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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王を取り巻く人々の章
81/102

Episode12 13日の金曜日 PART2

アルファ視点。

「13日の金曜日は一年に一度ではないのか!!」

 そんな叫び声が向かいの家から聞こえてきたのは、学校へ行くために家を出たときだった。

 この馬鹿なセリフはデカい方の魔王だなとぼんやり思っていると、いつもよりほんの少し遅いタイミングで、チビっこい方の魔王が家からふらりと出てくる。

 だが今日の奴は、いつもと明らかに様子が違う。

 何せチビは、チビの頭にはあまりに大きすぎるフットボールのヘルメットと、野球のキャッチャーが付けるようなプロテクターを装備していたのだ。

 それに関してチビは何も感じていないみたいだけど、俺はちょっと哀れに思った。

 たぶん『ジェイソンが出ると危ない!』とか馬鹿な理由で、こんな重装備をさせられたに違いない。

「お前、なんでも言われたとおりにしなくても良いんだぞ」

 俺の言葉にチビは首をかしげて、それから何か言おうと、鞄からノートを取り出そうとする。

 だがヘルメットで前がよく見えないのか、鞄の中の物を地面にぶちまけてしまった。

 仕方なく、俺は奴の落とした物を拾ってやった。

 そして逆に、奴のヘルメットとプロテクターを無理矢理はぎ取り、俺はそれをゴミ箱に捨ててやった。

 チビは驚いた顔で俺を見上げたが、絶対にこの方が正しい。

「あいつが大げさなんだ。ジェイソンがいない事なんて、小学生だってしってるのに」

 それにもしジェイソンがいたとして、チビは魔王なのだ。

 ヘルメットやプロテクターがなくても、魔法でばばっとやっつけられるに違いない。

 そしてそれをチビに伝えれば、奴は頑張るというように握り拳を作った。



 それから俺達は、バスに乗って学校に行った。

 勿論、13日の金曜日だからと言って、変わったことは何一つ起きなかった。

 授業は相変わらず退屈で、休み時間はバスケをやって、ランチを食べて、またバスケをした。

 そしてまたバスに乗り、俺達はいつものように家へと帰る。

 本当に平和な一日だった。むしろ平和すぎるくらいだった。

「こんなにいつもと同じだと、ちょっとつまんないくらいだよな」

 平和すぎる一日の終わり、チビと共に家の前でバスから降りた俺は、思わずそんなことを言ってしまう。

 チビは理解できないという顔をしていたが、魔王である奴と違って俺は刺激的な体験というのにちょっと飢えてたのだ。

 でもべつに、ジェイソンに襲われたいと思っていたわけじゃない。

 そもそも襲われるなんて思ってもいなかった。

 だけどチビと呑気に会話しているとき、突然その刺激的なことが目の前に現れた。というか、それは既に側にいたのだ。

「あれ、ジェイソンっぽくないか?」

 と俺が指さした先、チビの家のポストの前に、ジェイソンそっくりな男はしゃがみ込んでいた。

 妙にビクビクしているが、奴は見覚えのあるホッケーマスクをかぶり、腰には鉈をぶら下げている。

 あれはジェイソンだろうかと、チビが俺の服を引っ張った。

 でも、あえて尋ねられると「そうだ」とすぐには答えられない。

 ジェイソンが本当にいるなんて信じたこともないし、いたとしても、あんな挙動不審な奴がジェイソンだとは思えなかった。

 だってジェイソンは、暗闇から突然襲いかかってくるのがお約束だし、こんな真っ昼間に人の家の前にしゃがみ込んでいたりはしない。

 それに、映画の中のジェイソンは怖いし気味も悪かった。

 でも今目の前にいるジェイソンは、全く怖くない。

 こっちに気付いてないのもあるけど、むしろジェイソンが何かに脅えているみたいだった。

「あいつだったら俺達でも倒せそうだな」

 俺が言うと、チビも頷いた。

「魔王に見つかると大騒ぎしそうだし、俺達で退治しちゃおうか」

 もう1回、チビが大きく頷いた。

 だから俺達は、鉄のゴミバケツを抱えながらこっそりとジェイソンの背後に回った。

 それからタイミングを合わせ、しゃがみ込んでいるジェイソンに、俺達は勢いよくゴミ箱をかぶせる。

 ただそれだけのことなのにジェイソンは相当怖がっていた。

 けどゴミ箱の上からバットでガンガン叩いてやると、奴はさらに怖がっていた。

 その上どうやらゴミ箱から抜けなくなったらしく、奴はこちらに襲いかかるどころか、頭にゴミ箱をかぶったまま、転がるようにして逃げていく。

 途中いくつかのポストや木にぶつかりながら転がり去っていくジェイソン。

 奴が通りに向こうまで消えていくのを眺めながら、俺はチビとハイタッチをした。

 俺とチビにかかれば、ジェイソンだってイチコロだ。

「これで当分ジェイソンは来ないだろう。魔王にも、安心しろって言っておけよ」

 俺が笑うと、チビは笑顔で家へと入っていった。

 俺も上機嫌で家へと帰り、その夜は自分が勇者になる夢まで見た。

 けれどせっかくの素敵な夢も、長くは続かなかった。

 ママのヒステリックな声に、深夜にもかかわらずたたき起こされてしまったのだ。

 何事かとママの寝室を覗くと、ママはテレビでニュースを見ていた。

 ニュースに写っていたのは、二人のキャスターとあのジェイソンだった。それもマスクを取った恐ろしくグロテスクな顔の。

 確かに、コレはちょっと怖いかもしれない。

「昨日の夕方、殺人鬼ジェイソン・ボーヒーズを名乗る奇妙な男が逮捕されました。ホラー映画『13日の金曜日』のジェイソンにそっくりなマスクをかぶったその男は、『この街には俺よりももっと恐ろしい怪物が沢山いる。もう殺人はこりごりだ、逮捕してくれ』と警察署に駆け込んできたとのことです。警察官達は新手のイタズラかと思ったそうですが、凶器を無許可で所持していたことから警察は彼をその場で現行犯逮捕。しかし14日未明、彼は独房の中から忽然と姿を消したそうなのです」

「彼の入れられた部屋には『今度の13日もお願いします』とメモが残っていたそうですね」

「現在警察は彼の行方を追っていますが、目撃情報は今のところ無く。捜査は困難を極めそうです」

 それでは次にニュースですと続くテレビに、怖い物が嫌いなママは「いやだわ」と繰り返している。

 だから俺はママを安心させてあげるために、その夜は一緒に寝てあげることにした。

「さすがにあんたも怖くなったの?」

 とママは言ったがその逆だ。

 俺が側にいれば多分ママは絶対奴に襲われない。

 なにせ奴が恐れた怪物のウチの1匹はこの家に。もう1匹はすぐ側の家に住んでるんだから。

【お題元】

チビ魔王VSジェイソンさんを読みたいです。

今年2回目の13日の金曜日を記念して(投稿は遅れたけど…)


オーダー、本当にありがとうございました。

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