「プロムで歌う新曲の歌詞なのよ、チャーリーよりよっぽど重要」

「わかってたけどひどいよね、相変わらず……」

 カウンターに突っ伏し、チャーリーは弱々しく紙ナプキンを握りしめる。

 その姿はあまりに哀れで、私は彼の好きなシェイクをつくり、そっとカウンターに置いた。

「まあ、これでも飲んでくれ」

「……こういう気遣いができれば、俺にもできれば今頃は……」

「なんか、前にも似たようなことを言われた気がするな。あのときは確か、彼女がほしいとか言っていたか」

「今回もそうだよ」

 ぽつりとこぼした言葉に、私は師匠が心配しなくて良いといっていた理由を何となく悟る。

「チャーリーは、また女の子のことで悩んでいるのか」

「またってなんだよ!」

「だってチャーリーは、いつも彼女がほしいと言っている」

「そりゃあほしいだろう!」

「でもあきらめた方がいいと、師匠が言っていたぞ」

 やっぱりひどいと、チャーリーは歯をギリギリならす。

「俺は、そんなだめな奴かな……」

「私はそうは思わない」

「でも全然もてないんだ。もうすぐプロムなのに、このままじゃダンスの相手もいない」

 先ほどから気になっていたが、そのプロムというのは何なのだろうか。

 美味しい食べ物だろうかと思わず首をひねっていると、私の悩みを察したように師匠が顔を上げる。

「卒業の前にあるパーティーよ。高校最後の行事だから、みんな着飾ってダンスとかするの」

「それは、一人で行ってはだめなのか?」

「だめじゃないけど、ふつうは男女で行くの」

「それは、高校生でないといけないのか?」

 私の言葉に、師匠はにっこり微笑む。

「誰とでも自由よ。そして、ふつうは男性から誘うものなの」

 詳細はグーグル先生に聞きなさいねと告げる師匠の笑顔に、私は家に帰ったら早速先生にお伺いを立ててみようと決意する。

「……お前、完全に手のひらの上で転がされてるな」

 そんなとき、ぽつりとこぼしたのはチャーリーだ。

「私は、師匠の手の上に乗れるほど小さくはない」

「良いようにされてるって意味だ」

「それは、だめなことか? 私は常に、師匠が望みむ自分でありたいぞ?」

「まあ、お前が幸せならそれで良いと思うけど」

「チャーリーも、最愛の人が見つかればわかる」

「見つからないから問題なんだ」

 もう15人の女の子に声をかけたが断られ続けていると、彼は切ない声を上げる。

「誰彼かまわずかけるから、嫌煙されるのよ」

「でももう、時間もないし」

「学校外で見つけたら?」

「うちのまち、年寄りばっかじゃん」

「そうやってケチ付けてるから相手がいないのよ」

「だってプロムだよ! おばあちゃん同伴とか前代未聞だよ!」

 可愛い子がいい、若い子がいいと、チャーリーはぐずる子供のように連呼する。

「なあ、魔王の力で何とかならないか?」

「なんとかとは?」

「誰かを、俺に惚れさせるとか」

「人心を惑わす魔法は禁忌とされるものだ。やるならば、心臓の半分を失う覚悟でないと」

「……も、もうちょっと安全なのは?」

「魔法でぱぱっとというのは無理だな」

「じゃあだれか、知り合いでいない? 可愛い子」

「この前に、君に夢中だったメイドを呼ぼうか?」

「……それも、やだ」

 わがままねぇとここで師匠のヤジが飛んだが、もはやチャーリーは気にしていないらしい。

 それほど必死なのだとわかると何とかしてあげたくなるが、魔王の自分に何ができるのかと考えると中々答えが出ない。

 だがそんなとき、チャーリーの横からチビ殿が顔を出す。

 名案があると言いたげな彼に視線を向けると、彼はお姫様の絵を買いたスケッチブックを差し出してきた。

「なるほど、名案だ」

「えっ、チビなんていったんだ?」

「師匠と私のように、チャーリーにとっての姫君はこの世界にはいないのではないかというのがチビ殿の考えだ」

「コノ世界にいない?」

「つまり、我々の世界の住人かもしれないと」

 私がそういうと、チビ殿はお姫様の隣にチャーリーの似顔絵を買く。

「チビ殿曰く、チャーリーの情けないところとか金髪くるくるヘアーなところとか、度胸はないけどお金だけはあるところは童話の「王子様」にそっくりらしい。故に、私たちの国からお姫様を捜してみたらどうかと」

