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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王と日常の章 その1
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Episode02 モンスター

 グルメ番組に紹介されてから上り調子だった店の売上げが、最近急に下がり始めた。

 原因は勿論、客足が減ってきたからである。

「ホリデーシーズンも終わったしね。でも常連さんは来てくれてるし、赤字じゃないから良いわよ」

 と師匠は余裕であるが、私にはひとつ気がかりなことがあった。

 客足が減ったのは、どう考えてもこの世界に帰還した直後からなのだ。

 更に細かく思い出すと、勇者殿と入れ替わりに我が部下達がウエイターとして店に立った頃からである。

 師匠は彼らを快く迎えてくれたが、やはり魔の物である彼らを受け入れられぬ者も多いようなのだ。

 店を覗き、ギャーと叫んで逃げていく人を何人も見たのでたぶん間違いがない。

 師匠が愛でているので忘れていたが、我が部下達はみなホラー映画に出てくるモンスターにそっくりな恐ろしい容姿である。

 ジェイソンさんと違って殺意がないので怖くはない。ないけれどもやはり、夜中に突然声をかけられると私でもビックリすることがある。

 常日頃から怖がりすぎだと師匠には言われるが、もしかしたらこれは普通の感覚なのではないだろうか。

 客達の中にもこの手の容姿が怖いと思う者がいるのではないだろうか。

 師匠にまた馬鹿にされるのは嫌だったが、私は意を決しその旨を師匠に伝えてみた。

「彼らが店に迷惑をかけているなら城に戻す。実際客も少なくなったので、私と師匠だけでも店は回せるし」

「でもあいつ等、あんたの役に立ちたいって意気込んでるし」

「城の管理もあるし仕事には事欠かない。私がお願いすれば、彼らも文句は言わぬと思うぞ」

 それに同意するように遠くで成り行きを守っていた部下達が頷いたが、師匠だけは何故だか酷くがっかりした顔をした。

 その顔で私は気付いた。

 師匠はたぶん、彼らを見ながら仕事をするのが楽しいのだろう。

 師匠はモンスター映画が好きだし、特にフランケインシュタイン似のコック長をうっとりする目で見ていることがある。

 その視線があまりに熱っぽいので、自分だけを見て欲しいとこっそり思っていたくらいだ。

「……だったらほら、怖くないようにイメチェンさせてあげれば良いんじゃないかしら。そうすれば逆に店の売りになると思うし」

「ならば人間の姿にするのはどうだろう。皆化身の魔法は使えるし、なかなかのハンサム揃いだぞ」

「それは却下」

 返事のあまりの早さに私は確信した。

「もしかしなくても、師匠はあの者達が今の姿で働くことを望んでいるのか?」

 違うわよとうわずった声に私は確信した。

「気持ちはわかるが師匠らしくないぞ、店の経営に関する事には今まで厳しかったのに」

 私の指摘に師匠が驚いた顔で私を見上げる。

「今後も店を続けていくとしたら問題点は改善した方が良い。父君から受け継いだ大切な店なのだろう?」

「珍しくまともな声で言わないでよ」

 師匠の口から出たのは文句だったが、そのこえに覇気はない。

 それからきっかり5分ほど沈黙があったが、師匠はついに折れた。

「……わかった。店員の件はちゃんと考える」

「本当か?」

「本当はわかってたの、お客さんが逃げた原因はあんたの部下だって事。でも誘惑に勝てなかったというか、長年の夢が叶って浮かれてたというか」

 長年の夢という言葉が気になって尋ねると、彼女はどこか懐かしそうな顔で苦笑する。

「私がホラー映画を好きになったのってね、小さな頃ハロウィンの度にパパや店の人たちがモンスターの格好をしてたからなの」

 小さな師匠が喜ぶので、毎年彼らは恐ろしい格好をしていたのだという。

 師匠にとってそれは最も楽しくて幸せな記憶で、だから寂しくなる度にホラー映画を見てそれを思い出していたというのだ。

「パパの仮装はいつもジェイソンで、おじさんは狼男だったな。他にもミイラとかフランケンとか沢山いて凄く楽しかった」

 だからそのときとよく似た今の状況を、彼女は捨てられなかったのだという。

「そういう事情なら無下に出来ないのもわかる。よく知りもしないですまない」

「いいのよ。それにこういうのは、ハロウィンの時だけだからお客さんも喜ぶのよね」

 そう言う師匠は彼女らしいさっぱりとした笑顔を浮かべていた。

 けれど私はそれがなんだか悲しく見えて、仕事中は抱きつき禁止令を出されていたにもかかわらず、師匠をぎゅっと抱きしめてしまった。

「ハロウィンになったらまた部下達に来て貰おう。それに師匠が望むなら、店が終わった後に彼らとハンバーガーを食べたりお喋りしたりしてもいい」

「いいの? あんたなんかそっちのけで、他のモンスターに抱きついちゃうかもしれないわよ」

「それは嫌だ。……だけど、師匠の寂しさが癒えるなら私は我慢する」

 でも本当に嫌なので可能な限り避けて欲しいというと、師匠は明るく笑った。

「抱きつくのはあんただけ。それに私、あんたのあの悪魔っぽい姿も好きよ」

「あれを愛でるなんて本当に師匠は凄いな」

「だから今度、私だけのために変身してくれたらそれだけで十分」

「師匠が望むがままに」

 そう言って口づけを落とすと、師匠もまた私に口づけを返してくれた。

「あ、でも解雇する前に人間に変身するトコみたい。ハンサムなら、確かにお客さんもふえるかもしれないし」

 ついでに私も嬉しいという師匠に、私は思わず青くなる。

「師匠はハンサムが好きなのか?」

「女の子はみんなそうよ」

 と言うなり我が部下達の所にかけていく師匠。その前で次々変身する部下達に黄色い悲鳴が上がる。

 正直、私はかなり凹んだ。

「魔物の姿ならまだしも、その姿で顔を赤らめるのはとても嫌だ……」

 人間の中に囲まれている師匠はどこか遠い世界の住人のように思えて、酷く心がざわついてしまったのだ。

 しかし怒ることも出来ず動揺のあまりオロオロしていると、唐突に救世主が現れた。

 不意にエプロンの裾を引かて視線を下げると、店の隅で一人ハンバーガーを食べていたはずのチビ殿が、私の前に絵本を押し出していた。

 差し出されていたのは、チビ殿が大好きなクッキーモンスターの本である。

 そこで私は気付く。人でも魔物でもない姿で、なおかつ師匠が興味がない物に変身させればいいのではと。

「人形にしよう、それがいい!」

 叫ぶと同時に魔力を増幅すると、我が部下達はモンスターを模した人形へと変化していく。

 なかなか愛らしいその姿だが、師匠の黄色い悲鳴はなかった。

 代わりにチビ魔王が嬉しそうに駆け出すと、部下達をぎゅっと抱きしめる。

「あの子が一番うわてね」

 楽しそうに人形と戯れるチビ殿に、師匠もこの変身に文句はつけなかった。

 けれど結局、人形が動き回る店というのもそれはそれで不気味だったようで、店員は元のとおり私と師匠の二人だけに収まった。

 少しだけ寂しくなった気もしたが、師匠が私だけを見てくれるのは凄く嬉しかった。

【お題元】

「師匠のホラー映画好きには理由があるのでしょうか?」

「魔王の部下達がお店に立っても大丈夫でしょうか?お客さん減りそうですよね!(でもちょっと覗いてみたい!)」


オーダーと質問、本当にありがとうございました。

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