Episode08 ギター
黒い悪魔を葬り去ってから、師匠は私と距離を置くようになった。
それを柄にもなく寂しく思っていた4日目の夜、師匠に話があるといわれた。
「あんたさ、本当にこの世界の人じゃないの?」
これ以上嫌われるのは嫌なので、私は素直に頷いた。
「魔王って何か、グーグルで調べたんだけど、結構悪い奴だったのよね。人の生き血をすするとか、マジなの?」
「かつての主食は人の血であった。それこそが、私の力の源ゆえ」
「もしかして、今も?」
「いや、ケチャップがあれば問題ないようだ」
「そういうもんなの?」
「うむ、3食ハンバーガーだが問題ないぞ」
「でも隠れて人の魂を食らってるとか」
「それはない。食らうような高貴な魂を持つ客がこの店には来ないからな」
「嫌み?」
「事実を述べたまでだ」
答えると、師匠は少しほっとした顔をした。どうやら、私は知らず知らずのうちに彼女に不安を与えていたらしい。そう言えば、魔王という肩書きはそう言う物だったと、今更ながらに思い出す。
ここで暮らすうちに忘れていたが、そもそも私は人に恐怖を与える存在なのだ。
「師匠は、私が恐ろしいか?」
「よくわからない。剣とか出したときは、さすがに少し怖かったけど」
「もしも、師匠が私を不快だと思うならいってくれ。そのときは、潔くここを立ち去るつもりだ」
「行く場所、あるの?」
「ない。しかし師匠は私にハンバーガーのおいしさを教えてくれた人だ、そんな師匠を苦しめたくはない」
「ほんと、あんた魔王っぽくないわね」
「まあ、できたらここに居たいというのも素直な気持ちだ。師匠のハンバーガーとは、離れがたい」
「そこ、私と離れがたいとか言おうよ」
「師匠とも離れがたい」
「いや、今更だし」
「本当だ。師匠のハンバーガーと同じくらい、師匠の歌も好きなのだ。あのギターとか言う楽器を奏でている姿は、美しいと思う」
「ほ、褒めても何も出ないよ」
「事実を述べたまでだ」
師匠は突然赤くなると、私の方を乱暴に突き飛ばした。
「そ、そこまで言うならここに置いてあげてもいい」
「本当か! ハンバーガーをまた食べてもいいのか!」
「あんた、ホントそればっかりね」
「師匠とも離れがたいぞ」
私が言うと、師匠はようやく私に笑顔を向けてくれた。
「まあそこまで言うなら、たまには歌ってあげようかな。失恋ソング以外も」
「なら、ロッカーからギターをとってこよう」
「壊さないでよ」
「安心しろ、師匠と師匠の大切な物は何があっても傷つけない」
私の言葉に、なぜだか師匠は少しくすぐったそうに笑った。