「チビ……ちょっと腹立つがナイスな提案だ!」

「というわけで、私の世界にいる姫君達に文を届けてみよう。我らの世界にはアメリカの州以上の国があるから、誘えば一人くらいはこちらに気てくれるかも知れない」

 さすがにいきなり呼び出すのは困るだろうが、あちらの世界では魔王城の者達が持ち込んだこの世界のしきたりや品物がブームになっているらしい。

 こちらの世界を見学にこないかと誘えばその気になってくれる人もいるだろうし、なおかつ素敵な王子様がいるとかけばきっと誰かは駆けつけてくれるだろう。

「本当に上手く行くかしら……」

「案ずるな師匠。私の世界になら、チャーリーの良さをわかってくれる人はいる」

「この世界にもいないのに、そう都合良く見つかる気がしないんだけど」

「大丈夫だ、絶対に!!」

 私は確信を持ってそう言いきり、その夜早速向こうの世界に手紙を出した。

 ついでに、私が一番かっこいいと思ったチャーリーの写真もつけて出したところ、翌日早速、反応があった。

「早速ダイナーでお迎えをしよう」

 と、師匠とチャーリーたちをつれてダイナーに向かうと、既に姫君は店にいた。

「待ちくたびれたわ」

 そういって、ダイナーの入り口にたっていたのは美しい銀糸の髪と愛らしい面立ちの姫君だった。

「おい」

 しかしどうやら、チャーリーは何か不満があるらしい。

「これは、どう言うことだ?」

「どう言うこともなのも、言われたとおり姫君を呼んだ」

「どっからどうみても、チビと同い年くらいにしか見えないんだが」

「チャーリーの望み通り、ピチピチの17歳だぞ。あちらの世界の人間は長生きだから、幼少期が少し長いのだ」

「だとしてもこれはいろいろだめだろう!!」

 チャーリーは悲鳴にもにた声を上げ、その横では師匠が腹を抱えて笑っている。

「あんたもいい加減学習しなさいよ。魔王に頼ったってろくな事ないんだから」

「わかってても頼りたくなるほど焦ってたんだよ! それに、これは想像できないだろう!」

 そんなやりとりを交わしていると、しびれを切らした姫君がドレスを引きずりながらこちらへとやってくる。

「わざわざきてあげたんだから、もう少し歓迎してくれてもいいんじゃない?」

 姫君の言葉に、私と師匠は改めてようこそと声をかけ、ダイナーの扉を開ける。

 すると姫君は少し得意げに鼻を鳴らし、それからチャーリーの方を振り返る。

「そこのあなた、エスコートしてくださる?」

 渋々といった顔で、姫君の隣に並ぶチャーリー。しかしどうやら、それは姫君の望んだことではないらしい。

「あなたじゃなくて、そっちの殿方よ!」

 そういって、姫君が持っていた扇を向けたのはチャーリーの後ろにいたチビ殿だ。

「あなたが、私の相手役でしょう?」

 こちらにきなさいと言う姫君の言葉で、チャーリーは説明しろと私に視線を向ける。

「もしかしたら、勘違いしたのかもしれない?」

「勘違いってなんだ」

「かっこいいチャーリーのピンナップがどうしても見つからなくてな、しかたなくチビ殿と一緒の物を手紙にいれたのだ」

「じゃあれか、俺はこのチビに負けたってそういう……」

「まだ負けてはいない。ここは大人の魅力で姫君の愛を勝ち取るのだ!」

「できるわけないだろう! 俺はまだ犯罪者になりたくない!」

 頭を抱えるチャーリーを見かねたのか、仕方なくチビ殿が姫君の手を取る。

 その顔は非常に不本意そうだったが、ここはこらえてほしいと目で訴えれば、彼は渋々姫君をダイナーへとエスコートしてくれる。

「チビの方がよっぽど紳士的よね」

 苦笑と共にそうこぼした師匠に、チャーリーはよりいっそう落ち込んだ。

「やっぱり俺、一人でプロムに行く運命なのかな……」

「案ずるな、ほかの手を探す」

「でも、お前に頼むとろくなことにならない!」

「大丈夫だ、次は上手くいく!」

「あて、あるのか?」

 お前に紹介できる女のつてはあるのかとにらまれ、私は必死に頭を働かせる。

 すると一人だけ、美しい女性の顔が浮かんだ。

「いる。とても美しい人で、その人もずっと彼氏ができないと嘆いていた」

「俺と同じだな」

「だからきっと、気が合うに違いない!」

「じゃあその子を紹介してくれ」

「もちろんだ」

 もう二度とがっかりさせないと私は約束した。

 それから私はチャーリーとダイナーに入り、早速電話をかけた。

 電話の相手、ミスウェンディはチャーリーと会うことを快諾してくれたが、電話を切った後で私はふと気づく。

「ミスウェンディはいくつなんだろう……」

 あんなに美しいのだからそれほど年老いてはいないと思うが、仕事を持っている彼女は高校生よりは年上だろう。

 だがきっと、彼女の美しさを見ればチャーリーもほれぼれするに違いない。

 それに高校のプロムということは、校長であるミスウェンディは絶対参加するだろうから、仕事とスケジュールがかぶる心配もなく安心だ。

「早く、チャーリーが喜ぶ顔がみたいな」

 思わず独り言をこぼしながら、私は吉報を伝えるため、スキップでチャーリーへと近づいた。


【お題元】

「プロムの話が読みたいです」

(↑プロム当日はまた別の話数でやります!)

「チャーリーにはとにかく苦労して欲しい

 などのメッセージなどより作成。


オーダーとネタ振り本当にありがとうございました!

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