Episode07 苦手なもの
「いやーーーーーーーーーーー」
深夜。店の片づけをしていると突然師匠の叫び声が聞こえた。
あわてて師匠のいる厨房に向かうと、彼女は黒い魔物と対峙していた。
黒い魔物とは私の城のメイド達が、そう称していたゴキブリと呼ばれる小さな昆虫だ。
「おお、こいつはこちらの世界にもいるのだな」
「のんきにしてないで、退治して!」
といわれても手元に武器はない。
しかたなく、私は久しぶりに我が相棒を呼び出すことにした。
我が相棒の名は、魔剣アンティベラム。一振りで山をも切り崩す魔力を秘めた剣である。
「我が誓約により、出でよ!」
久しぶり過ぎて危うく忘れかけていた召喚の魔法を口にすれば、意外なほどあっけなく相棒は現れた。
『久方ぶりです。我が主殿』
「うむ。悪いが、お前の力を使うぞ」
『なんなり……』
言いながら、我が相棒は唐突に黙り込む。
『主よ、私はいったい何に使われるのか確認してもよろしいでしょうか』
「あれを、たたきつぶそうと思う」
『…せめて、切ってください』
「了解した」
長年の相棒の意見は尊重せねばなるまい。
私は相棒を鞘から抜き放つとほぼ同時に黒い悪魔を切り捨てた。
『あと、可能なら洗って頂けるとありがたい』
相棒の言葉に頷き、私は師匠に目を向けた。
「黒い悪魔は無事葬り去ったぞ」
私が微笑んだとたん、彼女は突然白目をむいて気絶した。
「うむ、それほどまでに黒い悪魔が苦手だったのか」
『いえ、そう言うわけではないのでは?』
相棒の言葉を、私は理解できずにいた。




