Episode11 4月1日
チャーリー視点。
「俺、実はお前のことが好きなんだ」
そう言って向かいの席の魔王を見つめると、奴はアニメのキャラクターのように目を点にして、俺をじっと見つめていた。
「今、なんと?」
「だから好きなんだよ、お前が」
「チャーリーが、私をか?」
「俺が、お前をだ」
「でもチャーリーは師匠を好きなんだろう?」
「今はふっきれたんだ。そうしたら何か、段々お前のことが気になっちゃって」
「でも、チャーリーは男性だろう? それに私も、魔王だが男なのだ」
「知ってるよ。でも恋愛に性別は関係ないって言うだろう」
穏やかに微笑みながら、俺は魔王の顔をじっと見つめる。
「本気なのか?」
「本気だ」
「好きと言うことはその、この私とキスをしたいとも思うのか?」
もちろんだと頷いた。
「抱き合ったりもか?」
もう一度頷いた。
「裸で抱き合ったりもか?」
言わせるなよと表情で示せば、魔王は酷く困った顔で頭を抱えた。
「すまない、正直混乱している」
「わかってる。それにお前があいつを愛しているのも知ってる。でもどうしても今日伝えなきゃって思ったんだ」
「でも突然だし、それに今は深夜だし、人気がないとはいえここはダイナーだし、厨房で師匠がクッキーを食べてるし」
わかりやすく混乱している魔王に、俺はうっかり笑いそうになった。
けれど何とか堪え、俺は言葉を重ねていく。
「今日言おうってずっと考えてたんだ。おまえにこの気持ちを伝えようって、ずっと」
そういって魔王の手を取り、俺は彼に熱い視線を送る。
「今日だけで良い、いや今夜だけで良い。俺を抱いてくれないか」
「それはいきなりすぎないか? せめて手を繋ぐとか、そこから始めるべきではないのか?」
「それくらいお前が好きなんだ!」
そして抱いてくれれば俺の想いは晴れるのだと強く強く告げると、魔王はなにやら口をぱくぱくさせながら俺の手を振り払う。
「やっぱり嫌か?」
「いや……チャーリーは親友だし、今後も仲良くしていきたいし、そのためなら何だってしたいという……気持ちはあるのだ…が……その!」
酷く狼狽した様子で支離滅裂な言葉を2分ほど呟き続けた後、魔王は「ちょっと待ってくれ」と告げ、厨房へと駆け込んでしまった。
その姿はあまりに滑稽で、俺はついに吹き出してしまう。
吹き出すどころか、腹を抱えてテーブルに突っ伏してしまう。
「こんな簡単に騙されるなんて、やっぱりあいつはアホだな」
ホールの壁に掛けられているカレンダーをちらりと見ながら、俺は一人笑顔をはり付ける。
今日は4月1日。だがその意味を、奴はやっぱり知らないらしい。
「戻ってきたら種明かしをしてやるか」
むしろ既に明かされてるかもしれないと考えながら、俺はもう一度にやりと笑う。
「待たせたな」
だが次の瞬間、俺の笑顔は行き場を失い、上がった口角は中途半端な場所で止まってしまった。そして同時に背中あたりに寒気まで走った。
理由は、ホールに戻ってきた魔王が酷く真面目な顔をしていたからである。
その上魔王はそれまでの躊躇いを見事なまでに捨て去り、
「覚悟は出来た、君を抱こう」
と言い放ったのである。
驚く間もなかった。気がつけば俺は、無駄に色気を出した魔王に押し倒されていた。
「おっお前、本気か!?」
「本気だ。チャーリーとの友情を失いたくないし、何よりそうするべきだと師匠に言われた」
魔王の言葉に、俺は気付いてしまった。
ホールと厨房を繋ぐカウンターから身を乗り出し、こっちを見ているあの子の姿に。
そしてその顔に浮かんでいるのは「ざまあ見ろ」という卑しい微笑みである。
勿論俺はそれを咎めたかったが、それよりも俺が裸にされる方が早かった。
抵抗などする間もない。なにせ彼女に気付いた1秒後には、俺は裸にされ、その上テーブルの上に押し倒されていたのである。その早業たるやまるで魔法。というか魔法に違いない。
「なっ何したお前!」
「チャーリーの服はどれも高そうだし、破ってしまうと申し訳ないので魔法で消した」
でも事が終わったらまた出現させるといいながら、魔王は俺の体を興味深そうに検分する。
それもあろう事か、下半身を重点的に。
「人の体というのは女性と男性で構造が違うようだな。見たところ、排泄器官以外の穴が見あたらないのだが、私はどうやって事を致せばいい?」
至極真面目に質問をする魔王に、慌てて大事な物を隠したが後の祭りである。
奴はまだ服を脱いでいないが、今にもボタンに手をかけそうだったので俺は急いで奴を蹴り飛ばし、椅子の下に身を隠した。
「ざまあみろ」
と今度は言葉にしながら、いつの間にか側でカメラを構えているのは初恋のあの子。
そんな彼女のしたり顔に気付いた瞬間、俺はもう二度とエイプリルフールなんてばかげた祭には乗らないと心に決めた。
【お題元】
特になし(エイプリルフール記念)