Episode03 肖像画
魔王様と奥方様の肖像画を城に飾りたいのですが、よろしいでしょうか。
と我が部下が久方ぶりにガレージの床下から出てきたのはある夜のことだった。
少し前まではダイナーの店員として働いて貰っていたのだが、その恐ろしすぎる容姿の所為で客足が減ってしまったため、しかたなく解雇したのは先週のことである。
部下達のなかでも、今私の前にたつ髑髏姿の執事は酷く落胆していたのだが、どうやらウエイターに変わる新しい仕事を見つけたらしい。
「近頃は人間達との関係も良好になってきましたので、城の一部を魔王博物館として開放したいと思っているのです。是非一度中を見てみたいという人間が沢山いますので」
そして執事を中心とした我が部下達取り組んでいるのは、魔王城の改装であるという。
「そこで是非、博物館の入り口に魔王様のお姿をどーんと飾りたいのです」
「別に構わないが、どうせならチビ殿を飾った方が良いのではないか? 私は時代遅れの魔王だ」
「そんなことはございません。なにせ魔王様は世の理をただし、悪しき定めに縛られた我々を解放してくださったお方。今こうして魔王城のカーテンの色や絨毯の模様について好きなだけ考えを巡らせることが出来ているのも、あなた様のお陰なのです」
「カーテンと絨毯の事ばかり考えているのが幸せとは、君は変わっているな」
まあハンバーガーと師匠のことばかり考えている私に言えた言葉ではないが。
「私、こう見えてインテリアと言うやつにはまっているのでございます。正直魔王様と共に戦場をかけたあの懐かしき頃より、今の方が楽しゅうございます」
「ならばいい」
表情筋がないが、いつもより幾分高いその声に嘘は無さそうだった。
「肖像画については師匠に確認を取ろう。彼女が良いというなら、私も許可しよう」
「ならば丁度レプリカがありますので、奥方様にご確認頂きましょう」
いつもより軽やかな足取りで執事が絵を取ってくるのと、師匠が居間にやってきたのはほぼ同時だった。
奥方の絵を飾りたいという話にはとても恥ずかしそうにしていたが、見ても良いと頷くその顔は穏やかだ。うん、反応は悪くない。
「僭越ながら私がこの手で描かせて頂きました。お二人の勇士と愛情表現を織り交ぜ、なおかつ荘厳な雰囲気に仕上げてみたのですがいかがでしょう」
わざわざ赤い布で覆ったその絵画をソファーに立てかけ、彼はコホンと咳払いをする。
「タイトルは暴力、愛情、勝利でございます」
そうして現れたのは、とても躍動的に描かれた師匠と私だった。
「魔王様を力強く殴りつけている姿がとても印象的でしたので、そちらを絵にしてみました。また奥方様の魅力はその強さとたくましさにあると伺っておりましたので、上腕二頭筋の方も実際より三割り増しにしてみましたがいかがでしょう」
私はなかなか悪くないと思った。だが師匠は、何故か怒りのオーラを体中から放出させながら静かに絵に近づいた。
「……却下」
と言う声は低く静かだったが、常日頃から魅力的だと感じている勢いのあるこぶしが絵に巨大な穴を開ける。
「なっななななななな!」
あまりのことにカタカタと顎を上下させる執事。その頭蓋骨を、師匠がガシッと掴んだ。
「悪ぎが無いからって、年頃の乙女をゴリラみたいに描いて良いと思ってるわけ……?」
その声は穏やかにも聞こえたが、執事の頭蓋骨に小さなひびが入った気がした。
こういう時の師匠には何を言っても無駄なので、執事には申し訳ないが私も黙っているほか無い。
「つっ次こそは奥方様が気に入る絵を描きます! だから命だけは! 命だけは!」
「次またこんなふざけた絵を描いたら、割るから」
絶対です。もうヘマはしませんと執事が泣き叫んだ。涙は見えないが、私にはわかる。あれは絶対に泣いている。
けれど結局その1週間後、執事の頭には小さなヒビが増えていた。
それどころか毎週のようにヒビは増えていくので、私はこっそり執事に助言をした。
「……君のデザインセンスは素敵だと思うが、師匠は多分こういう笑顔の方が素敵だぞ」
とこっそり師匠の隠し撮りコレクションの一枚を渡せば、執事は泣くほど喜んだ。
そしてその後完成した絵画を見て、師匠も喜んだ。絵の中の師匠は輝くような美しさだったのだ。
ちなみに私の方は何故か師匠の隠し撮りをしている姿で描かれていたため、背中とカメラしか描かれていなかった。
けれどそれはよく特徴を捉えていたので、私はとても満足した。
とても素敵な魔王と師匠のイラストを頂いたので「絵」をお題に1本書いてみました。
頂いたイラストは、本日よりページ下部に追加しましたweb拍手の方に掲載させて頂いております。
執事の描いた物とは違い凄く素敵ですので、よろしければ是非覗いてみてください。
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