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魔王はハンバーガーがお好き  作者: 28号
魔王と勇者と恋の章
62/102

Episode56 グルメ

 ここ1週間ほど師匠の機嫌は酷く良かった。

 理由はひとつ、うちの店がグルメ番組で紹介されたのだ。

 お陰で客も増え、ここ1週間ほどは師匠が悲鳴を上げるほどの忙しさだった。

「凄く美味しかったよ、ごちそうさま!」

 そしてお客さんたちは、口々にそう言って帰っていく。美味しいという言葉はいつも聞くが、やはりこんなに多くのお客さんに言われるのはまた格別だ。

 その上客たちはチップも沢山くれるから、私の小遣いもずいぶんと増えた。

「忙しいが、良い収入だ」

 ある晩、私と勇者殿が一緒にチップを数えていると、勇者殿が手持ちの1ドル札を頬ずりしながらそう言った。

 お金を数えているときの勇者殿は本当に幸せそうで、見ているこっちまで嬉しくなる。

「この世界に来てずいぶんになるが、こんなにたくさんの金を貰ったのは私も初めてだ」

「給料は貰っていないのか?」

「ああ。くれるというのだが、貰っていない」

 チップも貰えるし、何より師匠の側にいられれば他に欲しい物はない。

 プラモデルなどは師匠の父上の物があるし、服などはチャーリーのお下がりもらえる。

 丈が足りないのでズボンだけは買わねばならないが、魔王でいた頃と違いここでは戦闘行為もないので替えの服はそんなにいらない。

「お前は本当に欲がないな」

 勇者はそう言うと、貯まったチップに目を落とす。

「勇者殿は何か欲しい物があるのか?」

 もしかしてケリーに贈り物でもするのかと思ったのだが、何故だか勇者殿は悲しそうに笑った。

「したいのは山々だが、ちょっと金を貯める必要があるかもしれんのだ」

 そういうと、勇者は躊躇いがちに言葉を続ける。

「そう言えばお前さん、自分が死んだときの事を覚えているか?」

「あまり詳しくは覚えていない」

 正直に答えると、勇者は何かを言いかけて、それから「何でもない」と言葉を濁した。

 その表情は真剣で、そして彼が必要としている物と何か関係がある気がした私は、持っていたチップを彼に差し出す。

「欲しい物があるなら 私のチップを使ってくれ」

「お前、なぜそこまでする」

「貴方が困っているように見えたからだ」

 それ以外に理由など無いというと、勇者は真剣な表情を崩し、チップを差し戻した。

「いらん世話だ。それにお前こそ、あの子に何か買ったらどうだ」

「誕生日でもクリスマスでもないのにいいのか?」

「好きな女には貢いで貢いで貢ぐ。…と言うのが、私達の世界でのルールだったぞ」

 ならば是非贈り物をしたい所である。

 師匠から好きという気持ちを頂いたまま、私は未だ何もお返しが出来ていなかったのだ。

「しかし何が良いだろう」

「どれくらいたまっているんだ?」

「前からの貯金を合わせると200ドルくらいはある」

 意外にたまっているなと勇者が驚く。

「なら指輪だ。指輪を買え」

「でも師匠は料理人だし、指輪は邪魔ではないだろうか」

 それに200ドルでは師匠がほしがっているような、宝石がついた物は買えない。

 だがそれを告げても、勇者殿は主張を曲げなかった。

「私もドラマで見ただけだが、この世界では親しい女性に指輪を贈るのが礼儀なのだ。それも薬指にはめる指輪だ」

「薬指か」

「左手の薬指だぞ、忘れるな」

 その顔があまりに真剣だったので、私は翌日指輪を買いに出かけた。

 丁度2つセットの物が安く売られていたのでそれを買って帰ると、師匠が物凄く驚いた。

「とりあえず、こっちの奴は左手の薬指にはめてくれ。太い方は何処の指でも良いが」

「じゃああんたの薬指にはめて」

「でも師匠に買ってきた物だぞ」

「良いからはめて」

 それ以外は許さないというので薬指にはめると、それは丁度良いサイズだった。

 それを師匠はとても喜び、グルメ番組に紹介された時以上に彼女に機嫌は良かった。

 あの師匠をここまで大喜びさせる案を持っていたとは、やはり勇者殿は凄い。

 これは是非お礼をせねばと思い、私はその夜、余ったお小遣いを勇者殿が大切にしている豚の貯金箱にいれた。

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