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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王を取り巻く人々の章
84/102

Episode15 パジャマパーティ(ボーイズ)

魔剣視点

 我が主殿の突拍子もない発言と行動は今に始まったことではないが、その対象が自分に向く時は大抵ロクでもないことが起こる。

 そして今回もそれに漏れず絶対面倒ごとが起こると思った私の勘は、多分外れてはいない。

「パジャマパーティをしたいので、今すぐこれに着替えてくれ」

 何せ私の前に現れた主殿の第一声は、それである。

『着ろも何も、私は魔剣なのですが』

「化身の魔法を使えばいいだろう。前に手取り足取り教えたじゃないか」

 教えて貰ったが、それはパジャマを着る為ではない。

『それに、パーティというにはいささか雰囲気がもの悲しいのでは?』

 私が置かれているリビングには主殿を覗けば誰もおらず、料理や飾りのたぐいも用意されていない。

 それを指摘したが、主殿が諦める気配はないようだ。

「正確にはパーティの練習をしたいのだ。最近ほら、お前の恋人と師匠が良くパーティをしているだろう?」

 恋人を作った覚えはないが、主殿の無駄にキラキラした目を見れば、彼の言葉が指す相手の正体は自ずとわかる。

『聖剣殿は恋人ではないし、あれはパーティというよりただの語らいかと』

「ともかくあれをやってみたいのだ!」

『そう言うことは師匠殿に頼めばいいと思います』

「試したけど駄目だったのだ。パジャマ姿の師匠をみるとその……すぐ脱がせたくなってしまうのでな」

 どうやら主殿は、ある意味では昔の激しさを取り戻したらしい。まあ激しかったのは恋愛ではなく戦い方だったが。

「ともかくパジャマパーティをしてみたいのだ!」

『しかし何故私なのです。適任者が他にいるでしょう』

「最近お前とはあまり会話がなかったし、丁度良いだろう?」

 喋るだけならこのままでも良いでしょうと告げたが、そこで引く主殿ではない。

 結局最後は私が折れ、しかたなく人の姿を取ると主殿とお揃いのパジャマを身に纏った。

 しかし私は主殿よりがたいが良いので、サイズが見事に合わない。裾は足りていないしボタンも無理矢理しめているので酷く窮屈だ。

「……主殿、他にパジャマはないのですか?」

「お揃いの奴はこれしかないのだ」

「そもそもお揃いにする意味はあるのですか?」

「とても、仲が良い感じがするだろう?」

 正直、大の男が仲良くお揃いのパジャマはどうかと思ったが、主殿が喜んでいるのでそれ以上は言えない。

 それに運良く師匠殿も出かけているので、私は「少しの間だけだ」と胸中で繰りかえしながら、しかたなく主殿と並んでソファーに腰を下ろした。

「それで、パジャマパーティとは何をすればいいのですか?」

「私も正直よく分からないのだ。とりあえず、お喋りをすればいいらしい」

「お喋りと言っても、私達に共通の話題はないかと」

 主殿とは長い付き合いだが、私達の間に会話が成立するようになったのは割と最近のことだ。

 城にいた頃の主殿は魔王らしさを強制されていたので酷く無口だったし、私も口数が多い方ではない。

 故に会話と言えば命令とその返答くらいのもので、案の定今回も我々のコミュニケーションは芳しくなかった。

「恋の話はどうだ? 聖剣殿とは上手くやっているのか?」

「我々は恋人同士ではありませんし、その手の話題は好ましくありません」

「じゃあ趣味の話はどうだ? お前、最近何かに打ち込んでいたりはしないか?」

「特になにも」

「じゃあこれからやってみたいこととか、趣味にしたいことはないか?」

「特になにも」

「逆に辛いことなどはないか? この世界にきてずいぶんたつが、ホームシックにはなっていないか?」

「いえ特には」

 強いて言うならこの状況が多少辛いですというと、主殿はわかりやすくしょげた。

「そんなにパジャマパーティが嫌か?」

「嫌というか、どうすればいいかわからないのです」

「もっとテンションを上げたらどうだろうか」

「私が上げられるのは魔力だけです」

「お前は本当にかたい男だな」

「剣ですから」

 至極真面目に答えた直後、玄関の扉が開く音がした。

 多分師匠殿が帰ってきたのだろうと思いほっとしていると、案の定主殿が玄関へと駆けていく。

 やはり主殿は私ではなく師匠殿と語らうべきだ。その方が私としてもありがたい。

 そう思って剣に戻ろうとした直後、私は最悪の事態に遭遇する。

 なんと玄関から戻ってきた主殿達は、あろうことか聖剣殿を連れてきたのである。

 よりにもよって、よりにもよってどうしてこんなパツパツのパジャマを着ている時に愕然とすれば、彼女が私を見て息を飲んだ。

 さすがに今回は逃げられることはなかったが、向けられた視線と言葉はやはり私を傷つけるものだった。

「可愛らしいパジャマですね」

 ネコさんですねと微笑む彼女に悪意はない。悪意はないがパツパツな上に無駄にファンシーなネコのパジャマを来ている姿を見られて凹まない魔剣はいない。

「可愛いだろう? お揃いなんだ!」

 と得意げに胸を張る主殿には申し訳ないが、私は化身の魔法をとき剣の姿へと戻った。

 刃に触れたパジャマは音もなく裂けたが、私の傷ついた心に比べればまだマシである。

【お題元】

Episode09と同じく「魔剣の話を」というオーダーより作成

オーダー本当にありがとうございました!

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